文鳥の夢
「またちゃんと閉まってないね。」
「そうだね、簡単に開きそうだね。」
白文鳥のピピは扉の前まで行きくちばしでトントンと2回つついた。
扉は外側にカチャンと開いた。
ピピは近くの窓枠まで飛んだ。
桜文鳥のリリも続いた。
「めずらしく少し開いてるね。」
「そうだね、開いてるね。大きい鳥や虫が入ってこないか心配だね。」
並んで外の世界をしばらく眺めた。
リリはピピが何を考えているかわかっていた。そしてそれを言葉にして欲しくないな、と思っていた。もう戻ろう、と声をかけようとした時、
「次のチャンスがいつ来るかわからないから今日僕は行くよ。」
ピピが空を見上げながら言った。
「どうして、なんのために行くの?いつも美味しいごはん食べて、美味しい水飲んで、みつくんの周りを飛んだり、水遊びしたり、こんなに楽しいのに。」
「うん、ほんとに毎日楽しいよ。この部屋も好きだし、みつくんのことも好きだし、君のことも大好きだよ。でもほら見て。」
ピピが見上げる先には、高い高い空を飛ぶとんびの姿があった。
「二度と戻ってこれないかもしれないよ。それでもいいの?」
「んーそれはちょっと嫌だな。あ、ほら風!気持ちいいね。」
ピピの頬の羽がふわっと揺れた。
「それじゃぁ行くね。」
そう言うとピピはリリの首元を毛づくろいした。
リリはもう何を言っても無駄なのはわかっていた。最後かもしれないこの時間を大切にするために黙っていた。
ピピが空を見上げた。
「ちょっと待って。そんなんじゃ上手く風をとらえられないよ。」
リリはゆっくりと丁寧に毛づくろいをしてあげた。
ピピは窓のレールにカチャカチャと足をかけると前傾姿勢になった。
そよぐ風が羽の中に空気を入れた瞬間離陸した。
リリはピピのたどたどしい飛行を見守った。その後ろ姿は小さくなっていく。
さみしかった。部屋が広く感じた。急に寒くなった気がした。
しばらくすると左からの少し強めの風にあおられてピピはバランスをくずした。
カチャカチャ
リリは飛んだ。一直線にピピのもとへ。