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不運からの最強男  作者: フクフク
ダンジョン編
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アーベル一家の奮闘_09



 子供たちを退室させ、ギルベルトたちは改めて席に腰を掛けた。


「さて本題に入りますか」


 ヴィリバルトの合図で、ギルベルトが口を開く。


「バルシュミーデ伯爵、貴殿は」

「エトムントに家督が移りましたか」


 想定の範囲だったのだろう、ギルベルトが話すよりも先に自身の進退について追及した。


「まだ正式ではない情報ですが、ご子息のエトムント殿が、このたびの貴国の反乱で率先して反乱軍と戦い、バルシュミーデ伯爵とは無関係であることを示したようです」

「私の潔白より先に一族の存続を考えたのでしょう。エトムントは、おそらく背景にも気づいております。自慢の息子です」


 バルシュミーデ伯爵は腕を組みながら、当然といった態度をとった。


「早急に連絡を取りますか」

「いや、時期尚早。首謀者を洗い出すほうが先ですな」


 ギルベルトの提案に、バルシュミーデ伯爵は少し考えたそぶりを見せるが断った。


「わかりました。心あたりがあるのですね」

「第一王子トビアス様の腰巾着、ビーガー侯爵が有力ですな。ダニエラを派遣したのも侯爵ですしな」

「それだけでは判断しかねます」


 ギルベルトが、はっきりと言った。ふたりの視線が激しくぶつかり合う。

 先に視線をはずしたのはバルシュミーデ伯爵だった。

 彼は目を閉じると、静かにエスタニア王国の内情を話しだした。


「ご存じの通り、エスタニア王国の王太子は、第三王子であるマティアス様です。王位継承権は、第三王子マティアス様、第一王子トビアス様、第二王子エリーアス様、そして第三王女ディアーナ様です。我が国は特例がない限り、正妃のお子様の男児に第一王位継承権が与えられます。ただ王太子であるマティアス様はまだ十二歳。トビアス様は、マティアス様がご誕生になる前まで、王太子として教育をされていました」


 ギルベルトが「なるほど」と相づちを打つ。

 バルシュミーデ伯爵は続ける。


「そもそもトビアス様の母上である第一側室のエレオノーラ様は、もともとは正妃でした。しかし王がブルーム公爵のご令嬢であったシャルロッテ様を見初められたため、正妃がシャルロッテ様に移ったのです」

「また厄介だね」


 ヴィリバルトが、少しあきれたと言わんばかりの態度でそう言うと、ギルベルトに視線を移した。

 ギルベルトは黙ってうなずいた。


「えぇ、それだけであればよかったのですが……非公式ですが、王は病に臥せっておられます」


 バルシュミーデ伯爵は意を決した様子で、機密事項を口にした。

 しばらく沈黙が続いた。


「だがなぜ、王太子ではなく継承権の低い第三王女に手を出す必要があるのだ」


 ギルベルトの疑問に、バルシュミーデ伯爵はさらなる爆弾を落とす。


「ディアーナ様の先祖返りです。正式な第一王位継承権はディアーナ様にあります」


 その爆弾発言に、ギルベルトたちは表情を変えることもなく、ただバルシュミーデ伯爵を見た。

 真意を問うその姿勢に、バルシュミーデ伯爵はうなずいた。


「エスタニア王家には、亜人の血が入っております。王位継承権には特例があり、先祖返りした王族が王になるといったものです。代々王家は、その特例を死守してきました。私も詳しくは知りませんが不変の条約だと聞いています。しかし、王はディアーナ様に王位を継がせるおつもりはなく、特例である先祖返りを公表されませんでした。ディアーナ様の先祖返りはごく一部の者しか知りません。また民は王家の秘密を知りません」


 バルシュミーデ伯爵の話を聞いたヴィリバルトは、いくつかの質問をし始めた。


「なるほどね。気になる点は多いけど、まず伯爵はその王家の秘密をどうして知っているの」

「先代の王が逝去される直前、先王から秘密を明かされました。現王を支えてほしいと。私を含めると王家の秘密を知る者ものは、数人しかおりません」

「ビーガー侯爵も王家の秘密を知っている?」

「おそらく。秘密を共有している人物の中に名はないが、情報が漏れたと考えたほうがいい」

「ビーガー侯爵が黒幕だとすると単純すぎないかい。私はほかに首謀者がいると考えるよ」

「経済力、権力、実力を兼ね備えているのは、あの男だけです」

「へぇー、伯爵がそこまで警戒するビーガー侯爵にぜひ会いたいな」

「ヴィリバルト」


 ヴィリバルトの悪い癖が出始めたので、ギルベルトがいさめた。


「だけど兄さん、彼女たちを助けるならこの問題は解決しないといけないよ。ジークのためにもね」

「わかっている。一度、王に報告する。バルシュミーデ伯爵、よろしいですね」

「我が国の問題を解決するのに他国に協力してもらうとは……」


 バルシュミーデ伯爵は天を仰ぐ。その姿にギルベルトたちは同情した。

 しかし他国を巻き込んだ内乱がもう始まっている。

 決意を新たにしたバルシュミーデ伯爵と、心強い味方となったアーベル侯爵家との話し合いは、深夜まで続いた。



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