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不運からの最強男  作者: フクフク
ダンジョン編
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アーベル一家の奮闘_06



 ギルベルトは古びた一軒の店の前で足を止めると、ギッギギーと扉を開け中に入っていく。

 年季が入った扉だが、細かな装飾がされており、よくよく目を凝らすと装飾と見せかけ魔法陣が描かれている。


「『選択』の魔法陣ね! 悪意あるものを排除する仕様ね! 面白いわ!」

「『選択』? 聞いたことがないな。無属性の魔法かな」

「フフフ、わたしは使用しているところを見たことがあるわよ! 昔ね、ヴィリバルトが使ったの!」


 自慢げなフラウをよそに、父が会いに来た人物は、叔父とも親しいのかと、この魔法陣はおそらく叔父が関係している。

 防犯のためか、叔父や父が協力する人物である。今後長い付き合いになるとテオバルトは悟りながら、店内へ足を踏み入れた。

 店内に入ると、外観とは異なる色鮮やかな魔道具が並べられていた。その一つ々が美しく、高い技術力が垣間見える。

「すごい」と、テオバルトは思わず感嘆の声をあげる。

 その横のフラウは翠の瞳を輝かせ「きれいね!」と、魔道具が並べている棚へ吸い込まれるように近づいていった。

 すると店内の入口が静かに開き、顎髭を長く生やした小人のような男が現れた。

 ドワーフだ。

 亜人の中でも生産技術力の高い彼らは国に重宝されている。寿命が長い彼らだが、繁殖能力は低く、近年徐々に数が減り、実物のドワーフを見るのは、テオバルトも初見であった。

 ドワーフの男は、ギルベルトの姿を捉えると、小さな背丈をピンと伸ばし、少しうわずった声で挨拶をした。


「ギルベルト殿、久し振りですな!」

「ボフール、久しいな。息災か」

「ええ、お陰様で妻子ともども元気にしておりますがな」

「そうか、それはよかった」


 ギルベルトの砕けた口調に、二人が親しい間柄だと、テオバルトは悟った。


「今日は……おぉーーなんとめずらしい。精霊殿が顕現しているとは!」


 ボフールの言葉に、魔道具の美しさに見惚れていたフラウはギョッとした顔をして、慌てて言葉を繋ぐ。


「なっ何言ってるの!? わっ私は人間よ! 精霊なんかじゃないわ!」

「フラウ、落ち着いて大丈夫だよ」


 動揺するフラウをテオバルトが制し、肩にそっと手を置く。

 テオバルトもボフールの言葉に驚きはしたが、やはりとの確信とギルベルトが落ち着いているため、大丈夫だと自身にも言い聞かせる。


「精霊殿、我々ドワーフの祖は妖精です。顕現した精霊殿の気配に気づかぬわけがありません。失礼ですが精霊殿は、精霊の中でも上位で在らされますな。しかし若輩。力の制御が難しいようですな。顕現したにしてもそのような強い気配では、我々ドワーフ以外でも気づいた者がいるでしょう」


 ボフールの説明を聞き、ギルベルトが質問する。


「ボフール、亜人は精霊に気づくものなのか」

「種族により異なりますな。全ての亜人が精霊に気づくことはありません。我々ドワーフは別ですがな」

「そうか」


 ギルベルトの返答に、ボフールは険しい表情を浮かべる。


「ギルベルト殿、この町は亜人が多い。気づいた者もいるでしょう。ただ精霊殿を害するような者はいませんと、はっきりと申したいのは山々ですが、気をつけなされ、八十年前の悲劇を起こさないためにも」

「わかっている」


 ボフールの注意喚起に、ギルベルトは深く頷く。

 フラウが精霊ではないと否定することもなく、安易に認めるような発言をギルベルトはした。

 当の本人は、精霊だとばれたとムンクの表情で固まっているが、ボフールとギルベルトは気にせず話を続ける。

 あとでフォローしようと、テオバルトは固まったままのフラウを放置することにした。


「さてさて、今日はわざわざ何用ですかな」

「あぁ、実は魔道具の修復を頼みたいのだ」

「修復ですとな」


 ボフールはギルベルトの手元を見るが、修復する魔道具を所持していない。

 はてと後ろも確認するが、誰も所持してないようである。顎髭を一撫でしてギルベルトを見る。


「すまん。実物は今手元にない。明日か明後日にでも届ける予定だ。姿見を認識阻害させる物らしい。ヴィリバルトの見分では、かなり高度な技術が使用されているようだ」

「ふむ。ヴィリバルト殿が高度な技術と、現物を見てみないと判断できかねますな」


 ボフールの言い分はもっともだ。

 ギルベルトは心得ているように頷き、両の手を挙げた。


「ボフールに修復が難しいようであれば、お手上げだと言っていたからな」

「ガハハハ。そこまで評価されると技術者としては鼻が高いですな!」

「私もそうだが、ボフールほどの技術を我々は知らない。他にも依頼があると思うが、最優先で修復を願いたい」


 ギルベルトが頭を下げた。

 その姿にテオバルトも驚いたが、頭を下げられたボフールも戸惑っているようだ。


「ふむ。めずらしいですな。誠実なギルベルト殿が……何か事情があるのでしょう。わかりました。届き次第、最優先で対応しましょう」

「恩にきる」

「何をおっしゃいますかな。これぐらいのことで恩をきられると、ギルベルト殿にどれだけ恩ができると思いますがな。幸い今の仕事は納期が先の物ばかりですがな。気にせんでもいいです」

「頼んだ」

「はい。お任せ下さい」


 了承の頭を下げた後、ボフールはテオバルトとハクを見て、ギルベルトに問う。


「ご子息と魔獣ですかな」

「あぁ、紹介が遅れたな。次男のテオバルトと、我が家で飼っているブラックキャットの変異種のハクだ」

「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。テオバルト・フォン・アーベルです」

「ガゥ!(ハクだ!)」


 ギルベルトに紹介され、テオバルトとハクは挨拶をする。


「これはご丁寧に。ドワーフのボフールです。お父上には大変お世話になりましてな。何か所用がありましたらなんなりと申しつけてくださいな。とは言っても、魔道具作りしかできないですがな」

「素晴らしい魔道具です! ご依頼していいのですか!」


 テオバルトはいつになく興奮した。

 ギルベルトやヴィリバルトが愛用している魔道具類は、王都ではどこの店にも置いておらず、入手場所が不明だった。

 大半がヴィリバルトが作成しているのかと思ってはいたが、ボフールだったのだ。

 テオバルトも冒険者として活躍している際、高性能な魔道具の有り難さを身に染みて感じていた。

 市販の魔道具を一度でも使用すればその差は歴然であり、ギルベルトから譲り受けた魔道具は、文句なく一流品である。

 度々ニコライから譲ってくれと懇願されていた。


 魔導職人の多くは、国や魔道具ギルドに所属する。

 一般的に流通している魔道具は、可もなく不可もなくといったところで、丈夫さは当たり外れがある。

 しかも高額のため、購入後すぐに壊れ、泣いている冒険者を目にしたことは多い。

 稀に一流の魔道具が紛れている場合がある。これは個人依頼でしか魔道具を作成しない魔導職人達が、在庫処理で流した物がほとんどである。

 ただ例外はある。魔法都市国家リンネだ。

 リンネ製の魔道具は、一定の水準で管理されており、高品質ではあるが、リンネ内しか流通されておらず、国内で手に入れることはできない。

 魔道具事情は色々と厳しいのが我が国での現状なのだ。


 ボフールは、個人依頼のみの魔導職人だ。しかも一流の魔導職人である。

 一流の魔導職人達のほとんどは、個人依頼のみで所在が不明だ。

 所在が分かっても、職人気質な性格が多い彼らは、顧客にも五月蠅く、相手が気に入らなければ、魔道具を作成してくれない。

 王都にも一人、魔道具作成で有名な人物はいるが、ほぼ王族の依頼しかしない。

 王族の中でも依頼許可が下りない人物もいるそうで、またS級の冒険者が依頼をしに訪れたが、門前払いだったとの噂だ。

 その一流の魔導職人から、個人依頼の許可がでたのだ。興奮せずにはいられない。


「テオバルト、落ち着きなさい。ボフールは、私の知る限り一番腕のいい魔道具職人だ。今後、役に立つ魔道具を作成してくれるだろう」

「父様、紹介頂きありがとうございます。ボフール殿、今後、宜しくお願いします」

「ガハハハ。褒め上手ですな!」


 ギルベルトは興奮する息子に声をかけるが、その喜びように連れてきて正解だったと感じた。

 テオバルトには何かと不便をかけているのだ。多少なりとも息抜きをさせてやらないと、テオバルトが壊れてしまう。

 子供たちには、最高の環境を与えてやりたいと親心ながら思うのだ。


「ボフール、あと二人の息子もお願いしたい」

「ギルベルド殿のご子息の依頼は受けますがな!」

「有難い。一人はハクの飼い主で、末の息子のジークベルトだ。魔道具の修復依頼で顔を合わせることとなるはずだ」

「末のご子息とは、リア殿の面影があると聞いてますがな」

「あぁ、リアにとても似ている」


 ここ最近、屋敷内でも滅多に表情を変えなかったギルベルトが、とても穏やかな顔で答え、ハクの頭に手をポンと置く。

 ジークベルトの名前が出たため、ハクは嬉しそうに尻尾をピンと伸ばした。


「ガハハハ。好かれておりますな! 会うのが楽しみですな」

「ボフールは気に入ると思うぞ。ただ依頼された魔道具は随時報告をしてくれ」


 ギルベルトの真剣な表情に、ボフールが顎髭を一撫でする。


「ほーそれは過保護なことですな」

「ジークベルトはまだ幼い。何かあってからでは遅いのだ」

「幼子が依頼する魔道具などしれておりますがな」


 ボフールはあえて子供であることを強調してみた。

 それに続くギルベルトの応えに期待する。


「ボフール、会えばわかる」

「ますます会うのが楽しみですな!」


 店内にボフールの笑い声が響いた。 



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