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不運からの最強男  作者: フクフク
ダンジョン編
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アーベル一家の奮闘_02



 魔術団員がアーベル家を後にした応接室内では、興奮状態のマリアンネを宥めるテオバルトがいた。


「マリー姉様、落ち着いて」

「落ち着いていられないわ! ジークが魔術団内で消えたってどういことなの!」

「ヴィリー叔父さんも、一緒に消えたんだよ。だから大丈夫だよ」

「一緒に消えたからといって、二人が一緒にいる証拠がどこにあるの! そんなことわからないわ! もう、こんな大事になるなら躊躇せず『追跡』の魔道具を渡せばよかった」


 廊下まで聞こえる二人の会話、そこに侍女に伴われたハクが入室してきた。

 二人の会話の内容をハクは、反芻する。


 ジークベルトが消えた……? ジークベルトが消えた? ジークベルトが消えた!?


「ガウッ!(ジークベルトは、いまどこにいるの!)」


 ハクの乱入に二人は驚き会話を止めると、テオバルトがハクのそばにより、安心させるような仕草でハクの頭をなでる。


「ハク、大丈夫だよ」

「ガウ、ガゥ、ガウッ?(大丈夫ってなに? ジークベルトはどこ? ジークベルトが消えたってなに?)」


 テオバルトは、ハクがジークベルトを心配していることは読み取るが、これほどまでに興奮したハクを見るのは初めてだった。

 どう接すればいいか対応に困ってしまう。下手に接すれば、ジークベルトを探しに屋敷から抜け出しそうな勢いだった。

 ふとハクのそばにいた侍女と目が合った。

 あぁー、もう抜け出そうとしたのかと、状況を把握し、どう説得すればいいのだと匙を投げかけた。

 脳裏にあまり関わりたくないが、小さな妖精を思い浮かべた。


 ハクは、テオバルトの返事を待っていたが、一向にテオバルトは話さない。

 やはりハクがジークベルトを探しに行くしかない! と決断し、応接室から出ようと方向転換しようとした。

 するとどこからともなく『ハク』とジークベルトの声が聞こえた。


「ガウッ?(ジークベルト?)」


 応接室を見回すが、姿はない。

 気のせい? 再び動こうとするとまた『ハク』と聞こえる。


「ガウッ?(ジークベルト?)」


 再び見回すが、やはり姿はない。ハクは小首を傾げる。

 その仕草を見たマリアンネは、ハクが寂しさのあまり、虚無に話しかけ、ジークベルトを想い鳴いているのだと思った。

 胸が締めつけられる。まだ幼い魔獣の赤子が、これほど嘆いているのだ。

 マリアンネは決断する。


「テオ! すぐに屋敷を出てジークベルトを探します」

「えっ? どうして急に!?」

「ハクが可哀想過ぎます」

「いやいや待って! 父様の帰りを待ってください」


 テオバルトは必死にマリアンネを止める。

 侍女たちに目配せし、アンナとハンスへ報告に行かせた。

 父様、すぐに帰ってきてください。僕、一人ではマリー姉様はもう説得できません!!と、自分の不甲斐なさに内心苦笑いした。


 ハクは二人の状況を気にも留めず『ハク』と、ずっーと聞こえるジークベルトの声を考えていた。

 ジークベルトの声は、マリアンネたちの様子からして、ハクにだけ聞こえると考えた。

 ハクにだけ聞こえる……心の声!!

 この声に返事をするには、ハクも心で話せばいいのではないか。

 集中して想いをのせて『ジークベルト!!』と心の中で叫んでみると『ハク聞こえるかい!』と、ジークベルトの応答があった。


 ジークベルトとの念話を終えたハクは、項垂れた。

 ジークベルトは、ヴィリバルトと一緒にダンジョンにいる。

 無事だったのは嬉しかったが、すぐに帰れる状況ではないようだ。

 ハクも一緒に行きたいと伝えたが、ここで待っていて欲しいとお願いされた。

 ジークベルトのお願いは、ハクにとっては絶対だ。

 だけど、ジークベルトがいないのは、寂しい。


 ハクの耳がシュンと下がり、尻尾がお尻にまとわり付いている姿に、テオバルトが気づく。

 その変化に戸惑うテオバルト。

 えぇーーと……。先ほどまでは、ジークベルトを探すんだ! と、興奮状態だったのに、この短期間での落ち込みよう。いったいなにがあったんだ。

 えっ、もう泣きそうなぐらい落ち込んでいるじゃないか。

 えっ、これどうするんだ? どうすればいいんだジークベルト!!

 テオバルトの心の叫びは、虚しく響きわたるのだった。




***




 その夜、帰宅したギルベルトは、マリアンネに説明という名の説得を終えた後、アルベルトとテオバルトを執務室へ呼び出した。


「ジークベルトは、ヴィリバルトと一緒に、コアンの下級ダンジョン十七階にいる」

「父上、それはどういうことですか?」


 アルベルトが、詳細な情報を掴んでいる様子のギルベルトに問うた。


「本日、ジークベルトは、ヴィリバルトに魔法砂を貰うため、魔術団を訪れた。『移動石』の研究中に作業が失敗。その時たまたま訪れたジークベルトが巻き込まれたそうだ」


 その説明を受けた二人は、しばらく沈黙する。

 すると、なにかに気づいたテオバルトが、言葉を発した。


「父様、ダンジョン内は転移ができないはずです」

「テオバルトの言う通り、ダンジョン内は転移ができないのだ。だが今回はできた。ヴィリバルトの報告では、魔法の暴走も考えられるが、ダンジョン内に転移できる手段があるかもしれないとのことだ」

「その手段がわかれば、冒険者も楽になりますね」

「そうだな……」


 ギルベルトは、テオバルトの率直な意見に同意するものの、王都を指定していた『移動石』が、コアンの下級ダンジョン内に転移した。これが指す理由、暗躍している人物がいる可能性が高いと危惧した。

 思い過ごしだといいんだが、こういった勘は大抵当たるのだ。

 今回は、はずれてくれと願い、目の前の二人の息子と、弟と一緒にいるもう一人の息子を想った。


「父上、コアンの下級ダンジョンは二十五階層ですが、広大です。叔父上はこのダンジョンの経験は?」

「ない。そのため踏破することにしたそうだ」

「その判断が妥当ですね。叔父上の『索敵』は広範囲ですから一週間以内には、踏破できるでしょう。もちろん戦闘は叔父上の単独ですよね」


 ジークベルトの居場所がわかり、安堵したアルベルトは饒舌に語る。

 それをギルベルトが否定した。


「いや、ジークベルトが主動だ」

「「!!」」

「叔父上は何を考えているのです! ジークはまだ七歳です。そのような危ない真似許せません!」


 興奮したアルベルトが、執務室のテーブルをドンと叩いた。

 普段見せないその様子に、長男は末弟が余程大切なようだと、ギルベルトは苦笑いする。


「アルベルト落ち着け。ジークベルトの強さは、お前たちも認識しているだろう」

「「はい」」

「コアンの下級ダンジョンは、ボスがBランクだ。各階層の魔物はCランク以下となる。レベルを一気に上げ、ジークベルトの強さを隠蔽するいい機会だと考えている」

「しかし、父上……」

「心配しなくとも、ヴィリバルトがいる」


 その名前を耳にしたアルベルトは、一気に冷静になった。

 ギルベルトとヴィリバルトの思惑を理解し、ジークベルトを危険に曝すが今後のことを考えればレベル上げには賛成だ。

 しかも『赤の魔術師』が一緒なのだ。ほぼ無傷のジークベルトが想像できた。

 色々と葛藤した結果、最善はジークベルトのレベル上げであるとの結論に至る。


「それにしても父上と叔父上はどのようにして連絡を取っているんですか」


 アルベルトの素朴な疑問に、ギルベルトとテオバルトの動きが止まる。

 ダンジョン内は外部への『報告』魔法が使えない。普通に考えればそう思うのは当然である。

 若干視線を逸らしながら、ギルバルトは答えた。


「それは……ヴィリバルトに許可をえれば、お前にも紹介しよう」

「紹介ですか?」

「いや……、教えよう」

「アル兄さん、世の中には知らないほうが幸せってこともあると思うんです」

「テオ、急にどうした?」

「いえ、なんでもありません」


 微妙な空気が執務室を包む。

 アルベルトは、地雷を踏んだのかもしれないと思った。

 連絡手段を聞いただけなのに、明らかにギルベルトの態度が一変したのだ。

 ギッギギーと、効果音がつくぐらい鈍い動きで自分を見て、意図して視線を逸らしたのだ。

 そして、なぜかテオも動揺している。

 言いようもない不安が襲う。なぜだろう。これ以上追及してはいけないと本能が察知している。

「やっぱりいいです」と言えないまま、その日は解散となった。

 後にアルベルトは「あの時、拒否しておけばよかった」と、眉間に皺を寄せることとなる。



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