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不運からの最強男  作者: フクフク
ダンジョン編
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地上へ_03



 両手に花。

 男なら一度は憧れるシュチュエーションだとは思う。

 だけど、俺は冷や汗が止まらない。色々と考えてしまうのだ。

 背景とかを……。もちろん居心地が悪いのではない。

 それに彼女たちの要望を無下にできるほど、俺は鬼でもない。

 二人は俺を間に挟んで、一見楽しく会話が弾んでいるようにみえるが、言葉の端々に緊張がうかがえた。

 おそらく、あまりにも重度な警戒態勢に、何かがあったのだと察し、不安から心を守るために、俺にすがったのだと思う。

 背景とかを考えなければ、俺は役得なのだけど……。


 コンコン。

 扉のノックの音とともに父上たちが部屋に入ってきた。

 俺たちの姿を見た叔父が冷やかしてくるが、その声色は優しい。


「三人は仲良しだね。ジークは、これから大変だね。ねぇ兄さん」

「ジークベルトは、上手くやるだろう」

「そうだね。さて、さっさと本題を片づけよう。私は休みたいしね」


 父上が大きく頷きながらそれを肯定すると、叔父が父上たちをソファに誘導する。

 その様子をみたエマが急に立ち上がると、ソファの後ろに行こうとしたため、俺はエマの手を力強く引っ張り、無理矢理ソファに座らせた。

 俺の行動に困惑したエマが「ジークベルト様、私は侍女なので立たなければ」と、慌てているが無視だ。

 その様子に叔父が、安心させるように伝える。


「エマ、気にしなくても身内(・・)だけだから大丈夫だよ」

「しかし……アーベル様」


 なおも拒否しようとするエマに、王女が命令した。


「エマ、座っていなさい」

「はい。姫様」


 王女の命令に、エマは即座に反応し従う。

 二人の主従関係が、垣間見れた瞬間だった。

 俺たちの正面に、叔父と父上が座り、王女の斜め横に伯爵が座った。

 ハクは大事な話合いをすると察したようで、邪魔にならないよう部屋の隅で寝そべった。

 全員が着席したのを確認すると、父上が叔父の名を呼ぶ。


「ヴィリバルト」

「はい兄さん『遮断』」

「これで外部からの盗聴は防げます。挨拶が遅れて申し訳ない。私はマンジェスタ王国、第一騎士団団長ギルベルト・フォン・アーベルです。エスタニア王国、第三王女殿下ディアーナ様とお見受けいたします」

「はい。エスタニア王国、第三王女ディアーナ・フォン・エスタニアと申します」

「パスカル・フォン・バルシュミーデです」


 父上の挨拶を皮切りに、建前上の簡易的な自己紹介をする。

 自己紹介の際、王女は身を包んでいたマントを外すと、白い耳を父上に見せた。

 父上は、視線に一度耳を移すが、すぐに正面を見据え話を続ける。


「お預かりした騎士は、我が騎士団の聖魔術師にて治療を施しています。順調に回復しているため、後遺症もなく明日には目覚めるとのことです」

「それはよかった。エスタニア王国の王女として、第一騎士団に敬意と感謝を申し上げます。ありがとうございます」


 王女が深々と頭を下げる。それに続き、伯爵とエマも頭を下げた。

 カミルの状態が快方に向かっていると聞き、俺もホッと軽く息を吐いた。

 心臓付近を深く刺されていたため、今後の騎士活動に制限がかかるのではないかと思っていたのだ。

 場の雰囲気が少し明るくなったのも束の間、父上が重い口調で切り出した。


「残念なお知らせがあります。貴殿らがコアンダンジョンにいる間に、エスタニア王国内で反乱が起こりました」

「「「」」」

「なんですと!」


 伯爵がバンッと机を叩き、立ち上がる。

 王女とエマは、突然の事態に目を見開き、固まっている。

 父上は王女たちの反応を観察しつつ、はっきりと告げる。


「反乱の首謀者は、第三王女ディアーナ・フォン・エスタニアとのことです」

「「「「!!」」」」


 その言葉に、伯爵はドカッと椅子に座ると両手を組み、ギラついた目で父上に問う。


「アーベル侯爵、その話は誠であるな」

「えぇ、バルシュミーデ伯爵、貴殿の名も副官としてありました。当初は不意打ちなどもあり反乱軍が有利でしたが、一週間も経たずして、反乱軍が不利となり、最後はあっけなく王国軍に軍配が上がりました。捕虜となった反乱軍のほとんどが雇われた冒険者と奴隷だったようです。各国に通達が届いています。逃亡した第三王女以下を捕まえ、エスタニア王国へ帰国させるようにと」


 繋いでいた王女とエマの手に力が入る。

 俺は二人を落ち着かせるため、強く握り返し、二人それぞれと目を合わせる。

 急な展開で俺も驚いたが、父上と叔父がこの場を設けたということは、悪いことにはならない。

 もし捕まえるなら、このような手間はかけない。

 俺が父上たちの行動を確信していると、すぐにその答えが出る。


「マンジェスタ王国は、貴殿らを保護します」

「保護? 捕縛ではなく?」


 伯爵が鋭い視線で疑問を言葉にすると、父上がそれに応えた。


「弟より、貴殿らとダンジョン内で一緒に行動していると事前に情報をえていました。反乱が起きたのは、弟たちと一緒に行動をした数日後。コアンの下級ダンジョンにいる貴殿らが、何らかの方法でエスタニア王国に戻り、反乱を起こすなんて器用な真似、私はしたくもありませんし、ジークベルトが発見しなければ、亡くなっていたとの報告も受けています」

「その通りですな。姫様を守るどころか、命の危険にさらしました。騎士としてお恥ずかしい。ジークベルト殿には感謝してもしきれない大恩ができました」


 自嘲めいた言葉を口にした伯爵は、俺に向け深く頭を下げた。

 伯爵の纏っていた威圧が少し軽減する。

 父上が言葉をつなげる。


「エスタニア王国内でも、反乱軍にディアーナ王女やバルシュミーデ伯爵の姿がないため、他に真の首謀者がいるのではないかと怪しんでいるようです。我が国は貴殿らを保護し、反乱を首謀することはできない状況だと報告し、潔白を証明させましょう」

「有難い話ですが、なぜそこまで手厚くしていただけるのですかな?」


 伯爵の疑問は筋が通っている。

 他国の厄介事を引き受け、すべてを解決すると言っているのだ。

 俺でも疑問に思う。


「伯爵、我々も打算がないわけではありませんよ。ダンジョン内に転移した『移動石』、コールスパイダーの変異種に関しての情報収集に協力して頂きますよ。また伯爵のように力のある方が、なぜ繭内から抜け出せなくなったかも含めてね。研究材料が増えて私は嬉しいですけどね」

「今の弟の提案だけであれば、わざわざ面倒な案件に首を突っ込まず本国へ送還させますが、ジークベルトが大変お世話になったようですしね。アーベル家が貴殿らを守りましょう」

「「「!」」」


 父上のその発言で、アーベル家以外の全員の視線が俺に向かう。

 王女が繋いでいた俺の手を胸に寄せ両手で握った。

 金の瞳は若干濡れているようだ。


「ジークベルト様、ありがとうございます」

「いや、俺は何もしてないよ」

「いえ、いいえ、ジークベルト様と出会えたことを神に感謝します」


 戸惑う俺をよそに、父上たちは微笑ましいものを見るかのように沈黙している。

 俺はそんな父上に『言葉の責任は取ってくださいね』と目配せするが、なぜか思慮深く頷いてる。

 その横にいる叔父は、肩を小刻みに揺らし笑うのを我慢しているようだ。

 ヴィリー叔父さん! 笑ってないで助けてください。

 あきらめににた状況で視線を伯爵に向けると、そこには俺を崇拝したような目をした伯爵がいた。

 あっ、あれはダメなやつ。

 ハッとして、俺は横にいるエマに視線を向けた。

 エマの視点が合っていない。

 エマ、エマさんや、現実に帰ってきなさい。

 エスタニア王国一行が、カオスだ。

 先ほどまでのシリアス、どこにいった! 


 俺が心の中で叫んでいると救世主? が現れた。大部屋の扉が勢いよく開いた。

 そこには人間の姿に顕現したフラウと、それを止めようとしたのだろうテオ兄さんがいた。

 全員が注目する中、フラウは腰に手をあてプリプリと怒っている。


「ヴィリバルトもジークベルトも帰ってきたのに、わたしに、ただいまの挨拶がないわ!」

「すみません。いまはダメだといったんですが……」

「テオは悪くないよ」


 叔父は立ち上がり二人に近づくと、テオ兄さんの肩をポンと叩く。テオ兄さんはスーッと横に動き、叔父に場所を譲る。

 すると叔父は侍女たちが失神するほどの全開の笑顔で、フラウの前に立つと両手を広げた。


「ただいまフラウ。心配かけたね。フラウがいてとても助かったよ。ありがとう」

「おかえりなさい。ヴィリバルト! わたし役にたったのね! 嬉しいわ! もっと褒めてもいいのよ!」


 フラウは満面の笑みで、叔父の懐に入り抱きつく。上機嫌だ。

 絶世の美女がフラウだと、残念美女に見えるのはなんでだろう。と思った瞬間、今しがた叔父の前にいたフラウが、俺の顔面20cm以内にいた。


「ジークベルト、いまわたしのことを悪く考えなかった?」


 俺は「滅相もない」と、頭を激しく横に振り否定する。


「そう? 悪意を感じたのだけれど、それならいいわ! おかえりなさい。ジークベルト! ハクと一緒に頑張ったのよ!」

「ただいま、フラウ。うん、ありがとう! とても助かったよ」


 俺を上からギュとフラウが抱きしめる。

 人間の姿だと豊満な胸が顔にあたるんですが、役得……。両横の視線がとてもいたい。

 なぜだろう。浮気がバレた夫の心情のようだと思ってしまった。一度も浮気の経験などないのに……。

 フラウは満足したのか、叔父のもとに戻り、叔父の膝の上に座ろうとしたところ、テオ兄さんに指摘され、渋々叔父の横に座りなおした。


「さぁ、お話の続きをして頂戴!」

「終わったよ」

「なんですって! わたしは聞いてないわ!」


 フラウは口を大きく開け、ムンクの叫びのような表情のまま固まった。

 完璧な残念美女だ。

 しばらくすると「テオバルトが邪魔するから間に合わなかった」とテオ兄さんをキッと睨む。

 相変わらずの貧乏くじを引いているテオ兄さんに心の中で合掌した。



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