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不運からの最強男  作者: フクフク
ダンジョン編
78/212

二十一階層_04



 夕食の準備がほぼ完了した頃、伯爵と叔父が調理場に姿を現した。

 伯爵は、俺の姿を捉えると、矢継ぎ早に質問する。


「カミルに伺いましたが、ジークベルト殿は剣を嗜んでいるとか」

「いえ、嗜みなどと言えるレベルではありません」


 俺は首を横に振り、否定した。


「失礼。ジークベルト殿は、魔法以外の戦闘スキルは所持されていないのですかな。いや答えたくなければ結構だが、興味があってね」


 俺の反応を見た伯爵が、言葉を慎重に選びながら俺に尋ねた。俺はそれに応える。


「戦闘スキルは所持していません。一応、父上に剣の手ほどきを受けています」

「そうですか! やはり男児たるもの戦闘スキルの所持を目指すものですな。よければ、ダンジョンにいる間、私が教授しますがいかがですかな」


 伯爵は、満足げにうんうんと、腕を組みながらうなずいている。

 その申し出に、俺は前のめりに返事をする。


「いいんですか!?」

「えぇ、もちろん!」と、伯爵は、にこやかに返事をした。


 なんてありがたい! 神が! ここに神がいる!


「助かります! じつは父上から八歳の誕生日までに、剣スキルを取得するようにと課題が出ていまして、もう時間がなくてあきらめていたんです」


 俺は興奮さめやらない様子で、事情を話した。


「またそれは、厳しい指導ですな」


 俺の事情を聞いた伯爵は目を見開き、少し驚いた顔をした。すると、伯爵の横にいた叔父が俺の事情を補足する。


「アーベル家は、剣の名家でもありますからね。私も幼少期は鍛えられましたが、あいにく相性が悪くてよく父さんに叱られていましたよ」

「アーベル殿でも、苦手分野はありますか! お父上のヘルベルト・フォン・アーベル殿は、我が国でも有名な武人ですからな! しかしアーベル殿は素晴らしい魔法の才能があるではないですか。戦闘スキルまで所持されたら、我々騎士は面目が立ちませんな!」


 叔父の苦戦話に、機嫌が上がった伯爵は、盛大に笑っていた。

 伯爵……。水を差すようですが、七年前の鑑定で、叔父は、戦闘スキルの剣・短剣・弓を所持しています。

 しかも、弓はLv6で、最上級レベルです。現在は、それよりもレベルが上がっていると思われますと、俺は心の底でそっとささやいてみた。


 夕食後、伯爵から指導を受けるため、小部屋から少し離れた広場で、俺は準備運動を始める。体がいい感じに温まってきたところで、伯爵と叔父が話をしながら現れた。

 王女たちも、見学するために集まってきた。

 全員が揃ったことを確認して、俺が魔法袋から黒い剣を出すと「その剣は!」と、叔父が驚いた声を出した。

 やはり叔父が、関係しているようだ。

 父上の態度から、黒い剣について、叔父が関わっているのだろうと、予想はしていましたよ。

 俺はなにも知らないふりをして、驚愕した叔父の反応に返すように、首を半分傾けながら質問する。


「ヴィリー叔父さん、この剣を知っているのですか」

「あぁ! 所有者がジークになっている」


 さらに大きな声をあげた叔父は、額に手をあて「兄さんから報告を受けてないんだけど……」と、周囲に聞こえないぐらいの声でつぶやいた。

 伯爵たちは、そんな俺たちのやり取りを不思議そうな顔をして、静観している。


「いや、うん。その剣は……。昔、私があるダンジョンで見つけてね、我が家の保管庫の奥底に封い……、しまっていたはずなんだけどね」


 やけに歯切れの悪い叔父の返答も気にはなったが、それよりも剣の保管場所に驚いて、思わず口に出していた。


「えっ!? 保管庫のわりと手に取りやすいところに、乱雑に置いてありましたよ」

「あぁ、そうだと思ったよ」


 叔父の反応から、剣は保管庫の奥にしまっていたのだと思う。

 誰かが移動させたのか。それとも剣が勝手に移動した?

 そうだったらホラーだけど……。


「……。呪いの剣では、ないですよね?」

「ん? それは大丈夫だから、安心していいよ」


 叔父は俺を安心させるように、頭をポンポンとなでて、苦笑いをする。

 いやいや、これだけ煽って、大丈夫だからで済まないですよ。安心できるはずないからね。


 俺が、不満げな顔を叔父に向けると同時に、伯爵が会話に割り込んできた。


「失礼。いわくありげな剣なのですかな。見た目は黒いが、普通の剣のように思えますがな」


 伯爵が興味深そうに剣を見ながら、叔父に尋ねると、叔父が俺に視線を移し口を開いた。


「ジーク、バルシュミーデ伯爵に剣を渡してくれないかい」

「はい」


 俺が伯爵に剣を渡すと、その腕が漫画のようにガクッと下がる。

「こっ、これは!」との伯爵の焦った声と共に、剣が俺にすぐ返却された。そして何度も手を開けたり閉じたりして、手の状態を確認した後、伯爵は、俺と剣に視線を向けた。


「ジークベルト殿は、重くないのですかな」

「いいえ、普通の剣と同じ……、いや、幾ばくか軽いかもしれません」

「軽いですか……。なるほど。アーベル殿、所有者限定の剣なのですな」


 俺の返答に、伯爵は納得したかのように大きくうなずくと、自信ありげに叔父に言った。それを受けた叔父が茶目っ気たっぷりに、黒い剣の特性を説明した。


「ご名答! さすがバルシュミーデ伯爵。今は鞘から出ているので、ジーク以外が持つと重くなり、鞘に収まれば、ジーク以外、抜けなくなります」

「ほぉー。まさに珍品ですな! 敵に剣を奪われても、攻撃される心配もない。素晴らしい剣ですな! それに──」


 剣の特性を聞いた伯爵は、興奮した様子で熱弁し始め、話が止まらない。

 叔父、わざと肝心な部分の説明を省きましたね。ほかにもありますよね? と目で訴えると、叔父はウィンクし、伯爵たちにわからないよう俺に合図する。

 叔父の仕草から、これ以上答える気はないと悟り、俺は追及するのをあきらめた。

 まぁ危険であれば、父上が黒い剣の所持を許可するわけがなし、叔父がこの場で回収しているはずだ。

 けど、叔父が保管庫の奥にしまって、言葉を濁していたが封印するほどのものだ。

 人目に触れさせたくなかったのか? なにかよほどの理由があったのだろう。

 叔父が黒い剣の所持を黙認したということは、その余程の理由は、すでに解決済みか、もしくは解決の必要がなくなった可能性が高い。

 呪いの剣ではないようだし、半年間この剣と修練を共にしてきたのだ。愛着はある。それに今さら、ほかの剣を与えられても、しっくりこない。

 んーー。もうこの剣については、深く考えるのは止めよう。


 結論が出たところで、修練場に足を踏み入れる。

 叔父が、修練に集中しやすいようにと、わざわざ小部屋に近い広場を見つけて、土魔法で、修練場を作ってくれたのだ。

 どこまでも過保護でござる。

 俺が修練場に入ったことを確認して、伯爵と男騎士もそれに続く。男騎士も一緒に指導を受けるのだ。

 女騎士は……。察してほしい。

 行動を共にして数日経っているが、女騎士と会話した覚えさえない。協調性の欠片も ないようで、移動や食事以外は、顔を見せない。

 最近、王女付きとなったため、王女たちも性格などを把握しきれていないようだ。ただ王女や伯爵の命令は、素直に従っているため、騎士としての問題はなく、自由にさせているようだ。ちなみに剣の腕前は、男騎士より上だ。

 さて、集中。

 腹の中心に力を入れ、精神を統一する。

 剣を構え、素振りを始める。


「ほぉー。剣の構えは、素晴らしいですな!」


 伯爵が、俺の構えを褒めてくれた。

 前世では、剣道を習っていた。

 高校時代は、インターハイにも出場した実力だ。

 ただ準決勝直前に食中毒を起こし、救急車で運ばれた苦い思い出もある。

 あれも不運値のせいだったんだろうな……。

 雑念で、素振りが乱れる。

 集中しろ。油断すると、素振りでも怪我をする。

 竹刀と剣では、当然重さも違うし、剣道はスポーツだが、剣術は命を殺めるものだ。

 その違いは明白だ。

 一瞬の隙で『死』とつながるのだ。


「では、そのまま素振りを二百。型や剣技は自由だ」


 伯爵の指示に、俺は小さくうなずき、素振りを続ける。幼い体だが、体力には自信がある。

 額に汗が、ジワジワと浮き出てくる。

 俺は目の前に魔物がいることを想定して、体を動かし始めると、剣を縦に横へと流し、仕留めていく。




 ***




「アーベル殿、ジークベルト殿は、剣の素質がとても高いですな。半年前から指導を受けた動きではありませんぞ」


 ジークベルトの剣筋を見た伯爵は、感心した声でヴィリバルトに伝えた。


「ジークは、天才ですからね。騎士たちの面目が立ちませんよ」


 微笑みながら肯定したヴィリバルトは、ジークベルトの評価を簡潔に述べる。

 その評価を聞いた伯爵は「ふむ」とひと言つぶやくと、腕を組み、眉をひそめて考えだした。


「あの動きで、剣スキルがないとは……。ふむ。体が小さいため、剣技の威力がなく決定打とならないのだな。こればかりは実戦で経験を積むしかない。本人も自覚して、サイクロプスで実戦を積んだのですな、ふむ」

「普通の思考ならサイクロプスではなく、オークで修練するのが妥当ですけど。そこがジークですね」


 ヴィリバルトが、ジークベルトの欠点を指摘する。


「そうですな。実戦で魔物を倒せば、スキル習得が早くなりますが……。あの動きならオークは倒せますな。ふむ。剣スキルより、短剣スキルなら、すぐに取得できるのではないですかな」


 伯爵もヴィルバルトの指摘にうなずき、短剣スキルの取得の可能性を示唆すると、ヴィリバルトがそれを肯定する。


「そうですね。ジーク自身は気づいてないようですが、身内びいきではなく、戦闘スキル系の潜在能力は、どの分野でも芽が出ると考えています」

「末恐ろしいですな」


 伯爵がその大きな体をわざと震わせる。その伯爵の態度を見て、ヴィリバルトが誇らしげに言った。


「自慢の甥ですよ」


 伯爵と叔父が、そのような会話をしていたとは露知らず、俺は剣の修練を淡々とこなした。



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