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不運からの最強男  作者: フクフク
ダンジョン編
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二十階層_02



 湖畔の近くで、野営の準備を始める。

 やはり二十一階層の階段には、たどり着けなかった。明日のことも考え、今日は早めに切り上げた。


 今日の晩餐は、ドロップ品である大量の牛肉を使った焼き肉だ。焼き肉文化は、この世界にないため、肉を串に刺した串焼きですけどね。

 男騎士が火の番をして、肉を焼いている。女騎士の姿が見当たらない。またサボりか……。

 男騎士のカミルは、初印象は最悪だったが、血気盛んな普通の若者である。思考能力が単純で、ある意味その性格さえ理解すれば、とても扱いやすい人物だ。

 女騎士のダニエラにいいように使われているようだ。その女騎士は、未だによくわからない。あまり接触をしていないのも大きいが、仲間うちでも、距離があるようだ。


「ジークベルト様、こちらの皮むきもお願いします」

「うん」


 エマの指示に、俺の手が動く。俺とエマは、スープとサラダを担当している。ほぼエマが調理しているが、助手として野菜などを切って、お手伝いをしていた。

 そこへ王女が現れた。手には大事そうにマントを持っている。


「あのっ、ジークベルト様、失礼いたします」

「ディアーナ王女様、どうされました?」

「敬称は結構です。ディアとお呼びください」


 いや。それはまずいでしょ。

 一国の王女を呼び捨てとかありえないからね。

 あと数日だが共に行動するので、わだかまりなく過ごしたい。

 王女とエマは良い子だ。仲良くはなりたいが、その申し出は、遠慮させて下さい。後々問題が起きそうです。

 じっと静かに、俺をみている王女に、ほんの少し心が揺らぐ。とっ、とりあえず王女を抜いてみますか。それだけでもだいぶ親しみがでるしね。


「ディアーナ様」

「ディアです」

「……ディア様」

「ディアです」


 王女の笑顔が恐いです。隣のエマが苦笑いをしている。もしかして名前呼ぶまで、このままとか……。ふとマリー姉様を思い出し、若干頬がひきつる。

 前世の知識が、あまり女性を怒らせることは、得策ではないと、警報を鳴らしていたので、気づかれないよう小さく溜息を吐き、王女に答える。


「ディア、どうしたの?」

「はい! ジークベルト様にお借りしたこのマントですが、とても貴重なものではございませんか?」


 俺が、愛称で話しかけると、王女の耳と尻尾がピンと立ち、ものすごく喜んだ。

 俺の対応は、正解だったようだ。


「マントは、ヴィリー叔父さんから貰ったものだよ。快適な温度を保つ魔法が施されているから、貴重と言えば貴重なのかな」

「それだけではありませんよね。わたくし、これだけ歩いたのは、人生で初めてです。ですが、疲れもなく足の痛みもありません!」

「そうだった! 『聖水』と『守り』も施されているんだ。忘れていたよ」

「やはりそうなのですね。このような貴重なもの。ジークベルト様は、お疲れではございませんか?」

「ん? ぼくは大丈夫だよ。ディアの疲れがなくてよかったよ」


 何気なくでた言葉が、王女の心をさらに掴んだようで「お優しい」と、マントを握る手に力が入っている。また耳と尻尾が、若干揺れていて、頬が少し赤くなっていた。


「エマは、疲れてない?」

「私ですか⁈」

「うん。ディアが、人生初となるぐらい歩いたってことは、エマもそうだろう?」

「あっ、はい。足が痛くはありますが、大丈夫です」

「『聖水』どう痛みはとれた?」

「えっ⁈ はい! さきほどまでの痛みが、うそみたいにありません!」

「気づけなくて、ごめんね」


 エマにむけて、優しく微笑む。

 そうだった。すっかり忘れていた。当たり前のように行動していたが、彼女たちには、とても過酷だっただろう。なんせ七十キロほどの距離を移動したのだ。泣きごとも言わず、休憩もせず、歩き続けたのだ。

 俺は、叔父が毎回戦闘後に回復魔法をかけてくれていたので、疲れとは無縁だった。戦闘に夢中になりすぎて、まったく気づかなかった。反省だ。

 エマが「あわわっ」と、言葉にならない声を上げ、少し赤くした頬を両手で押さえていた。


「無意識って、こわいよね」

「ヴィリー叔父さん! 何のことです?」

「いやうん。ジークはそのままでいいよ」

「?」


 突然現れた叔父は、俺の頭をポンポンと叩く。

 伯爵と一緒に周辺の警戒にあたっていたはずだが、この付近は安全と判断できたってことかな。


「私は何をすればいいかな?」

「アーベル様にお手伝いして頂くなんて、とんでもないです」

「ジークは手伝っているけど?」

「ジークベルト様は……‼︎ そうだった。ジークベルト様は侯爵家のご子息! 当たり前のようにさっと、手伝ってくださるから忘れていたわ。どっ、どうしよう。私ったら、野菜を切ってもらっているわ。優しいから、ついついお願いしてしまったわ。不敬罪になるかしら? あっ! 気軽にお話をしてくれるから雑談までして……。愚痴も言ったような気がするーー‼︎ あぁーー、どうしよう‼︎」


 エマはプチパニック状態となり、心の声が外に漏れている。ほんと面白い子だよね。

 気兼ねさだけなら、我が家の侍女たちといい勝負だ。


「ヴィリー叔父さん、そのボールの中にあるソースを混ぜて、かなり力がいるんだ」

「お安い御用!」


 俺の指示で、叔父がボールに手を出す。

 それを見ていた王女もソワソワと動き、俺に近づいてくる。


「私もなにかお手伝いいたします」

「ディアは、野菜を切るのを手伝って」

「はい!」

「愛称で、呼ぶほど仲良くなったのかい」

「アーベル様も、どうぞ、ディアとお呼びください」

「嬉しい申し出なんだけど、私の立場では、色々と問題があるんだよ。ディアーナ様で、許して頂けますか?」

「はい!」


 茶目っ気たっぷりにウィンクまでして、叔父、上手く逃げましたね。

 俺にも大人の返しができたらなぁ。経験値の差がここででてしまいました。






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