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不運からの最強男  作者: フクフク
幼少期後編
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父と叔父_01



 ギルベルトが、屋敷に帰宅すると、執事のハンスが普段通り出迎える。


「旦那様、お帰りなさいませ」

「かわりないか」

「はい。本日はヴィリバルト様が執務室でお待ちです」

「そうか」


 外衣をハンスに渡し、汚れを軽く落とす。

 塵一つない廊下を歩きながら、確か今日はジークベルトの講師の日だったなと、ヴィリバルトがいる状況を確認する。

 となれば、あれの報告だろう。さて、吉と出るか凶と出るか……。

 執務室の扉を開けると、ソファの上で、優雅にお茶を飲むヴィリバルトが待っていた。


「おかえり、兄さん」

「あぁ今帰った。ヴィリバルト、待たせたか」


 簡単に挨拶をし、ギルベルトは、ヴィリバルトの前に座る。

 ヴィリバルトは、カップを置くと両手を上げ、矢継ぎ早に話し出す。


「いいえ、先ほどまでジークたちと食事をした後、談話室で雑談をしていましたからね。ジークは博識ですね。あの広い知識はどこで学んだのかが気になります。発想も面白いし、一度頭を覗いてみたいなー。マリーはあと数年すれば、聖魔術師としてデビューができるね。そうなる前に婚約をしてくれればいいけど、私が言える立場でもないしね。そうそうテオはいい感じになりましたね。第五騎士団へ推薦しておくよ」


 ヴィリバルトが、めずらしく上機嫌だ。

 なにかいいことでもあったのか……。いや、この機嫌の感じは、暇潰しの対象を見つけたのだろう。

 今回はいつまでもつやら……。ターゲットに、ご愁傷様と心の中で呟く。

 話に付き合うかと、ギルベルトが口を開く。


「ジークベルトの知識には、侍女たちも驚かされるようだ。最近では甘味のプリンだな」

「プリンだね。今日食べたよ。あれは絶品だね。特にカラメルソースの苦味がいいね!」

「そうだろう。ハンスが侯爵家の隠れレシピとすると言っていたな」

「さすがハンス! 私もそれがいいと思うよ。ジークは他にも料理の知識があるようだね」

「そのようだ。料理図鑑を見て落胆していたと報告を受けている。その後、ラピスは手に入らないのかと執拗に聞いたそうだ」

「ラピス?」

「あぁ、東の一部の国で、穀物の一種として栽培されている。我が国では、流通していないがな」

「入手してみましょうか」

「いや手配はしてある。ただ入手するにも時間が掛かるようだ」

「どんな料理か気にはなるね」

「そうだな。他にも料理に関しては、アイデアがあるようだ。どこで知識をえたのか」


 ギルベルトの顔は、言葉と裏腹にゆるみっぱなしだ。

 じつはギルベルト、甘味が大好物なのだ。

 ハクが屋敷に来る前、アーベル家にプリン激震が走った日は忘れもしない。

 ジークベルトよ、甘味の革命はお前に任せた。父はできるだけお前の要望に応えると決めた日だ。

 当主の燃えるような決断をジークベルトは知らない。


「マリアンネの婚約は、本人に任せている。アーベル家は自由恋愛だからな」

「えぇ、それをいいことに、私は身を固めていませんしね」

「そうだ。マリアンネよりお前だ。お前の婚約話が後を絶たない。いい年だ、お前が対応しろ」

「そこは結婚しろでしょ、兄さん」

「するのか? しないだろ。独身を通すならそれでいい。だが婚約話はお前が処理しろ」


 ギルベルトはそう言って立ち上がると、机の引き出しを開け、その中から数十枚の紙の束を出す。

 そしてそれを持つと、ヴィリバルトの前に置き、ソファへ戻る。


「これはまた……」

「今月は少ないほうだ。毎月毎月届くのだ。アーベル家は自由恋愛だと知れ渡っているからな。身分が関係ない分、数が多過ぎる」

「わかりました。策を考えましょう」

「そうしてくれ」


 ヴィリバルトは、数十枚の束を空間魔法で収納する。

 この話はもう終わりだ。あとはヴィリバルトが、上手くするだろう。

 もっと早く伝えるべきだったと、ギルベルトは後悔した。

 弟の婚約話は、後を絶たない。

 身内贔屓とはいえ、優良物件であることには、否定できない。

 物腰の柔らかさ、洗練された動き、魔法の実力も折り紙つき、端整な顔立ち。

 まあ、性格に多少難はあるが、これほどの者が、独身なのだ。

 本人には伝えていないが、中々面倒な婚約話もあり、骨を折った日々が記憶に新しい。

 それが今日で終えた。

 よし。グッと心の中でガッツポーズをして平然を装いながら、次の話題に移る。


「テオは、やはり第五騎士団か」

「はい。素質は十分あります」

「あとは本人の意志次第だがな」

「テオは受け入れますよ」


 ヴィリバルトは、力強く頷く。

 一片の迷いもない答えに、テオバルトの評価が非常に高いことがわかる。

 最近、手合わせをしていなかったな。ふむ、次の休みに合わせてみるか。

 ジークベルトの剣の修練も始めるのにいい時期でもある。

 ギルベルトの気分が上がったところで、ヴィリバルトの纏う雰囲気が変わる。

 本題に入るかと、ギルベルトは姿勢を正した。





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