ハク_03
ハクは、俺と魔契約したことで、誰かに従属されることはなくなった。
そのため、捕縛されることはない。逆に素材目当てで、狙われることはあるだろう。
だが魔契約や調教している魔獣を狙うことは、犯罪となるので、そうそうないと思う。
表向きハクは、ブラックキャットの変異種だ。貴重だが、わざわざ犯罪を犯してまで、狙う必要はないからだ。
素材は購入すればいいし、なければ自身で狩りに行くか、冒険者ギルドへ依頼をすればいいのだ。
それが、希少種の聖獣だとわかれば話が変わるが…………。
ハクを撫でる手に力が入る。
「俺はいずれ冒険者になる予定だ。たくさんの世界をこの目で見るんだ」
「ガゥ?(どうしたの?)」
「ハクは、俺の相棒だから、もちろんついて来るだろう?」
「ガウッ!(行く!)」
「うん。だけど世の中には、俺たちより強い者が多くいる。同じことが起きないように、俺たちは強くなる!」
「ガウッ!(強くなる!)」
俺の言葉を聞き、ハクは興奮して立ち上がり、叫んだ。
その声はいささか大きく、侍女たちが慌てて部屋に来るほどだった。
「「「ジークベルト様、大丈夫ですか!」」」
「心配掛けてごめんね。ハクが興奮して声を出しただけなんだ」
「ガウゥゥー(ごめんなさい)」
「「「かっ、かわいい!」」」
ハクの反省ポーズに黄色い声が上がる。
侍女たちの黄色い声に、ハクは驚き、俺にすり寄る。
そんな状態のハクを見て、侍女たちは一層興奮し、各々がしゃべりだす。
「きゃー。ジークベルト様に寄りかかっているわ。かわいい」
「ねぇ、ねぇ、この構図、すごくよくない。かわいすぎる!」
「あぁー。他の子たちが羨ましがるわ。かわいい! 自慢しよう! きゃー、かわいい!」
「これから毎日この光景が見られるなんて、至福だわ。ジークベルト様付きになったことに感謝するわ」
「アンナさんに報告しなくては!」
かわいいのは否定しないが、最後のアンナへの報告とはどういうことだ。
最後に発言した侍女に詰め寄ろうとするが、侍女の動きは素早くすぐさまこの場を後にした。
くっそーー。逃げられた。
あの侍女は、最近、俺付きになった新人だったはず。
くっ、アンナの手下だったのか。報告が気になるぞ。
俺たちさえ、巻き添えにされなければいいけど……。
想像しただけで、背筋に寒気が走る。
鬼教官再び。ガクブルッ。
侍女たちの行動は、他の貴族家では考えられない不敬の状況だが、我が家、特に俺の前ではこれが当たり前なのだ。
以前、侍女たちに畏まった感じは嫌だ。自然がいいと訴えた。
初めは躊躇したが、なんとあのアンナが許可した。度が過ぎるとアンナの説教と言う名の教育がはいる。
だが優秀な侍女たちだ。場所や場面を考慮して対応している。そこらへんの抜かりはない。
ハクは、屋敷に馴染みはじめている。
まぁ、すごくかわいいので、屋敷の人たちも、魔獣だからだと怯えることもなく、受け入れてくれた。
マリー姉様には、怪我をした魔獣の赤子の手当をしたら懐かれてしまった。
なぜ魔獣の赤子がいたのかはわからないけれど、このまま放置することもできず、連れて帰って来てしまった。
人(悪人以外)は、襲わないように育てるから、飼っていいよね。
ごくごく簡単な説明をした。
魔契約は高度な技術のため、調教することを全面に出した。
調教師などが、魔獣の赤子を調教することは、一般的ではある。なかには懐かれて、調教師でもないのに、魔獣を飼っている人もいるのだ。
調教自体は、珍しいことではない。ただ、飼っている人は少ないけどね。
俺は、姉様に最大限のお願いをした。
子供ができる最上級の仕草で、ノーとは言わせない可愛さをただよわせる。
俺の行動をハクも理解したのか、上目遣いキラキラの瞳で「ミャァー」と鳴いた。
ハク! その仕草で『ミャァー』だと、グッジョブ!
それにしても、なんてかわいい声が出せるんだ。かわいい、俺の聖獣が可愛すぎる!
「もぅ……。私がジークのお願いを断れるはずがないじゃない。はぁーー。わかったわ。お父様には私から伝えておくわ」
二人の協力タッグで、マリー姉様は不承不承ながら了承してくれた。
ただ父上は甘くなかった。
夕食後すぐに、執務室へ呼び出された。
マリー姉様が上手く説明してくれたおかげで、ハクが白虎であることはバレなかった。
だけど、ハクと遭遇した場所の追及が強く、危うく『沈黙の森』に行ったことがバレそうになった。
ブラックキャットが『白の森』に生息していることは、ほぼないのだ。
大きな怪我をしていたことを説明し、捨てられた、もしくは捕縛されかけ逃げたのではないかと意見した。
父上は、俺の言葉に納得はしていないようだったが、一人で『白の森』へ入ったことは、すごく怒られた。
これからは誰かを伴って入ることを約束し、二週間の謹慎を言い渡された。




