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不運からの最強男  作者: フクフク
幼少期後編
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出会い_01



 マリアンネは不測の事態に困惑していた。

 可愛い末弟ジークベルトが、マリアンネの私室を訪れると、突然、頭を下げたのだ。


「マリー姉様、ごめんなさい」


 ジークベルト付きの侍女たちは、困惑した様子でマリアンネを見ている。

 その侍女たちに目配せし、状況を確認するが、要領を得ない。

 アーベル家の中でも屈指の侍女たちが、対処できない事態なのだろうか。

 一瞬、脳裏にあの残像が蘇る。

 あれは過去の出来事よ。もう決して傷つけはさせない。

 残像をかき消すように頭を振り、目の前の無傷なジークベルトを見る。

 大丈夫、ジークベルトは生きているわ。


「姉様?」


 普段と異なるマリアンネの様子に、母譲りの紫の瞳が、心配げに問う。

 そう、この子は、人の感情に敏感で繊細なのに、無視ができない心優しい子。だから私たちが守るの。

 気持ちを持ち直し「なんでもないわ」と、強く発して微笑む。

 マリアンネの返答にジークベルトは、訝しげな表情を見せ、何度か口を開こうとするが、諦めたように口を噤んだ。

 その様に安心したマリアンネは、本来の話へ戻すため、努めて冷静に声をかける。


「ジーク、それで何がごめんなさいなの?」


 マリアンネの問いかけに、ジークベルトのマントの下から、白い動物? 白い魔獣? の赤子が顔を出した。


「元の場所に戻してきなさい!」


 マリアンネの声が屋敷中に響いた。





***





 数時間前に遡る。

 俺は『沈黙の森』へ出かけていた。もちろん家族には内緒でだ。

 沈黙の森は、帝国と隣接している場所で、馬車で十日ほどの距離がある。巨大な植物群落の森で、その範囲は未だ把握されていない。理由は、森全体を覆う濃い魔力である。奥に行けば行くほど、魔力は濃くなり、方向感覚がなくなる。これは地上だけではなく、空にも影響がある。

 そして、強い魔力を体内に浴び続けていると、脳が麻痺し、正常な判断ができなくなるのだ。また、魔力が濃いため、上位種の魔物や魔獣が生息し、噂では竜種を見たとの情報もある。

 別名『死の森』とも呼ばれ、生存率が低いことでも有名だ。

 ただ上位種が多いため、素材獲得依頼や一攫千金を狙った冒険者などがよく森を訪れている。


 俺は『移動魔法』を使用して、沈黙の森へ来た。

 四歳で移動魔法が使えるようになり、現在五歳となる。

 初めて移動魔法が成功した時は「あっできた」と、軽いものだった。

 表現が薄いのは許して欲しい。だって部屋の端に移動しただけなのだ。気持ちが高ぶる要素が全くなかった。成功したことは、本当に嬉しかったけれど、地味すぎてのれなかったのだ。

 なぜ部屋の中だったのか。それは移動魔法が、術者が訪れた場所しか転移ができないからだ。

 俺が四歳までに訪問した場所は限られており、また国家最高レベルの魔法が使用できると周囲にバレたら大変な事態となる。そうなると、おのずと修練の移動先は安全な場所となり、屋敷の中、俺の部屋となるわけです。

 ちなみに『沈黙の森』までは、徒歩と『飛行』の魔法を使用した。

 毎日少しずつ距離を稼ぎ、大体二ヶ月ほどかけて到着した。

 ただ『飛行』を使う際は、細心の注意を払った。飛行魔法は、風属性の上級魔法で、一般的には、風魔法Lv8ぐらいで使用可能だ。俺はスキルLvに関係なく純粋に魔力だけで使用できる。空を飛ぶ幼児なんて、ほぼほぼいないのだ。


 沈黙の森を目指したのは、人目を気にせず、効率よくレベルを上げるためである。

 近場で魔物討伐するにも限度がきたからだ。上位種がいないわけではないが、幼児の魔物討伐は、いかんせん目立ちすぎる。

 テオ兄さんたちと一緒の時は、周りを気にすることも遠慮することもなく討伐ができるが、月一と決めていた。本心は毎回同行したいが、マリー姉様に討伐がバレる可能性が高いため、すんなりとあきらめた。テオ兄さんとのお出掛けは、第三週の二日目が定番となっている。マリー姉様も、その日だけは特に何も言わず、屋敷から出してくれる。

 あの日からテオ兄さんとは、とても良い兄弟関係を築いている。





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