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不運からの最強男  作者: フクフク
幼少期前編
3/204

転生_01



 目覚めると、誰かに抱かれているようだった。

 視界がぼやけて、状況把握ができないが、人肌を感じる。

 真上から女性の声が聞こえた。


「リア様、元気な男の子ですよ」


 重心が急に不安定となり、温かく心地よい優しさに包まれる。


「やっと会えたわね、私の坊や」


 頬を数回撫で、額に柔らかいものが落ちる。

 リアとは、今生の俺の母のようだ。その腕の中は、懐かしい匂いが鼻孔をくすぐり、心地よい安堵感と満足感に浸る。

 一生ここにいたいと、願ってしまう。俺、幸せだ。もう転生とかどうでもいいや……。

 思考が停止し、うつらうつらし始め、しばらく幸せな世界の中をまどろむ。

 身体が宙に浮く感覚に、ハッと意識が浮上する。この幸せな世界から遠のいていく。

 いやだ! 思わず抗議の声を上げた。


「ぁ……ぁ……あぅ!」


 自分が発した声でない声に驚いて、眠気も吹っ飛んだ。

 赤ん坊のため、声帯が上手く使えない。言語スキルが、付与されていても、発声面の技術が備わっていないため、言葉が発声できないのだ。

 当たり前か……。俺、赤ん坊なんだ。記憶を持ったまま、まじで転生したよ。

 生死案内人の説明、実は半信半疑だった。あの場面で疑う余地はなかったけど、都合がよすぎたのだ。

 実際に経験すれば、無駄話せず、色々と詰めておけばとの後悔もあるが、どちらにしろ時間切れで、強制退場だった。

 心残りは、前世の家族に別れを伝えられなかったことだ。

 事故死だから、その機会はないけれど、生死案内人に、手紙などを託せたかもしれない。

 俺が、突然死んで迷惑をかけただろうな。感謝しかないが、名前が消えた影響か、家族との思い出も、気持ちも、だんだんと希薄になっている。

 おそらくこれは、転生したからだ。

 新しい人生に、前世の記憶はあるが、感情が伴わないのだ。もう記憶ではなく記録だ。自分を構成する性格や精神年齢は、そのままだ。不思議な感覚だけれど、違和感はない。俺であることには、変わりないのだ。


 さて、気持ちを切り替えて、現状を把握しよう。

 転生先が、成人男性なんて上手い話はなく、現状の俺は、生まれたての男児だ。

 うん? ちょっと待て?! うわぁー。……気づいてしまった。

 誰しも経験し、生きるためには必要なことだが、母乳やオムツの経験は、記憶から抹消できないものかと思う。

 はっははは……。そこだけ切り離すことは、難しいよね。

 まさか転生のアドバンテージが、最初に悩む要因になるとは、精神年齢が高い分、受け止めるのに時間が掛かりそうだ。


 現実を直視する間に、母リアとの対面は終了となったようで、一定リズムの振動に、どこかに運ばれていると感じた。

 視力が発達していないので、視界がぼんやりとしか見えない。

 この状態だと、何も情報が収集できないな。新生児の間は、行動に移せないか……。

 あっ、そうだ! 生死案内人から付与されたスキルを活用しよう。

 特典で貰ったスキルは、言語、成長促進、鑑定眼だ。

 言語は、自動的に使用されている。母と女性の会話を理解できているので、問題はないようだ。

 成長促進は、後々活躍するスキルだが、今望んでいるものではない。

 鑑定眼。これだ! 早速使って………。

 スキルの使用方法を聞いていないぞ!

 言語と成長促進は、自動スキルだ。鑑定眼は、どう考えても手動スキルだ。もし自動なら、そこら中を自動鑑定して、過剰な情報量で、俺がプチパニックを起こしているはずだ。手動となれば、普通はあれしかない。無理だとは思うが、お約束の方法を試してみる。


「ぁ……ぅぁ」


 ですよね。やはり言葉を発することはできない。

 だとすれば、心で念じるしか方法はないが、おそらく対象を認識して念じればいいと思う。

 都合が良いことに、俺は運ばれていて、視界いっぱいに、一人の女性を認識できる。

 この絶好の機会を逃すことはしない。視界いっぱいの女性を意識して、心の中で『鑑定眼』と念じた。

 突如、頭の中にステータスが表示された。



 ***********************

 アンナ・テレマン 女 45才

 種族:人間

 職業:侍女長

 Lv:15

 HP:70/70

 MP:40/40

 魔力:35

 攻撃:38

 防御:53

 俊敏:58

 運:39

 魔属性:水


 戦闘スキル:体術Lv6

 魔法スキル:水魔法Lv3

 技能スキル:家事Lv7、料理Lv4、作法Lv6、執事Lv5

 **********************



 おぉー。成功した!

 ステータスは、ゲームの世界と同じ仕様だ。

 HPとMPはわかる。他の内容も大体理解できるな。スキルも知識内にあるものだ。

 よかった。理解できる範囲での鑑定結果に、心底安堵する。

 残念なことに、俺の知識は、某有名ゲームを簡単に攻略したぐらいしかないのだ。

 こんなことなら、前世の妹が、推薦していた転生もののラノベシリーズ、後回しにせず、読破すればよかった。後悔先に立たず。

 知識がないものは、どうしようもない。今できることをしよう。何事もポジティブにだ。

 せっかくアンナの情報があるのだ。そこから考えてみよう。

 アンナの年齢と経験を加味すれば、Lvとスキルの取得率は、一般的に高いか低いか、どちらなんだろう。

 まずこの世界の基準がいるな。

 手始めに、周囲の人の情報を取得して、統計をとることから始めよう。幸い記憶力は、人並み以上に良いので、困らないはずだ。

 前世の俺なら、手っ取り早く、本で知識を取得することを選択するが、読むことすら不可能だ。

 あっははは。行き詰まり感ハンパねぇーー。けれど、楽しみは多いぞ!


「アンナ!」


 前方からの甲高い声に反応して、アンナはその場で立ち止まる。

 パタパタとした足音が間近まで近づき止まると、アンナが、落ち着いた口調で窘めた。


「マリアンネ様、淑女はいかなる場所でも優雅に、廊下を走ってはなりません。上品にかつスマートに歩くのです」

「ごめんなさい。つい、ついね。アンナたちの姿を見つけたら、駆け出してしまったの。次からは気をつけるわ。だから、今回は大目に見て、お願いよ」

「日常生活が、所作にでることをお忘れなく」

「はい。わかったわ。普段から気をつけるわ。ねぇ、それよりも、私たちの弟を見せてちょうだい」

「まったく、仕方がありませんね」

「ありがとう。アンナ。大好きよ。うわぁ、この子が、私たちの弟なのね。うふふ、可愛い。お母様と同じ銀髪で紫瞳! お兄様たちが見たら溺愛するわね」

「はい。そうですね。リア様に大変似ておいでで、旦那様も大変お喜びでした」

「お母様は、ご無事?」

「はい。とても元気にされております」

「そう! それはよかったわ!」


 頭上での少女とアンナの会話に耳を澄まし、第三者からの外見報告に唖然とする。

 転生先が、中世ヨーロッパ風な世界観だと、生死案内人の説明にもあったので、外見も洋風だろうと、予想はしていた。その中でも銀髪で紫瞳は、珍しいのではないかと思う。

 なんとなくだが、母リアは、外見も内面も、ズバ抜けて美しい人だと思う。

 あの抱擁感の持ち主が、不細工だとは想像し難いし、俺の勘では、極上の美人のはずだ。

 父とは対面していないので、容姿の判断もつかないが、アンナの職業から、おそらく貴族ではないかと、判断できる。

 貴族のイメージで浮かぶのは、お金と権力と端整であることだ。ごく一部にあれはいるが、ほぼ美形のはずだ。

 今ある情報と、前世の知識から想像するに、俺の容姿は…………。

 あまり嬉しくないな。贅沢だと我儘だと罵ってくれてもいい。ブ男より、美男のほうがいいに決まっている。

 偏見があるかもしれないが、銀髪、紫瞳って、美少女なら許容範囲だが、男でその外見は痛い人に見える。

 俺の知識が偏っているのかな。いや、そんなことはないはずだ。

「ぁ……あぅっ」と、思わず声がでた。


「あら、どうしたのかしら?」

「マリアンネ様に、ご挨拶をされているのではないでしょうか」

「まぁ! うふふ、私があなたのお姉さんよ」


 的外れの二人の会話に抗議をしたい。

 おっ! 視界に影が二つ認識できる。

 俺が、声を出したことにより、少女マリアンネとの距離が、更に近づいたようだ。

 今なら鑑定眼が、成功する可能性が高い。

 少女の影を意識して『鑑定眼』と念じると、突然視界が暗転した。





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