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不運からの最強男  作者: フクフク
幼少期前編
27/208

事件_03



 目が覚めると、ベッドの上にいた。

 意識が朦朧としている。

 なにが起きたのか、少しずつ記憶を辿る。


 母リアが亡くなってから一ヶ月、『最後の別れ』をした。

 日本の四十九日みたいなものだ。

 儀式が終わり、兄姉だけ部屋に戻された。そう兄姉が揃ったのだ。


 ガタガタと全身が揺れはじめる。


 マリー姉様に手を引かれ、ソファに座った。

 ゲルト兄さんがマリー姉様を呼び、一人になった瞬間、『落雷』の魔法が俺の脳天に落ちた。

『生きている』喜びと『死んでいた』恐怖が交差する。

 殺意の恐怖が全身を覆い、「あっぁあーーーー」と、声にならない声が部屋中に響く。


「ジーク! 大丈夫よ。もう大丈夫だからね」


 マリアンネの涙声は、耳に聞こえるが何を言っているのか把握できない。

 混乱とともに、精神が病んでいく寸前、意識が明瞭に戻る。

 ヴィリバルトが『聖水』を施していた。

 全身が温かなものに包まれ、気持ちがだんだんと落ち着いてきた。

 周囲の様子も確認できるまでに回復し、俺の手をギュッと強く握っていたマリー姉様の泣き顔を見て、明日はひどく腫れるだろうなと、見当違いなことを考えていた。

 俺の視界いっぱいに赤い髪が入った。


「ジーク、私がわかるかな。わかるなら返事をして欲しい」

「はぃ」

「うん、大丈夫そうだね。気持ちを落ち着かせる魔法を使ったからね」


 叔父の繊細な手が、俺の髪をゆっくりと梳かす。

 ここは安全だ。ここに敵はいない。

 心底安心して、瞼を閉じる。


 ゲルトとは、数回対面しただけだが、嫌われているのは明白だった。

 初対面は、顔を認識できなかったが、雰囲気で察した。

 母親をとられた子供の嫉妬だと、時間が経てば解決するだろうと、安易にしか考えていなかった。

 それは他の兄姉がとても好意的に、俺に接してくれていたからだ。

 特に長兄アルベルトの溺愛はすごかった。

 十五歳の差が影響しているのだと、それだけであるとそう信じたいほどだった。会えば全身を抱きしめられ、顔中にキスの嵐。

 片時も俺を離さないその態度に、母上も父上も毎回苦笑いをしていた。

 だがゲルトは、回を重ねる度、態度が悪化していき、母リアが「困ったわね」と嘆いていた。

 あぁ、この人とは、どんなに努力をしてもわかり合えないのだ。相性がすこぶる悪いのだと感じた。

 そう悟ったのは、三回目の対面だった。

 母上の目を盗み「お前さえいなければっ」と、動けない俺に何かを仕掛けようとした。

 母上がゲルトの変化に気づき、事なきを得たが、もうこの時には予兆があったのだ。

 俺は兄弟でこのような関係はよくないと思ったが、解決の糸口が見つからない。

 長期戦と考え、極力近づかないでおこうと決めていた。

 まさか、殺意を抱くまで、憎まれていたとは想定外だった。

 俺がなにかしたのだろうか。死に際まで、母上を独占したのは、悪かったと思う。

 だけど、知らなかったのだ。母上が不治の病に冒されているなんて、わからなかった。

 いつでも美しく元気だった。身体が弱いのであろうとは、周りの態度で認識はしていた。

 もしあの時、俺が『鑑定眼』を使っていれば、母上の病を治せたのだろうか。

 原因をヘルプ機能に追及させ、特効薬を手に入れることもできたかもしれない。

 もしくは、事情を父上に話し、俺のチートスキルで母上を治すスキルを獲得できたかもしれない。

 何もできなかったかもしれない。だけど知らないよりも知っておきたかった。

 あの時の選択を後悔した。


『あなたはその時の最善を選択したのだから。前を向きなさいジーク』


 母上の声がした。

 はっとして瞼を開け、周囲を見るが、叔父と姉様が心配そうに俺を見ていた。


「まーねぇー。じょうぶ(マリー姉様、大丈夫です)」

「うん、よかった。ジークは私が絶対に守るから安心してね」

「あーとぉー。じょうぶ(ありがとう。でも大丈夫です)」

「心配はいらないよ。『監視』の魔法を使うからね。ジークにゲルトが近づけば、私や兄さんに報告が入るようにする。もう二度とこのようなことは起こさせない。だから安心しなさい」

「でもそれでも、ジークは私が守るわ」

「そうだね。心強いよ、マリー」

「ヴィーお、まーねぇー、あーとぉー。(ヴィリー叔父さん、マリー姉様、ありがとう)」

「ジーク少し眠りなさい。急激な回復を施したんだ。身体がまだ追いついていないはずだ。マリーも限界近くまで、魔法を行使したんだ。少しでいいから眠りなさい。私がそばにいるからね。安心しておやすみ」


 叔父はそっと姉様を俺の横に寝かせ、布団を掛けた。





***





「ジークベルトは、大丈夫なのか」

「精神的に疲れて、いまはマリーと一緒に寝ているよ。念のため確認したけれど、後遺症はない。マリーたちの適切な処置のおかげだよ」

「あぁ、感謝している」

「兄さん、ゲルトはどうなの」

「駄目だ。何を言っても聞く耳を持たない。ジークベルトへの恨み辛みだけだ」

「鑑定もしたけれど『洗脳』はされていないよ」

「そうか……」

「外部からの魔道具の干渉も考えられるけれど、私が結界を張っている屋敷内にまで影響があるとすれば、日常的に汚染された可能性も低いながらあるよ。魔術学校が怪しいね」

「だろうな。父上がこの件を聞いて、ゲルトを引き取ると言っている」

「また父さんは……」

「俺は、その提案をのむつもりだ。厳しい決断かもしれないが、我が家の敷地内には、二度と入れない。どのような結果であってもだ。まずは魔術学校の内部を洗い出す。協力してくれ、ヴィリバルト」

「了解です」

「調査の結果、考えたくはないが、万が一、ゲルト個人の感情から生じたのであれば、俺はさらなる決断をしなければならない」

「兄さん。私たち大人にも責任はあるさ」

「あぁわかっている。ゲルトは我々大人の被害者でもある。俺は教育を間違えてしまった。アルベルトにも協力はしてもらう」

「アルベルトは、知っているんだね。了解したよ」





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