表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不運からの最強男  作者: フクフク
魔術学校編
214/220

臨時講師


 気づけば、もう四年生だ。

 この一年、本当に色々あったけど……なんとか進級できた。


 教室へ向かう途中、俺たちとは少し雰囲気の違う制服を着た集団が、こちらへ歩いてくるのが見えた。

 一年通っているけど、あんな格好は見たことがない。


「あれは?」


 俺がつぶやくと、隣のレオポルトがすぐに答えた。


「院生だな」

「院生?」

《魔術学校は六年制ですが、成績優秀者や一定の条件を満たすと、さらに二年、専門課程を受けることが可能です。アーベル侯爵家ではテオバルトが院に通っていました》


 テオ兄さんが?

 そういえば、十八歳まで魔術学校に通っていたんだっけ。


《ご主人様が六年前、事故に巻き込まれるかたちでダンジョンに転移された際、ハクと共に、周囲の牽制もかねて院へ通っていましたよ》


 あっ、そうだったんだ。

 テオ兄さんには、ずっと迷惑をかけてばかりだ。

 それにしても、懐かしいな。

 あのダンジョンで、ディアーナたちと出会ったんだよね。


《ご主人様、大きくなられて……》


 ヘルプ機能、お前の立ち位置なに?


「院生が集団でこっちにいるなんて、めずらしいな」


 レオポルトは彼らに視線を送りながら、ぽつりとつぶやいた。

 今は、レオポルトとふたりで動いている。

 魔術学校では三年生までが基礎中心の授業だが、四年生からは実践を含んだ専門課程に移行する。女子はその中で淑女教育が必修となっていて、ディアーナたちとは別行動だ。

 ふと、集団の中心に見覚えのある姿が目に入った。


「ジーク!」


 その声と同時に、マリー姉様が一歩前へ出てくる。

 周りの院生たちは、姉様の動きに合わせるように自然と道をあけた。

 そして、ためらいもなく俺を抱きしめてくる。


「マリー姉様、なぜここに?」

「やっと会えたわ!」

「マッ、マリー……っ、ごほん。マリアンネ嬢、ご機嫌麗しく……っ」


 レオポルトは真っ赤になりながら、慌てて挨拶を仕切り直した。


「あら、レオポルト様。いつもジークと仲良くしていただき、ありがとうございます」


 姉様はふわりと微笑み、指先まで完璧な所作で挨拶を返す。

 そのひとつひとつの動きだけで、場の空気がすっと整っていく。

 ……でも、さっき俺に思いきり抱きついてきた時点で、全部台無しじゃないかな。


「かっ、可憐だ」


 レオポルトには、そんなことはどうでもよかったらしい。

 その場の院生たちまで、マリー姉様の所作に見とれてぽかんとしている。

 誰も咎めるどころか、むしろうっとりして見守っている始末だ。

 ……なんなら、レオポルトの言葉にうなずいてる人までいる。


「なぜ、マリー姉様は魔術学校に?」

「うふふ。実はね、臨時講師として三カ月、指導をすることになったの」

「えっ?」

「前から打診はあったんだけど、ずっと断っていたのよ。でも、去年からジークが通い始めたでしょう? だから、今回は受けてみたの」

「大丈夫なんですか」


 そう言いながら、姉様の顔を見上げる。

 笑ってはいるけど、やっぱり心配だった。


「まあ、心配してくれるの。ありがとう、ジーク!」


 そう言って、マリー姉様がまた俺を抱きしめる。

 母上が亡くなったあと、姉様は屋敷の女主人として家政を取り仕切る一方で、希少な聖魔術師としても活動していた。

 ふと、マリー姉様が周囲を見回し、首をかしげる。


「ところで、ディアーナ様たちは? 今日はご一緒じゃないの?」

「今は淑女教育の時間で」

「ああ、あれね……。貴族の子女なら自然にこなせることだけど、平民の子たちにとっては大変なのよ」

「そうなんですか?」

「ええ。私たちは幼いころから習慣の中で身につけてきたけれど、彼女たちにはそんな日常がなかったもの」

「そうなんですね。ところで、マリー姉様は今からどちらに?」

「今日の私の初講義は終わったから、ジークの学校での生活をひと目確認して、それから帰ろうと思っていたの」


 マリー姉様の愛が、やっぱりちょっと重い。

 それはさておき、さっきから生暖かい目でこちらを見ている、周囲の院生たちは一体なんなんだ?

 距離を保ちつつ、妙に耳をそばだてている感じもするし……視線に熱量があるのが怖い。


《マリアンネの親衛隊ってところでしょうか》


 ああ、なるほど。

 ヘルプ機能、今ちょっと上手いこと言ったと思ってるだろ?

 レオポルトの親衛隊にかけたんだな、それ。


《さすが、ご主人様。私のユーモアをご理解いただけて、なによりです》


 はいはい、もうわかったよ。それで?


《真面目に説明するなら、マリアンネは彼らにとって、理想の嫁候補です》


 嫁って、おい。


《アーベル侯爵家は王家に次ぐ権力と富を有し、彼女は教養、美貌、人望のすべてを兼ね備えています。しかも婚約者はいません。そしてアーベル家の方針は本人の意思を尊重しており、結婚に際しても、身分が障壁になることはありません》


 ああ、なるほどね。

 叔父や兄さんたちと、まったく同じパターンね。

 俺たちが廊下で話している間に、院生たちが群をなし、周囲を取り囲んでいた。

 集団の背後から、澄んだ声が響いた。


「通してください」


 ドミニクだった。

 彼の姿に気づいた院生のひとりが、嘲るように言い放つ。


「ラフェルト伯爵家の面汚しが、マリー様になんの用だ?」


 ドミニクは眉ひとつ動かさず、静かに言い返した。


「私は教室に向かっているだけです。道を塞いでいるのは、あなた方ですよ」


 その言葉に、院生の表情が歪む。


「なんだと! 魔属性も持っていないくせに、生意気なんだよ」


 周囲の空気が揺れた。

 一触即発。そんな雰囲気の中で、マリー姉様の凛とした声が場を貫いた。


「あなた。今の言葉は、聞き捨てなりません。立場や属性を理由に、他者を踏みつける振る舞いは慎むべきです。それに道を塞いでいたのは、こちらのほうでしょう?」


 柔らかくも、芯の通ったその言葉に、院生たちの空気が一瞬止まる。

 姉様はドミニクの方へ向き直り、静かに頭を下げた。


「道を塞いでしまって、申し訳ありません。どうぞ、お通りください」


 ドミニクは一瞬だけ姉様と視線を交わし、軽く会釈して歩き出す。


「他の皆様も、ご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」


 小さな声なのに、場にいた全員がぴたりと動きを止めた。

 マリー姉様は、ひとりひとりに視線を向けながら丁寧に頭を下げる。

 その仕草だけで、張りつめていた空気がふっと緩んでいく。

 ほんと、こういうところがすごい。

 さすが、マリー姉様だ。

 院生たちも空気を読み、自然と散っていった。


「ごめんね、ジーク。迷惑かけちゃって」


 マリー姉様は申し訳なさそうに声をかけながら、そっとこちらをうかがう。

 俺は首を横に振り、静かに姉様の手を握った。


「マリー姉様が悪いわけじゃありません」

「そうです! マリアンネ嬢は、なにひとつ悪くありません!」


 マリー姉様に見惚れて固まっていたレオポルトが、ようやく息を吸い直して叫んだ。


「レオポルト様、ありがとうございます」


 握っていた手に、姉様がそっと力を込める。

 それだけで、言葉よりも、ずっと強く伝わってくるものがあった。


「でも、私自身のことですから、しっかりしなくては。三カ月は、臨時講師として教鞭に立つのですもの」


 そう言って顔を上げた姉様の目は、完全に講師モードになっていた。

 その表情を見た瞬間、胸の奥がじんわり熱くなる。

 ……やっぱり、俺が守らなきゃ。

 ヘルプ機能。さっきドミニクを侮辱した相手の情報と、マリー姉様に危害を加えそうな人物をピックアップして。


《承知しました。ご主人様も、ずいぶん過保護ですね》


 当然だろ。俺の姉様だ。すごく、大切な人だから。

 姉様は、並の男じゃ敵わないくらい肝も座ってるし、腕も立つ。

 でも、案外抜けてるというか……危機管理だけは、ちょっと雑なんだよね。

 だからこそ、俺が先回りしておきたい。

 マリー姉様が、なにも心配せずに動けるように。


《ええ。では、ご主人様の信頼に応えるためにも、抜かりなくまいります》



あけましておめでとうございます。

昨年は作品を読んでくださり、本当にありがとうございました。

今年も、少しでも楽しんでいただける物語をお届けできるよう頑張ります。

どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ