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不運からの最強男  作者: フクフク
魔術学校編
211/218

はじめての友人_02


 誕生日の前日。

 週に三日通っている魔術学校で、それは唐突に起きた。

 授業がすべて終わり、帰り支度をしていた時、ふと気づく。

 ハクが、いない。


「しまった」


 気づいた時には、もう遅かった。


《ご主人様。ハクは、ウーリッヒの魔道具で眠らされているようです》


 ヘルプ機能が、冷静に告げる。

 やっぱり、あいつか。

 入学して以来、ウーリッヒ教授は、あらゆる手段でハクを狙ってきた。

 その執着を、ことごとく玉砕してきたけれど、相手にしなかった俺にも、落ち度はある。

 油断していた。

 ハクなら大丈夫だと、信じきっていた。

 ハクが希少な聖獣だってこと、誰よりも俺がわかっていたのに。

 どうしよう。

 ハクの正体が知られるのは、まずい。

 体液なんか採取されたら、終わりだ。

 そんなこと、絶対にさせられない。

 それにしても、どうして今まで気づかなかったんだ?


《申し訳ございません、ご主人様。高精度な阻害と隠蔽、さらに複数の遮蔽処理により、位置検知が妨げられていたようです》


 どういうことだ?

 ウーリッヒ教授が、そんな高精度の魔道具を入手するなんて、できないはずだ。

 協力者がいる。

 そう考えるのが妥当だ。


《ご主人様。ハクの位置が判明しました。研究棟前の廊下で、レオポルトと対峙しています》


 レオポルトと?

 状況が掴めない。

 助けに入ったのか、それとも、協力者として動いているのか。

 ……まさか、敵なのか?

 その判断ひとつで、俺の動きも変わる。

 ハクを守る。それが、今の最優先事項だ。


「スラ、移動魔法で先行して。見つからないように、映像を送って」

「ピッ!〈任せろ!〉」


 俺はスラを手のひらに包み隠しながら、移動魔法を展開する。

 魔力の波が広がり、ぷるりとした感触がふっと消えた。

 それと同時に教室を飛び出し、『倍速』で速度を上げる。

 視界が流れ、重力が遅れてついてくる。

 ほどなくして、スラからの念話映像が、頭の中に直接流れ込んでくる。

 視覚だけじゃない。

 空気の揺れ、声の温度、場の緊張。すべてが脳に触れる。


 水の気配が立つ。

 研究棟の入り口前に、揺らぐ壁が張られていた。

 侵入を遮るように、波打っている。


「ベルク君、そこをどきなさい」


 ウーリッヒ教授の声が、硬く響く。

 レオポルトが壁の手前で立ちはだかっている。


「教授、なぜジークベルトの魔獣を?」

「少し借りたんですよ」

「やれやれ、嘘はやめてもらいたい」


 レオポルトは大袈裟に肩をすくめて、両手を広げた。


「何度も教授がジークベルトの魔獣を狙っていたのを、俺はこの目で見ているんですよ」


 教授はあからさまに顔を顰め、吐き捨てるように言った。


「まったく、どいつもこいつも……厄介な」


 その声と同時に、スラの映像が消え、現実の空気が肌に戻ってくる。

 教授の姿が、視界に映る。

 レオポルトが水の壁のすぐ前に立ち、盾のように教授と向き合っていた。

 教授の腕には、眠ったハク。

 全身が、瞬間的に熱を帯びる。

 俺は前へと歩み出た。


「ウーリッヒ教授、ハクを返してください」

「ちっ、もう来たか」


 教授がゆっくりと振り返る。

 その視線の奥に、苛立ちだけではない、わずかな焦りの色が見えた。


「大人しく返してくれるなら、危害は加えません」

「ちっ、魔力が底をつきそうだ。仕方がない、今回は引き下がろう」


 そう言うと、教授は腕の中で眠るハクを、ためらいもなく地面に投げた。


「ハク!」


 咄嗟に体が反応する。でも、間に合わない。


『守り』


 レオポルトの水魔法が、揺れる膜となってハクを優しく包み込む。

 地面への衝撃を、すべて吸収してくれた。

 俺はすぐに駆け寄り、ハクを腕に抱きとめる。

 よかった。怪我はないみたいだ。


「これはいけないですね。魔術学校内での私的な魔法は禁止されているはずですよ」


 教授がいやらしい笑みを浮かべながら、レオポルトに告げる。


「一度は見逃せますが、二度目はね」


 レオポルトは小さく肩をすくめ、皮肉げに笑った。


「教授こそ、見逃してもらえる回数、残っているんですか?」


 ほんと、その通りだ。

 自分のことを棚に上げて、よく言うよ。


「大丈夫です。レオポルトはハクを助けたと、僕が証人になります。証拠もあります」

「ピッ!〈見てた!〉」


 茂みの陰からスラが飛び出し、俺に駆け寄ってくる。

 肩にぴょんと跳ね乗ると、胸を張るように鳴いた。

 俺は立ち上がり、教授を真っ直ぐに睨みつける。


「ウーリッヒ教授、今回の件はアーベル侯爵家を通して正式に抗議します」

「ふん、できるかな。この魔道具はゲルト殿に提供してもらったのだ」

「ゲルト……」


 胸の奥が、小さく軋む。

 名を口にしただけで、体の芯が冷えるような感覚が走る。

 ゲルト、そんなに俺を、恨んでいるのか。


「アーベル家の兄弟間でのことだ。私はなにも知らない」


 教授の言葉は逃げだった。けれど、権威としては十分すぎるほど重い。

 レオポルトが顔を強ばらせ、半歩踏み出す。


「なっ、なにを言ってる? ジークベルトの魔獣を誘拐したのは教授だろ?」

「レオポルト」


 俺は首を横に振った。

 その動きだけで、彼は察する。顔をわずかに歪ませながらも、一歩下がった。


「なかなか、良い判断ね。アーベル君」


 教授の声に応じることはなかった。

 俺はハクを腕に抱いたまま、静かに背を向ける。

 レオポルトも、なにも言わずにそのまま俺に付き添った。


「レオポルト、ハクを助けてくれて、ありがとう」

「たまたま通りがかっただけだ」


 広場のベンチに腰を下ろし、ハクが目を覚ますのを待ちながら、俺はもう一度礼を伝えた。


「うん。それでも、助かったよ」


 レオポルトは視線を空に向けたまま、軽く肩をすくめた。

 なにも言わなかった。けれど、口元に浮かんだ笑みだけが、少しだけ長く残っていた。

 そして、ふと思い出したように魔法袋に手を突っ込む。


「……ああ、別に、忘れてたわけじゃない」


 そう言って、ずしりとした大きな袋を取り出す。


「明日、誕生日だろ」

「ありがとう」


 俺に袋を手渡しながら、レオポルトは何気なく続けた。


「俺と同じマントにしようと思ったんだが、親衛隊に止められてしまってな。俺だから似合うって」

「えっ、いらない」

「はあ?」

「ううん、なんでもないよ」

「だから、人気のシリーズにした」

「えっ、まさか……」


 俺は貰ったプレゼントの袋を開けた。

 中で鎮座していたのは、もう嫌というほど目にしてきた、例のシリーズの主役。

 ぴたりと、くまの顔がこちらを向いていた。


「『くまサン』だ。俺には劣るが、なかなかのものだろ」

「……あっ、ありがとう」


 どうして、よりによってくまサン。

 いや、くまサンは悪くはない。レオポルトも悪くない。


「ジークベルト、どうした? やはり、俺とお揃いのマントがよかったか」

「それはいい」


 俺が首を振ると同時に、腕の中でハクがふいに身じろぎした。


「ガウッ……。〈ジークベルト、ごめん。油断した〉」

「怪我はない?」

「ガウッ……?〈眠いだけ……。派手な人?〉」

「レオポルトが助けてくれたんだよ」


 そう言うと、ハクは腕の中から抜けて地面に着地した。

 そのままレオポルトの足元に寄り、尻尾をふわりと振る。


「ガゥー〈ありがとう〉」

「まあ、俺の友人であるジークベルトの魔獣だからな。感謝するがいい」


 レオポルトが、いつもの調子でそう言った。

 あれ、いつの間にか、友人設定……。

 まあ、悪くはないかも。


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