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不運からの最強男  作者: フクフク
魔術学校編
209/218

世界の断片


 ヴィリバルトは自室のバルコニーに佇み、朱と蒼、二つの月が並ぶ夜空を仰いでいた。

 風はなく、星々は澄んだ空に沈黙の光を灯している。

 そこへ、フラウが飛んできた。

 彼の近くにふわりと舞い降りると、視線を伏せ、唇をかすかに震わせる。

 黒い剣ゼレムの性格は、彼女の大嫌いな()()()とは、あまりにもかけ離れていた。

 その違和感に、フラウは戸惑い、混乱した声で言葉をこぼす。


「なんで、こんなに違うの。……ゼレムって、ほんとにあいつなの……?」


 ヴィリバルトは黙って耳を傾けたまま、夜空から目を離さず、わずかに口角を上げた。

 その微笑みには、遠い記憶への諦念と、言葉にできぬ複雑さが滲んでいた。

 彼はゼレムから聞いた神界の情報を、静かに回想し始める──。


 神界。

 それは、この世界の上位に在る、神族の秩序が支配する領域。

 人の理では測れぬ法則が流れ、神族たちはその中で生まれ、競い、世界を創造する。

 この神界もまた、誕生から五千年以上が経過していた。

 いまだ王は存在せず、秩序の頂点は空白のまま。

 過去の実績を見れば、消滅の兆しがいつ訪れても、なんら不思議ではない。

 王が誕生しなければ神界そのものが消滅する──そんな原理すら、神族たちは確かめようもなかった。

 なにをもって王の誕生とするのか。

 その定義も証も曖昧なまま、彼らは理の輪郭を探り続けていた。

 王の誕生は、五千年に一度あるかないか。

 神界の寿命は千年から一万年とされるが、ばらつきは大きく、それは神族が創造する世界の数に左右されるという。

 神族は、自らの手で世界を創造しなければ王候補になれず、その確率は一%にも満たない。

 多くが諦める中、世界の創造に成功した神族が、少なからずいた。

 彼らは王候補と呼ばれ、それぞれが己の世界を発展させていった。

 その中に、一際異彩を放つ存在がいた。

 筆頭と称されたその神族は、王争いに疲れ、己が創りしこの世界へと身を隠した。

 だが、その時から、この世界は標的となった。

 筆頭の座を奪わんとする王候補たちは、彼の世界の崩壊を目論んだ。

 神族による世界への干渉は、本来、厳しく禁じられている。

 しかし、創造主の力が弱まれば、世界の均衡は揺らぐ。

 その隙をついて、さまざまな手段で静かに崩れを誘う者が現れる。

 争いは表には出ない。

 けれど、この世界は確かに、神々の覇権争いの余波の中にある。


 ヴィリバルトは、ふと目を開けた。

 ゼレムの語りの中で、ひとつだけ、彼の記憶に深く残った言葉がある。


 神界には、例外なくひとつ、誰も立ち入ることを許されない禁域が存在する。

 崩壊した神界と神族の記憶が、そこに封じられているという。


 ヴィリバルトは再び夜空を仰いだ。

 朱と蒼、二つの月が、夜空をゆるやかに巡っていた。

 星々は、なにも知らぬふりで、ただ瞬いていた。


本来、この小話は書籍版のみに収める予定でした。

けれど、神界の存在が初めて触れられる場面でもあり、物語全体の構造に深く関わるため、短いながらも、ここで公開することにしました。

物語の奥域に、少しでも触れていただけたなら嬉しく思います。

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