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不運からの最強男  作者: フクフク
プロローグ
2/201

後編



 そして冒頭に戻る。

 足元の地面が割れ、逃げる間もなく落ちたんだった。

 慌てて身体を確認するが、どこにも損傷がない。

 かなり深く落ちた気がしたが、そうでもなかったの……か?

 いや、ここは生と死の狭間だ。意識だけがあり、肉体と切り離されている可能性が高い。落ちてかすり傷もない状況がそれを表している。

 まだ死んでない可能性があるのか? 昏睡状態か?


「いえいえ、お客様は死にましたよ。はい」と、男がタイミングよく言葉を発する。


「運悪く地面が割れ全身強打の即死です。はい」


 全身強打の即死……。

 落ちた瞬間の記憶は鮮明だが、幸か不幸か痛みの記憶がない。

 納得はできるが、なぜこの男が俺の死因を知っている。そもそもこの男は何者なんだ?


「私は生死案内人です。はい」

「生死? ……案内人?」

「はい。決められたルートに魂を送り、生を全うした魂を回収するのが私の務めです。今のお客様は霊魂の状態でございます。本来なら具象化せず、発光したものとなりますが、今回はイレギュラーでございまして、今生の姿でこの場に存在しております。またお客様の心の声は私には聞こえております。はい」


 だよなーー。さっきから絶妙な間で返すから、もしかして心の声聞こえている? とか思ったりもしていたが、まじかっ!

 しかも魂回収して送るって、言葉通り生死の案内人なのか。なるほど。

 でっ、本来は具象化するはずがない魂が、イレギュラーで存在する事情があるってことですね。生死案内人さん。


 生死案内人は、深く頭を垂れる。


「大変申し訳ございません。お客様は今生の転生時に過去の不運と他者の不運を背負ったまま転生いたしました。事務のミスで、他の転生者の不運を少々ばかりプラスして、通常の不運値の四十倍加算されて転生されたのです。はい」

「はぁああーーーー?! 不運値四十倍って! えっ?! まじかっ! えっ、えっ、えー! 倍とかじゃなくて? いやいやいやいやいやいや、少々どころじゃないっしょ! 桁数あきらかにおかしいんですが。四十倍って即死っしょ!」

「はい。しかしながらお客様は幸運値も高く、通常なら転生して即死の不運値でしたが、つい先ほどまで生を全うされたのです。はい」


 生死案内人の言葉に唖然とする。

 四十倍の不運値をカバーするほどの幸運値って、それって幸運値なのか?

 あれもこれもそれもどれも、過去の不幸な出来事が走馬灯の如く駆けめぐる。

 交通事故に食中毒、他諸々……幸運値じゃなくて悪運値じゃねぇかっ!


「これでも大変苦労いたしました。すぐに魂を回収して、正常値での再転生ルートでの修正が、厄介な高幸運値のため、魂の回収ができず、何度も地上を訪れ、人生軌道修正を行いました。はい」

「いやいや厄介って思っていても、当事者前に口にしちゃダメっしょ」

「申し訳ございません。つい本音がでてまいりまして。はい」

「本音ですか……そうですか」

「はい。本音でございます。はい」


 生死案内人の潔さに、高まった気持ちが冷めていく。

 確かにその高幸運値、本人の俺でさえ厄介だと思うわ。うん。これ以上詰め寄れないわ。

 冷静さを取り戻し、頭を切り替え、気になった部分の質問をする。


「人生軌道修正とは?」

「はい。不運で生じた事実を半強制的に修正変更したのでございます。最近ですと痴漢冤罪です。人生軌道修正をしなければ、冤罪が証明されず、迷惑防止条例違反で捕まっておりました。はい」

「一度は捕まりましたから。奇跡的に動画を撮っていた人がいて、誤認逮捕であったと証明されたけれど、会社は実質解雇。『君の普段からの行動に非があるから、痴漢冤罪なんてことになるんだ』と罵ったクソ上司との縁が切れて清々しましたけどね」


 痴漢冤罪と分かり、周りが同情的な中、あのクソ上司のあの発言。

 それ以前から、俺に相当な嫌がらせをしていたが、痴漢の件で勢いづき、リストラ候補に名を挙げて実行した。

 その前に退職願を顔面に投げつけてやったけど。

 会社は中小の中小、給料も福利厚生もそこそこよく、同僚も先輩も後輩も悪くはなかった。

 ただ直属の上司運だけが、なぜかなかったんだよ俺。部署異動毎に一癖二癖ある上司に当たり、最終あれだろ。

 これもあの不運値が関係しているのかね。はぁー。


「さようでございます。直属の上司の部分のみ不幸値がかなり影響していたようですね。はい。その他は幸運値がカバーされ、そこそことなったようでございます。ちなみに会社解雇についても修正はされております。痴漢は事実でございますが、冤罪にした被害者女性の家族がお客様を不憫に思われ、某企業への再就職が決まっておりました。はい」


 あの事件後、ダメもとで受けたあの企業か。死んでから再就職先が決まったと聞いても微妙だが、コネ入社の部分を差し引いても、ほんの少し嬉しかったりもする。

 今まで疑問だったことも解決した。不幸な出来事のあと、必ず好転した。

 あれは生死案内人のフォローだったのか。不思議だったんだ。不幸体質は認識していたが、大きな事件ほど悪い方向には向かわず、むしろ良い方向に向かい、結果ついてなかったな。程度で毎度終わった。

 ん? 感謝するべきなのか……?


「お客様、思考中に大変申し訳ございませんが、私の話を進めさせていただいてよろしいでしょうか。はい」

「わるい、続けてくれ」

「ありがとうございます。話の続きですが、お客様は本日の魂の回収と転生のリストに名がございました。しかしながら転生先の記載がございませんでした。このようなことは、私が生死案内人となり初めてのケースでございます。どのような対処をすればいいのか迷っていたところ『ガラポン』が登場しました。はい」

「はぁ?」

「人生軌道修正用の最終抽選仕様のガラポンでございます。はい」

「えっ……」

「生前のお客様に引いていただく必要がございましたので、少々無理をしましてあの空間を作製しました。はい」


 あの空間? あの広場か。あぁそうかと、あの違和感に合点がいく。

 生死案内人はあの時『現れた方はいません』と言った。

 あの場所は作られた空間だったのか。そりゃー、犯人いないわ……。


「申し訳ございません。魂の回収時間が迫っていたため、半ば強制的にあの空間を繋いだのです。はい」

「なぜ謝る?」

「私が空間を繋がなければ、お客様は犯人を捕まえておりました。あの角は袋小路でございますから。はい」

「そうか……死ぬ前に鞄を取り戻せたのか」

「はい。申し訳ございません」

「まぁ、過ぎたことを言っても仕方ないしな。で、あのガラポンの結果が異世界転生券だったよな?」

「さようでございます。『特賞の異世界転生券』でございます。はい」

「特賞をやけに押しますね」

「それはもちろんでございます。まず魂は本来記憶が消えてから転生いたします。しかしながらお客様は今生時に異世界転生券を獲得しましたので、即転生が可能です。すなわち、前世の記憶が残ったまま異世界への転生をします。ただしお客様の前世の名は記憶から消去しております。はい」


 生死案内人の言葉通り、自分の名前を思い出そうとするが、思い出せない。なぜか名前がないことに違和感を覚えない。不思議なことにないのだと素直に受け止められる。


「名の消去は色々と理由がございますが、長くなりますので省略させていただきます。はい」

「違和感ないから別にいいが……」

「ありがとうございます。では説明を続けます。お客様が転生する世界は今生の世界とは異なり、魔法とスキルがございます。はい」


 魔法がありスキルもある世界か……。魅力はあるが、できるならあの家族がいる『地球の日本』に転生したい。


「異世界でないと転生できないのか?」

「はい『異世界転生券』でございますので申し訳ございません。はい」

「ちなみに拒否権は……ないんだよな?」

「そうですね。記憶を所持せず、通常ルートで転生されたとしても同じ異世界へ転生することとなります。はい」

「拒否権なしか……だとしたら記憶はあったほうがいいよな?」

「もちろんでございます。今生の知識が生かせます。はい」

「知識が生かせる世界なのか?」

「転生先の世界は、中世ヨーロッパ風な世界観であり、多種族が存在しております。もちろんお客様は人族として転生します。はい」

「中世ヨーロッパ……」


 若干不安を感じる。風呂とかトイレとか、その他諸々……。潔癖とまではいかないが便利な日本育ちだから、適応するまでかなり大変なのではなかろうか。


「お客様が想像しているほど、不便ではございません。そこは上手く魔法が活用されておりますので。はい」

「なるほど!」

「お客様にはただ異世界へ転生していただくわけではございません。特賞特典で少々能力値を上乗せする成長促進スキル、そのものの価値を判断、評価する鑑定眼スキルを付与し、全属性の魔法を適合、異世界特典で言語のスキルを付与しております。はい」


 おぉ! ここで特賞特典きました! 成長促進と鑑定眼、かなり使えそうだ。

 しかも魔法が使えて全属性適合ってすごくないか。


「また生前ご迷惑をお掛けしたお詫びとして、転生祝福の加護を与えております。はい」


 迷惑料で加護をいただきました。ありがとうございます。


「私からの説明は以上でございます。お客様があの空間から立ち去られた時は大変困りましたが、無事説明ができて一安心でございます。はい」


 突如、ピピピピピピピピ…………と電子音が響き渡る。


「時間がきたようです。それではお客様よき転生を! はい!」

「はっ?!」


 急すぎるだろっ! まだ聞きたいことが……。

 最後の言葉は声にならず、強制的に意識が落ちた。





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