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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国後編
195/208

シルビアの戦い


 王城の地下深く、隠蔽マントを羽織ったシルビアが、魂の痕跡を探るために忍び込んでいた。暗闇の中、彼女の赤い瞳は微かに光り、鋭い視線で周囲を探る。


「むぅ。ヴィリバルトも力を解放するなら、もう少し強く解放せえ」


 シルビアが文句を言いながら、その場で地団駄を踏んだ。


「もう、疲れたのじゃ。みんな、もう寝たのかえ」


 シルビアは溜息をつきながら、古びた石畳を見つめた。薄暗い光が揺れ、不安が彼女の心に広がっていく。

 腕に巻いたエマのリボンに神力を送り込むと、リボンの先から薄い光の筋が伸び、周囲を照らし始めた。その光が石畳を滑るように動き、魂の痕跡を探し出すための道しるべとなる。

 突然、彼女の視界に一筋の光が浮かび上がった。シルビアはその光に引き寄せられるように足を進める。そこには、神聖な輝きを放つ『魂の器』があった。それは、古代の魔法が宿る精巧な装飾が施されたクリスタルのような容器で、薄暗い地下室の中でも鮮やかに輝いていた。


「やっと見つけたのじゃ! これで帰れる! 寝れる!」


 しかし、その時背後から不意に足音が響く。シルビアは一瞬で警戒を強めた。


「誰じゃ! 出てこい!」


 暗闇の中、別の影が近づいてくる。


「何者だ」


 男の体から、神力を感じ取ったシルビアは、目を丸くして固まった。


「あいつが飼っている神獣か」

「おぬしは誰じゃ!」

「なぜそれをお前に教えねばならん?」

「神族が下界に関与することは禁止されておる。おぬしまさか、かみこ、ぐぅ」


 シルビアの言葉は途中で途切れ、体が宙を舞った。次の瞬間、彼女は壁と激突し、顔を歪めた。


「ごほっ」

「人族に憑依したからか、どうも神力が弱い」


 男が苛立った様子でシルビアを見た。


「乱暴なのじゃ!」


 シルビアが無傷で立ち上がり、男を睨みつける。彼女の赤い瞳は怒りに燃え、隠蔽マントが揺れた。


「おぬし、なんの目的でここに来たのじゃ!」

「それを知る必要はない。ただ、魂の器は渡してもらう」


 男の言葉にシルビアは一瞬息をのんだ。目の前の器が男の狙いであることに気づいた瞬間、彼女の手は反射的に動いた。台座にあった器を素早く掴み、強い意志を持って反論した。


「渡すわけにはいかん!この器はヴィリバルトに渡すのじゃ!」


 男の目が鋭く光り、興味深げにシルビアを見つめた。


「ほお、お前、魂の器を触れるのか」

「なんじゃ、なにかあるのかえ」


 シルビアは一瞬恐れを感じ、急いで手に掴んでいた器を台座に戻した。


「なにも知らないのか」

「むぅ。妾はその器に魂が保管されていることは知っておるのじゃ」


 シルビアは胸を張って答えた。


「ほお」


 男の声が一段と低くなった瞬間、シルビアの体が再び宙を舞った。一度壁に激突し、さらに別の壁に投げ飛ばされ、四方八方に激突していく。彼女の体が打ち付けられる音が地下室に響き渡る。


「がはっ……」


 シルビアは苦痛に顔を歪めながら、なんとか身を起こそうとする。しかし、男の攻撃は止まらない。


「なかなかしぶといな」


 男がつまらなそうに言った瞬間、空間が歪み、ヴィリバルトが転移して現れた。彼が現れると同時に、男の攻撃がピタリと止まった。


「ここまでだ」


 ヴィリバルトの冷徹な声が地下室に響き渡る。彼の存在感が空気を一変させた。ヴィリバルトは冷静な表情で男を見つめ、その背後にシルビアを守るように立った。


「ヴィリバルト、遅いのじゃ!」


 衣服がぼろぼろになったシルビアが、援護に訪れたヴィリバルトへ文句を言った。しかし、その勢いのある口調とは裏腹に、彼女の顔色は青白く、疲労の色が濃く浮かび上がっていた。


「ごめん、色々あってね」

「むぅ。おぬしの能力なら、すぐに気づけたはずじゃ!」


 シルビアはふくれっ面でヴィリバルトを睨んだ。

 シルビアの意外な評価に、ヴィリバルトは一瞬目を見開いたが、すぐに冷静に答えた。


「私の評価が高いのは驚きだけど、万能ではないんだよ」

「むぅ。妾は仕事をしたのじゃ。ヴィリバルトが探しているものはあれじゃ!」


 シルビアが台座の上にある魂の器を指さす。


「妾はもう疲れたのじゃ! もう寝る!」


 シルビアはそう言って、地面に倒れ伏せた。彼女の息遣いは荒く、体全体が疲労に包まれているのがわかる。


「お前は、何者だ? なぜ、我の神力が通用せん」

「あー、これは、ジークに怒られる」


 シルビアの悲惨な姿を前に、ヴィリバルトはジークベルトの怒りの表情を思い浮かべ、思わず額を手で抑え、深いため息をついた。


「我の話を聞いているのか!」


 男の声が憤りで震えた。彼の眉が険しく寄せられ、拳が白くなるほど握りしめられていた。


「さっきからうるさいな。さっさと神界に戻れよ。君たちが探している者は、まだ目覚めない」


 冷ややかな声が響くと同時に、ヴィリバルトの顔には嘲笑が浮かんだ。彼の唇の端がわずかに上がり、その表情は冷酷さを帯びていた。


「お前、なにを知っている?」

「私は今機嫌が悪いんだ。いい加減にしないと消すよ」


 ヴィリバルトの赤い瞳が黒く濁り、彼を纏う空気が変化していく。圧倒的な威圧感が周囲に広がり、男の体が硬直した。その力に抗うことができず、男はばたっと音を立てて、石畳の上に倒れた。


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