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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国後編
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偽りの革命_01

「まさか、当日に動くとは、想像もしていなかったよ」


 ヴィリバルトは深いため息をつき、額に手をあてた。


「叔父様、影の手配はすでに完了しています。マティアス王太子殿下、エリーアス殿下ともに避難は完了しました」

「ジークたちは?」


 テオバルトは静かに頭を振り、唇をきつく結んだ。


「やられたね。まあ、敵の手中にいるから、それは想定内と言いたいけれど……」

「叔父様、なにかありましたか?」


 テオバルトが、途中で言葉を止めたヴィリバルトに尋ねた。

 ヴィリバルトは『索敵』と『鑑定眼』を使用し、ジークベルトたちの居場所を掴んでいた。


「これは想定外だ。彼女の目的はアルのようだ」

「えっ?」

「面白いことになりそうだ」とヴィリバルトはつぶやき、その口元には狡猾な笑みが浮かんでいた。


 深夜の静寂に包まれた王城は、無数の松明に照らされていた。

 冷たい風が吹き抜ける中、松明の炎が揺らめき、城の石壁に影を落としていた。

 その中心には、冷たい微笑を浮かべたトビアスが立っていた。



 ***



 本会議中、革命の光の本拠地では、同胞たちが集まっていた。

 薄暗い部屋の中で魔道具の光が揺らめき、その映像を前に緊張感が漂っていた。


「どういうことだ? トビアス殿下が不義の子だと、ユリアーナ様が宣言された!」


 その言葉が響くと、部屋の中は一瞬静まり返った。誰もが信じられないという表情を浮かべていた。


「なら、我々はどうなるのだ?」

「革命の光は、これで終わりなのか?」


 次々と声が上がり、不安が部屋を包み込んだ。


「静かにしろ!」


 左目から右頬に傷がある男、グレンツが怒りを込めて叫んだ。

 彼の声が部屋中に響き渡ると、突然、椅子を蹴飛ばした。その音が鋭く響き、周囲は一瞬で黙り込んだ。


「グレンツ、ここで八つ当たりをしてどうする?」


 金髪の青年カミルが、グレンツが蹴った椅子を元に戻しながら苦言を呈した。

 そして、周囲の不安を払拭するように優しく微笑みかけた。


「それにみんな、トビアス殿下に話を聞いてからでも、遅くはないだろう?」


 彼の穏やかな声と落ち着いた態度は、グレンツの鋭い目つきと怒りに満ちた態度とは対照的だった。

 全員が彼の声に耳をかたむけた。


「今は動揺している場合ではない。まずは冷静に状況を分析しよう」

「その通りだ」


 カミルの言葉に同意するように、革命の光のリーダーであるマクシミリアンが二階からゆっくりと下りてきた。

 彼の姿が見えると、彼らは自然と道を開け、静寂が広がった。

 マクシミリアンの存在感が部屋全体を包み込む。


「みんな話を聞いてくれ! ユリアーナ殿下はマティアス王太子殿下に操られているだけだ!」

「マックス、それは本当なのだな?」


 ひとりの若い男がマクシミリアンに疑念を抱いて問いかけた。

 マクシミリアンは思わず舌打ちをした。

 帝国から提供された『扇動』を強くする魔道具の効果がここにきて振るわなくなったからだ。


「あぁ、本当だとも。今までトビアス殿下がユリアーナ殿下のためにされた苦労を忘れたのか?」


 マクシミリアンが語りかけるように、静かに手を広げた。


「ユリアーナ殿下がトビアス殿下を裏切るはずはない。そうだろう?」


 彼の目が鋭く光り、再び『扇動』を発動させた。

 周囲の者たちはその力に引き込まれ、次第に納得の表情を浮かべ始める。


「でも、トビアス殿下が本当に不義の子だとしたら、我々の信念はどうなるのですか?」


 一番うしろにいた男が、声を震わせながら問いかけた。

 マクシミリアンはこけた目を細め、青白い顔に不健康な影を落としながら答えた。


「信念は簡単に揺らぐものではない。我々がなにのために戦っているのか、もう一度思い出してほしい。真実がなにであれ、我々の目的は変わらない」


 部屋の中に再び静寂が訪れたが、今度はその静けさの中に決意が感じられた。

 彼らの呼吸音だけが聞こえる中、マクシミリアンは一歩前に出て、力強く続けた。


「我々の目的は一つ。エスタニアに新しい風を起こすために、共に戦おう!」


 彼らは互いに目を見合わせ、再び心を一つにする決意を固めた。



 ***



 スラム街の一角にある本拠地の裏の扉が静かに開かれ、薄暗い秘密の通路からビーガーが現れた。

 彼の腕には憔悴しきったトビアスが抱えられていた。


「トビアス殿下!」


 カミルが駆け寄り、心配そうに声をかけた。

 その声に反応したトビアスはゆっくりと顔を上げ、生気のない目で周囲を見渡した。


「姉上が、俺を裏切った」


 駆け寄ったカミルの腕を強く握り、突き放した。

 そして頭を抱え「なぜだ。なぜなんだ姉上!」と嘆き叫んだ。

 彼の声が静まり返った部屋に響き渡った。

 しばらくして、ビーガーがそっとトビアスの肩に手を置き、優しく微笑みながら励ますように言った。


「トビアス殿下、ユリアーナ様は決して裏切りません。殿下のために戦っているのです。どうか信じてください」

「だが、姉上は俺の面会を断った。ビーガー、あの近衛騎士は俺になんと言った?」

「それはっ……」


 ビーガーは一瞬言葉を失い、顔が青ざめ、唇が震える。


「俺を王族ではないと言ったんだ!」


 トビアスは怒りに震え、顔を真っ赤にして叫んだ。その瞬間、彼の怒りは頂点に達し、次第に感情が抜けていくのを感じた。

 トビアスは一瞬放心状態になり、目の前の現実がぼやけて見えた。


「だとしたら、すべての王族を消せばいい。そうすれば、王が俺だ!」


 彼の声は冷静さを取り戻し、しかしその言葉には冷酷な決意が込められていた。

 周囲の者たちはその極論に驚愕し、息を呑んだ。


「グレンツ、帝国はなにをしてくれる?」


 トビアスは、部屋の隅で気配を消していたグレンツに向かって、威圧的な口調で問いかけた。さきほどまでの醜態が嘘のように、彼の表情は冷静そのものであった。

 その不気味な姿に、殺し屋であるグレンツでさえ一瞬恐れを感じた。


「複数の魔道具と数十人の奴隷の提供となります」


 グレンツは平然と答えたが、その声にはわずかな緊張が感じられた。


「それだけか?」とトビアスは不満げに眉をひそめた。

「これ以上は難しいとのことです」

「ちっ、大国であってもそれが限度か」


 トビアスが舌打ちし、冷たい目でマクシミリアンを見つめた。マクシミリアンはぶつぶつと独り言をつぶやいていたが、その視線に気づくと一瞬で黙り込んだ。


「マクシミリアン、同胞たちを今すぐ集めろ」

「はい」


 マクシミリアンは、こけた目を見開き、すぐに意を決して命令に従った。


「お前は俺と一緒に来い」

「承知しました」


 カミルは深々と頭を下げ、臣下の礼をした。


「今日の深夜、すべての王族を排除する」


 トビアスの冷淡な声が薄暗い部屋に響き渡り、緊張が一層高まった。

 ビーガーは天を仰ぎ、グレンツは冷笑を浮かべた。マクシミリアンの顔は白く青ざめ、カミルの手が微かに震えた。



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