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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国中編
172/207

闇を照らす光_01



 夜明け前、伯爵家の豪華な客室のベッドの上で、寝間着姿のままの俺とヴィリー叔父さんは対面していた。

 叔父の突然の訪問に、俺は驚きと不安で胸が高鳴った。一緒に寝ていたハクは驚いて慌ててベッドから飛び降りたが、叔父だとわかると静かに横になり、再び眠りについた。

 俺も安堵したが、同時に何故こんな時間に叔父が訪れたのか不安になり、色々な考えが頭をよぎった。


「ジークにお願いがあるんだよ」

「何でしょうか?」


 不安そうな俺を察してか、ヴィリー叔父さんは優しく微笑みながら言う。

 叔父の目には心配と期待が混ざっていた。


「闇魔法の『漆黒』を打ち消す、『光輝』をこのガラス石に入れてほしいんだ」


 叔父の手元には、高ランクのガラス石があった。それは一目でわかるほどだった。

 しかし、俺はそれを横目で見つめながら、悩ましげに眉を下げた。俺があまりいい反応を示さないのを見て、叔父は言葉を続ける。


「私は属性を所持していないから、使用できないんだよ」


 叔父の言葉に、「いつまでにですか?」と俺が尋ねると、叔父は「至急かな」と答え、すがるような目で俺を見つめた。その態度から、緊急を要する事態が生じていることが明らかだった。

 叔父が所望する『光輝』は、光魔法の中でも最上級の魔法であり、聖魔法でも使用可能なものだ。

 しかし、現時点では俺にはそれを使用する能力がなかった。


「光魔法や聖魔法は、修練をあまり積んでいません。それに『光輝』の使用経験もありません。『光輝』を使用できたとしても、ガラス石に魔法を上手く入れるかどうか不安です。数日の時間があれば対応できると思いますが」


 俺の回答に対して、ヴィリー叔父さんはとても困った顔をして腕を組んだ。

 それは、数日も時間がないということを意味していた。


「うーん。ガラス石に魔法を入れる補助はできると思うけど、魔法はさすがにね」

「一日、時間をください」


 俺の申し出に、ヴィリー叔父さんは目を見張ると微笑みながら、「わかった。頼んだよ」と言い、俺の頭を優しくなでた。

 俺はその期待に応えるように、「はい」と返事をした。

 

 叔父が『移動魔法』で部屋から消えたのを確認して、俺はヘルプ機能を呼んだ。


「ヘルプ機能、補助を頼んだよ」

《はい。ご主人様。準備はできております。駄犬をここへ呼び出しました》


 シルビアを連れて行くのかと、意外な人選に俺が内心驚いていると、ヘルプ機能から補足が入った。


《癪ですが、駄犬は光と聖の属性を所持しており、枷がなければ、相当な使い手です。駄犬に魔法の修練を監督させ、アドバイスを受ければ比較的早く、魔法を習得できると思われます》


 俺が「そうなんだね」と、相槌を打ちながらベッドを降りて身支度を始める。


《あまり褒めたくはありませんが、駄犬はあれでも神獣であり、魔術や戦闘には長けているのです》

「なるほど」

《ご主人様の魔法の習得が難しい場合、駄犬に魔力を貸し出し、ご主人様の代わりに『光輝』を使用させ、ガラス石に込めれば良いかと思います。ただ、相当な負担が、ご主人様に加わりますので、これは最後の手段と考えてください》

「了解。最終手段でも、気持ちが楽になったよ」


 ヘルプ機能の説明を聞いて、俺は少しだけ肩の荷が下りた。

 正直なところ、ヴィリー叔父さんに『一日、時間をください』との申し出はしたが、一日でそれらを習得する自信はなかった。

 けれど、叔父の俺への期待を裏切ることはできなかったのだ。


<ジークベルト。お出かけ?>


 ベッドで寝ていたハクが、まだ眠そうに瞼を開けたり閉じたりしながら、俺の方に向き直り、尋ねた。

 ハクの声はまだ眠気に満ちていて、言葉がぼんやりとしていた。


「うん。光魔法と聖魔法の修練をしにね」

<わかった。ハクも行く>

「お留守番していてもいいんだよ」

<ハクは、ジークベルトと一緒>


 そう言って、ベッドから降りたハクは体を大きく振り、眠気を振り払う。

 そこへシルビアが眠そうに目をこすりながら、少し掠れた小さな声で「呼んだかえ」と言いながら、ゆっくりと部屋に入ってきた。

 シルビアの銀の髪は乱れており、急いで来たのがわかった。

 ヘルプ機能から大まかな説明を受けたシルビアは、徐々に眠気を振り払い、普段の調子に戻っていた。


「むぅ。決勝戦は見れないのぉ」

「ごめんね。シルビア」

「仕方ないのじゃ。お主こそ兄の雄姿を見れんでよいのかえ」

「うん。決勝戦の相手は、準決勝のフランク・ノイラートより、総合力も落ちるし、実戦や技術から考えても、今の(・・)アル兄さんが余裕で勝つよ」


 俺の言葉に対して、シルビアは『お主、『鑑定眼』を使ったな』と鋭く突っ込んだ。

 俺は苦笑いしながら、「準決勝の試合中にちょっとね。相手の背景が気になったんだよ」と答えた。

 シルビアは案外聡く、俺の態度から「的は外れたのかえ」と遠慮がちに言う。

 それに対して、俺は再び苦笑いを浮かべた。


「むぅ。じゃっとすると、アルベルトの準決勝が、実質的に決勝戦だったことになるえ」

「そうなるね」

《ご主人様。お話を遮って申し訳ありませんが、時間がありません。すぐに指定した場所へ転移してください》

「あぁ、ごめんね。ヘルプ機能。じゃ、ふたりとも行くよ」


 伯爵家の客室から、二人と一匹の姿が消えた。



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