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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国中編
168/207

表と裏



 アーベル家、エスタニア王国内某拠点に、赤い髪をしたふたりの人物が姿を現した。

 ヴィリバルトとテオバルトだ。

 彼らの雰囲気は普段の温かさや親しみやすさがなく、鋭い目つきと冷たい態度で周囲を圧倒するような印象を与えた。

 影が、ふたりを一室へ案内する。

 彼らが部屋に入ると、窓際にあるベッドの上に痩せこけた女性が静かに座っていた。


「気分はどうだい」

「……」


 ヴィリバルトが女性に声をかけたが、彼女は無言のまま、何の反応も示さない。


「目覚めてから、この状態のようです」


 テオバルトが、影からの情報を伝える。


「精神を完全に壊されているね。生きてはいるが、感情のない人形だね」


 女性は、口を半開きにして、まっすぐと一点を見つめている。

 しかし、彼女の目の焦点は合っていない。


「新薬の実験台になったようだね。初めから捨て駒だったか、とても残念だよ」


 ヴィリバルトは女性に向かって、感情のこもらない冷たい目で見つめ、意味深な言葉を発した。

 その言葉に、テオバルトが反応する。


「知り合いですか」

「少しね。アルの善意(・・)で体は回復したけど、心が壊れていてはね。存外、残酷なことをしたね」


 ヴィリバルトの言葉の端々から、女性に対する嫌悪が感じられる。

 テオバルトは、女性がヴィリバルトの逆鱗に触れたのだと想像した。


「叔父様、どうしますか」


 テオバルトの問いかけの意味を正しく理解したヴィリバルトは、遠回しに言葉を繋ぎ、思案したかのように答える。


「彼女に話を聞くにもこの状態ではね。記憶を覗いても、肝心な部分は視れないだろうし……。エリーアス殿下に、彼女の処遇を決めてもらおう」

「エリーアス殿下にですか?」


 ヴィリバルトの判断に、テオバルトが目を見開き驚いた。


「彼なら、適切な判断をするだろう」

「では、すぐに連絡をとります」


 テオバルトは、ヴィリバルトの真意を汲み取る。

 エリーアスが導くのに相応しい人物かを、アーベル家に牙を向くものかどうかを、試しているのだ。


「テオ、頼むよ。あと、アルには秘密にね」

「わかっています」


 当然とした態度を示したテオバルトに、ヴィリバルトが関心する。


「テオは、覚悟ができたようだね」


 それに答えることを、テオバルトはしない。

 アルベルトは表を、テオバルトは裏を引き継ぐ。生まれた時より決まっていたことに、不服はない。

 アーベル家のために。いまは、ジークベルトのために。

 テオバルトは無言のまま、先に部屋をあとにした。


 部屋の中で女性とふたりになったヴィリバルトは、深い闇に包まれた瞳で、彼女をじっと見つめ続けた。

 その視線は、彼女の心の奥底まで届いているかのようだ。


「ジークベルトなら、きっと君を助けるだろう。残念ながら私は慈悲深くなくてね」


 ヴィリバルトの冷たく、無機質な声が部屋中に響き渡り、女性の名前を呼ぶ。


「人の欲は身を滅ぼす。自業自得だよ。ダニエラ・マイヤー。優しい夢の中で、生涯を終えるがいい」


 ダニエラが、それに答えることはない。



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