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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国中編
166/209

準決勝_02



 アルベルトは対戦相手を前に、昨日のヴィリバルトとの会話を思い出していた──。


「火魔法と炎魔法が、一時的に使用できなくなっているね」

「そうですか」


 ヴィリバルトの診断に、アルベルトは気にした様子がない。


「それより、女性は無事でしたか」

「詳しく聞かないでいいのかい」

「叔父上が、あまり問題視していないようなので、後遺症もないと判断しましたが、なにかあるのでしょうか」


 アルベルトは、さもありなんといった態度で、疑問を口にした。

 その態度に、ヴィリバルトは苦笑いをこぼす。


「君は本当に子どもと女性に弱い」

「母上の教えでもありますから、自分より弱い者に手を差し伸べることは、上に立つ者として当たり前です」


 胸を張って堂々と答えるアルベルトを、ヴィリバルトは、まるで眩しい者を見るように目を細めると、小さな溜息を吐いた。


「はぁ、義姉さんの教育の賜物だよ。彼女の体には(・・・)異常がないよ。拘束はさせてもらったけどね」

「それは仕方ありません」


 ヴィリバルトの処置に、アルベルトは大きくうなずく。そして、安堵したかのように、肩の力を抜いた。


 アルベルトを襲った光は、精霊魔法と闇魔法が混在している『混合魔法』と呼ばれるもので、一般の魔術師で繰り出せる代物ではない。

 他者の能力に干渉し、その能力を封印する力は、聖魔法、呪魔法といった上級魔法だ。

 精霊を隷属させていることから、術者は、相当な腕前の闇魔術師で、光の精霊が隷属されていると考えるのが妥当だ。

 加害者の女性は、ただ単に駒として使われた被害者であり、そこに彼女の意思はなかったと思われる。

 なぜなら、彼女の胸元付近には、奴隷紋が刻まれていたからだ。

 痩せた体や、皮膚の状態から判断しても、日常的に暴力が振るわれていたことがわかる。

 アルベルトが、回復薬を彼女に飲ませたのも、体の負担を考えての優しさからだ。


 回復薬を摂取することで、魔法を起動させる。

 敵はアルベルトが回復薬を彼女に飲ませることを想定した上で、計画を立てていた。

 アルベルトの性格を熟知している。敵の情報収集力は、アルベルトたちが考えるより長けているようだ。


「アル、明日の試合はどうする」

「あまり得意ではありませんが、土魔法で距離を縮め、接近戦に持ち込みます」

「うん。それがいいね。遠隔戦だと相手の魔術師が優位に立つ。その前に討つことが望ましいね。長期戦に持ち込み、相手の魔力切れを狙うのも戦略的にはありだけど、今日の炎魔法で相手が短期戦を見越し、全力で攻撃してくる可能性もある。アル、気をつけるんだよ」

「はい」



 ***



 手で血を拭いながら、『叔父上の予想が的中したな』と、アルベルトは思う。

 序盤から怒涛の魔法攻撃を浴び、土魔法の『土壁』で防御していたアルベルトだが、とうとう対戦相手フランク・ノイラートの風魔法、『狂風』が防御壁を壊した。

 アルベルトの頬から、うっすらと血が滲む。


 フランク・ノイラート、帝国の属国ヴィンフォルクの代表選手で、予選から準々決勝まで危なげなく勝ち進んできた。

 魔属性は風のみ。洗練された風魔法と技量、風魔法のスペシャリストと称していいだろう。

 幾度かアルベルトが、接近を試みるも、ノイラートがそれを読み『飛行』で、空へ逃避する。

 隙をついた攻撃も交わされ、ノイラートが、闘い慣れていることがわかる。


「アルベルト・フォン・アーベル! なぜ火魔法を使わない」


 上空から、ノイラートの怒声が聞こえる。

 その声に反応して、アルベルトが顔を上げると、いくつもの『疾風』が舞い降りアルベルトめがけて飛んでくる。

 それを剣でいなしながら、次の攻撃へ備えるアルベルトの姿にノイラートは、さらに声を荒げた。


「火魔法を使えと言っている!」


 彼は額に筋を浮かべながら、アルベルトを睨みつけた。

 ノイラートが、怒るのも仕方がない。対戦相手が得意とする火魔法を出し惜しみしているのだ。

 アルベルトが、ノイラートの立場なら、同じく憤慨するだろう。


「そうか、俺との試合は全力を出す気にはならないと」


 火魔法を使う気配がないアルベルトに、ノイラートは落胆した様子を見せ、アルベルトを軽蔑する。

 本来の実力を出せないアルベルトは、それを否定することができないため、沈黙する。

 その後、ノイラートの風魔法をアルベルトが防ぐ、攻防戦が続き、闘いは平行線を辿る。

 すでに一時間以上、試合時間が経過していた。

 アルベルトもノイラートも、魔力が底をつきはじめ、接近戦に入るも、ノイラートの卓越した戦闘能力が全面にでた。

 彼は槍の使い手でもあった。

 剣を槍で抑える様子は、覇気迫るものがあり、ノイラートの実力を証していた。

 アルベルトは、難敵を前に、思わず笑みがこぼれる。


「なにがおかしい!」


 アルベルトの笑みに、ノイラートが反応する。


「家族以外の相手で、本気の剣を交えるとは……なんて楽しいんだ」


 アルベルトはそう言うと、全身の力を抜く。

 一見無防備に見える構えだが、どこを突いても隙がない。動けば確実に反撃にあうことが予想でき、ノイラートは動けなくなった。

 大量の汗が、ノイラートの額から流れる。

 それを拭うことも許されない緊迫した状況の中で「化け物め」と、ノイラートが苦し紛れに発した。

 何度イメージしても、アルベルトの間合いに入れば、負ける。そのイメージを払拭できないノイラートは、自身の負けを悟るしかない。

 しかし、ここで何もせず負けるのは、己の仁義に反する。

 ノイラートは、アルベルトへ向け、渾身の一撃で、槍を突いた。


「見事だ」


 ノイラートが、地面に倒れた。


「勝者、アルベルト・フォン・アーベル!」


 競技場内に、勝者の名前があがる。

 満身創痍の姿で立っているアルベルトは、拳を握りしめ勝利を掴んだことを喜んだ。

 アルベルトの準決勝が終わった。



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