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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国中編
165/208

準決勝_01



「ジーク、元気がないね」

「うっ、ヴィリー叔父さん、わかってて聞いてるでしょ」


 昨日の醜態を思い出し、俺は赤くなった顔で、叔父を睨みつける。

 大人たちの生暖かい目を思い出し、なんとも言えないむず恥ずかしい気持ちになる。


「大人びていたかわいい甥が、まだまだ子供だってことに喜んでいるんだよ」

「うっ、なんとでも言ってください」


 ヴィリー叔父さんが、俺の頭を優しくなでる。

 そんなふうに優しくされても、俺の心は簡単になびかないんだからね。


「それより、準決勝前に呼び出した理由はなんでしょう」


 観客席に着いたとたんに、『報告』で俺を呼び出した叔父は、以前作製した『異空間』を作るよう指示した。

 昨日、叔父の気配が、伯爵家になかったことも含め、何か緊急の用ができたのだと想像できる。


「うん。ちょっと厄介なことになりそうなんでね」


 叔父の緩んでいた頬が引き締まり、空間内の雰囲気が変わったのを俺は肌で感じる。


「厄介なことですか」

「うん。昨日、アルが襲われた」

「えっ!?」


 告げられた内容に、俺は目を丸くして驚いた。

 いやだって、昨日のアル兄さんはいつもと変わらず、俺が、『試合すごくかっこよかった』『今度一緒に修練したい』と話したら、上機嫌で俺を抱き回して離さなかった。

 今日の朝食の席でも、にやけた表情で俺を見つめていて、普段と大差なかったと思う。


「襲われたといっても、怪我はなかったしね」

「よかった」


 俺は、ほっと胸をなで下す。


「ただね、精霊が関与しているっぽいんだよね」

「えっ!?」


 叔父の爆弾発言に、思考が停止した。

 この人、いまなんて言いました? 精霊が関与しているなんて、言いませんでしたか?


《はい。ヴィリバルトは、精霊の関与を仄めかしましたが、断言はしていません。しかしながら、この発言は関与が非常に高いと確信があるようです》


 ヘルプ機能が、俺の心の声に答えてくれる。

 有難いことだけど、ねぇ、ヘルプ機能。なんで昨日は、俺を止めてくれなかったのかな。


《…………。黒歴史、万歳》


 なるほど。身内に敵がいたのか。


「精霊の意思なのか、従わされてやっているのか、そこがわからないから問題だよね」

「ヴィリー叔父さん。それって精霊を隷属しているってことですか」

「その可能性が高いと私は思っているよ」


 叔父の目が細くなり、口角が上がる。その赤い目から、怒りが滲み出ていることに、俺は気づく。

 精霊の隷属は、世界で禁止されている行為だ。

 約八十年前、奴隷術を用いて横行した精霊狩り。人々の欲望によって精霊たちは傷つけられ、怒り狂い、その膨大な力で世界中の国々に天変地異を引き起こした。

 人々と精霊の間に生じた大きな亀裂は、世界の過ちとされており、子供たちは幼い頃からそれを教訓として学ぶのだ。


「準決勝に出場した国は、帝国の属国が二か国。あとはディライア王国と我が国だ」

「ディライア王国って、数日前突然伯爵家を訪問してきたサンドラ王妃の国ですよね」

「そうだね」


 叔父の頬が引き攣ったのを俺は見逃さない。

 サンドラ王妃、元マンジェスタ王国の第一王女で、叔父の親衛隊『赤貴公子会』の初代会長でもある人だ。

 武道大会がエイ選手の棄権で中断されている間、先ぶれもなく突然彼女が、バルシュミーデ伯爵家を訪問し、ヴィリー叔父さんに突撃していった。

 叔父が、物理的な圧力に負けて、たじたじになっている様は、傍から見ると面白かったが、矛先が俺に変わった時は、心底怖かった。

 ディアーナたちの鉄壁の守りで、俺は難を逃れたけどね。

 生命力に溢れたとてもパワフルな人物だったが、知らせを聞いたユリウス殿下が、サンドラ王妃の首根っこを掴んで連れ帰ったのも、とても印象的だった。


「ディライア王国の関与はかなり薄いけど、帝国の属国が気にはなるね」


 叔父の意見に俺は賛同する。

 サンドラ王妃が率いているディライア王国の関与はないと思う。

 あの人柄は暗躍できそうにないし、もし側近が悪事に手を染めていたなら、速攻で締め上げそうだしね。


「精霊を隷属させるには、奴隷術が必要になる。闇の魔術師で呪魔法が使用できる者となると、おそらく『ザムカイト』の者が関与している」

「それはなぜですか」

「闇の魔道具が、裏で頻繁に出回っていたんだ。その出所は、ほぼ帝国を経由していた。帝国の魔術師で、闇魔法を得意としている者は少ない。その中で、呪魔法を習得できる者がいるとは考えづらい。闇魔法を得意とするザムカイトが、関与していたと考えていいだろう」

「なるほど」


 叔父の説明に俺は納得する。

 魔道具の供給がザムカイトを介していたのならば、精霊を隷属する闇の魔道具を手に入れることも容易い。


「しかし彼らは、帝国から姿を消した。その後に、アルが襲われているんだよね」


 叔父は深刻な表情で、言葉を切り出した。

 その表情から、何か重要なことがあるのだと感じ取った俺は、叔父に説明を促すように見つめ、口を開く。


「術者がいなくても、魔道具が壊れなければ、精霊を隷属できるのでは」

「そこはね。アルの襲撃で使用された魔法が、精霊魔法と闇魔法なんだよ」

「闇魔法ですか」

「そうなんだよ。私の把握では、武道大会の関係者で、高度な闇魔法を使えるのは、ジークとザムカイトの者だけだ」

「それは……」


 叔父の断言に、俺は言葉が詰まる。

 要するに、叔父の把握していない第三の人物がいるということだ。


「いまのところ、実質的な被害はアルだけだから、術者を特定するのが難しい」

「実質的な被害って、どういうことですか」


 俺の問いかけに、叔父が軽く言った。


「あぁ、アルの自業自得とはいえ、火魔法と炎魔法を一時的に使用できなくなっちゃったんだよ」

「えっ!? それ大問題じゃないですか!」

「まぁ、アルだし、大丈夫だよ」


 俺がひとりで混乱している中、叔父の視線の先には、試合会場に足を踏み入れたアル兄さんの姿があった。

 準決勝が、始まろうとしていた。



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