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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国中編
164/209



 試合を終えたアルベルトは、選手控室に向けて歩いていた。

 頭の中でリフレクションを繰り返し、実戦ではじめて使用した炎魔力や試合展開など、反省点と課題をあげていた。

 炎魔法の制御が甘く、発動までに時間を要した点は、修練を積むしかない。

 しかし、序盤の試合展開は、事前に防げていた。しかも、対戦相手の肩書に踊らされた感がある。

 アルベルトは、選手控室の扉の前で立ち止まり、納得するように一度うなずく。

 事前の情報が不十分だったと反省し、情報収集能力を高める必要があると判断する。

 ふと、腕にある赤いリボンが激しく揺れていることに、アルベルトは気づいた。


「これはっ」


 咄嗟に赤いリボンを掴み、周囲を警戒する。

 アルベルトに渡された赤いリボンには、もうひとつ、効果が付与されていた。

 その効果は『同調』。水の精霊アクアが施した精霊魔法を感知できる魔法だ。


 控室の扉の前で、どうするべきかとアルベルトは悩む。


『罠にみすみす嵌まるのも一興か。膠着状態を打破するきっかけになるかもしれない。しかし……』


 告発後、アルベルトは、『武道大会爆破テロ』の阻止に全力を注いだ。

 その行動もあって、競技場内に設置された小型魔道具は、ほぼ撤去された。

 今はアーベル家の影が、小型魔道具が残っていないか、他に怪しい魔道具が設置されていないか、競技場内を再捜索中だ。

 撤去した小型魔道具は百を超え、首謀者が本気で競技場を爆破させる計画だったと、アルベルトたちは確信している。

 告発がもう少し遅ければ、アーベル家の影が動かなければ、ボフール製の魔道具がなければ、少なからずとも被害があったといえる。

 しかし、疑問もある。これほどまでに大掛かりな計画を立て、実行しているのに、第三者からの妨害は想定していなかったのか、小型魔道具を撤去しても相手側に動きがなかった。

 ちぐはぐな印象に、大きななにかを見落としている切羽詰まった思いがアルベルトにはあった。


「アルベルト様、どうなさいました?」


 背後から突然声をかけられたアルベルトは、咄嗟に身構え、警戒態勢に入る。


「ユリアーナ嬢。どうしてこちらに?」

「トビアスが動いたようで……」


 周囲を気にしながら話すユリアーナに、警戒心を下げたアルベルトは、すぐに彼女へ警告する。


「すぐにお戻りください。ここは危険です」

「なにかあるのですね」


 聡いユリアーナが、選手控室を見て、アルベルトに目配せする。

 それにアルベルトはうなずいて答えると、彼女は音を立てずに後退し始め、一度も振り向くこともなくその場を去った。

 腕の赤いリボンが、いまだ激しく揺れているのを見て、『彼女はやはり無関係のようだ』と、安堵したアルベルトは、再び控室の前で静止した。

 すると、アーベル家の黒い影が姿を現す。


「アルベルト様、彼の配下の者たちが控室に入り、しばらくしたあと、出て行きました」


 ユリアーナが言っていた、『トビアスが動いた』に関係しているのだろうと、アルベルトは思った。


「中の様子は?」

「いえ、確認できておりません」


 影の回答に、アルベルトが怪訝そうに影を見る。


「配下の者と入れ違いに、ひとりの女性が中に、アルベルト様!」


 影の言葉を遮り、アルベルトが緊迫した顔で控室の中に入っていった。

 思わず影が、アルベルトの名前を呼び、静止を促したが、その歩みを止めることはなかった。


 控室の奥まった場所で、女性が気を失って倒れているのを発見したアルベルトは、躊躇なく駆け寄る。

 彼女の脈や呼吸を確認し、息があることに安堵した。

 その間も、腕の赤いリボンは激しく揺れ続け、敵の罠にまんまと嵌まった自身に苦笑いする。


『敵は、俺の性格を熟知しているようだ』


 そう思いながら、魔法袋から『回復薬』を出し、女性の口元にあてる。

 すると、女性から光が溢れ出し、アルベルトもろとも、光に包み込まれた。


「アルベルト様!」


 影が取り乱した口調で、アルベルトの名を呼び、そのそばへ寄ろうとすると、強圧的な声がそれを止める。


「近づくな。俺は大丈夫だ。なにか羽織る物を持ってこい。叔父上に報告を」

「すぐに」


 アルベルトの指示に、すぐさま影たちが動きだす。

 全身を覆う光に、「『回復薬』が、起爆剤だったか」と、自嘲気味な声を出す。

 腕の赤いリボンは、役目を終えたように、静止していた。



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