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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国中編
163/213

準々決勝



「皆さま、大変お待たせしました。準々決勝、第五戦を開始します」


 競技場内に、アナウンスが流れると、人々が、競い合うように我先に席へ戻っていく。

 満席の観客席から、拍手が鳴り、出場選手の登場を今か今かと心待ちにしている。


「マンジェスタ王国の若き貴公子。彼の有名なアーベル家の嫡男アルベルト・フォン・アーベル。対するは、魔法都市国家リンネの刺客。氷使いのスヴェン」 


 出場選手のコールに、会場内の熱気は高まり、歓声で空気が揺れた。


「氷と火、どちらが優勢なんだろう」

「ふむ。甲乙つけがたいが、術者の技量で決まるかのぉ」


 ジークベルトの疑問に、シルビアが顎に手を置きながら思惑する。

 その答えに、「なるほど、力比べか」と、ジークベルトは納得するようにうなずいた。


「見応えのある試合となりそうですね」

「そうだね」


 ディアーナが、期待に満ちた目を向けて、試合会場に上がる出場選手ふたりを見た。



 ***



 序盤からリンネ産の魔道具を使用し、試合を己の有利な展開へもっていったスヴェンは、試合会場全体を氷で覆ったあと、アルベルトの鈍い動きを見て勝機を確信する。


「アーベル家も、所詮はこんなものか」


 スヴェンが嘲るように、体の半分が凍ったアルベルトを見る。


 アーベル家。

 世界の国々が恐れ、敬う。唯一の家。

 その配下は、数千にも及び、世界を動かしているという。


「やはり噂は信憑性にかける──」

『業炎』


 次の言葉をつなぐことはなく、スヴェンは炎に包まれた。


 それは一瞬の出来事だった。

 炎が舞うと、凍ったはずの試合会場の地面が割れ、所々に水蒸気が漏れ、会場全体の気温を押し上げた。

 そして、先ほどまで無傷で立っていたスヴェンが、意識を失くし倒れている。


「審判。彼の容態を早く確認したほうがいい。適切に処置しなければ、後々、後遺症が残る危険性がある」


 静まり返る会場で、アルベルトの声に反応した審判が、すぐに医療班を呼ぶ。

 そして、「勝者、アルベルト・フォン・アーベル」と、アルベルトの勝利を宣言した。

 運び出されるスヴェンを前に、「申し訳ない。加減を間違えた」と、アルベルトは申し訳なさそうな表情で発した。

 その後、すぐに背を向け反対側の出口へ足を向けるアルベルトに、観客たちから盛大な歓声が送られた。



 ***



「ふむ。なかなかやるではないかえ」

「圧倒的な強さでしたね」

「一瞬でした!」

「ガルッ!<すごい!>」


 各々が感想を述べる中、ジークベルトが発言していないことに気づいたディアーナが、「ジークベルト様?」と、彼の様子を窺った。

 ジークベルトのその顔は、大きな紫の瞳を丸くして輝かせ、明らかに興奮した様子が見てとれた。

 そしてすぐに、


「すっ、すごく、かっこよかった!」


 感情を爆発させるように、ジークベルトは立ち上がり叫んだ。


「ジークベルト様!?」

「なんじゃ!?」

「ほぇ」


 突然立ち上がり大声で試合の感想を述べ始めたジークベルトに、三人は困惑する。


「ねぇ、見た。炎魔法だよ。いつの間にアル兄さんは、習得したのかな。前に見学したテオ兄さんとの模擬戦は、火魔法が主流だったんだよ。匠の技で凌いでいたけど、今回は力技でねじ伏せた感じだよね。まだ未完成なのかな。制御が上手くいっていないのかな。それでもあの威力はすごいよね」

「ガルッ!<すごい!>」


 ハクがジークベルトに便乗すると、さらにジークベルトが熱弁する。


「だよね、ハク。氷が一瞬で消えたんだよ。会場の気温も上げて、氷と炎は対極的なものだけど、ここまで圧倒的な力の差を見せられると、アル兄さんの本気は底が知れないよね。どんな訓練をしたのかな。成長途中の俺の体でも耐えられる修練かな。大会が終わったら、手合わせしたいよね」

「お主、落ち着くのじゃ」


 シルビアが会話の隙をついて、ジークベルトに声をかけるも、興奮状態のジークベルトを止めることはできない。


「えっ、えっ、落ち着いてるよ。俺にもできるかな。修練したらできるかな」

「ガウッ!<ハクも!>」

「そうだね。もっと鍛えて、強い魔法を使えるようになりたいね。それにね──」


 ハクと会話を続けるジークベルトの姿を呆然と見続ける三人娘。

 シルビアが、そっとディアーナに声をかける。


「のぉ、小娘」

「なんでしょう。シルビア様」

「あやつは、戦闘狂なのかえ」

「私もあのように興奮したお姿を見るのは初めてで……」

「ふむ。エマはどうじゃ」

「わっ、私も、姫様と同じく初めて拝見します」

「ヘルプ機能はどう思う」

「「ヘルプ機能?」」

「む。なんでもないのじゃ」

《駄犬》

「なんじゃと、喧嘩なら、ぐふぅ」

《ご主人様から、駄犬の『遠吠え禁止』の許可権限をいただいて幸いでした。興奮状態にあるご主人様の姿も素晴らしい。記録に残さねばなりません。時間が経ったあと、冷静になり、黒歴史に頭を悩ませるご主人様もまた然り》


 急に口をハクハクさせ、話さなくなったシルビアに、ディアーナとエマは顔を見合わせると、『いつものことね』とアイコンタクトで笑いあう。

 そして目の前ではしゃぐジークベルトの意外な一面に、『ジークベルト様も男の子なのだわ』と、ふたりの意見が合致した。

 次の試合が始まるまで、その光景は続き、周囲からの生暖かい目で、ジークベルトが冷静になったあと、彼の顔が赤く染まり、頭を抱えて「黒歴史」とつぶやいている姿が目撃される。


 アルベルトの準々決勝は、彼の圧倒的な強さを他国に見せつけた試合となり、末弟の黒歴史を更新させる試合となった。



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