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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国中編
158/208

告発_02



「武道大会の爆破計画ですか」

「はい。そう耳にしました」


 ユリアーナは淡々とその事実を口にした。その表情から静謐な雰囲気が漂っている。


「目的は、マティアスの失態を他国の貴賓たちに見せ、継承権の剥奪を狙っているようです」

「なんて浅はかな……。失礼」

「いいえ。私も愚かなことだと思います」


 ユリアーナはアルベルトの発言を肯定する。

 一旦、言葉を切ると、「だけど、私はトビアスを守りたいのです」と、自嘲気味にそう言った。

 強い意志を感じる金の瞳に、アルベルトは吸い込まれそうになるが、己を律するように、かわいいジークベルトを思い浮かべ、踏みとどまる。

 片腕の赤いリボンが揺れていた。



 ***



 ユリアーナの告発は、あらゆる面でアルベルトを翻弄した。

 ヴィリバルトへの定期的な報告と指示。アーベル家が関与することの責任と重圧。

 そしてなにより、ユリアーナとの密会に心が躍る自身の心境の変化に戸惑いとともに、あきらめににた感情が芽生え、アルベルトはそれをゆっくりと受け入れていく。

 そんなアルベルトの様子に、ジークベルトを含めた家族が、とても心配していたことに本人は気づかないでいた。


「ご協力に感謝をいたします」


 徐々に計画の全貌が明らかとなり、阻止に向けて動いていたアルベルトへ、ユリアーナが、最後の情報を告げ、謝辞を述べる。

 彼女の姿に見入りながら、『叔父上の懸念はない』と、安堵したようにアルベルトは顔を緩めた。

 ヴィルバルトのもうひとつの懸念。精霊の関与はないと、ユリアーナとの幾度かの密会で、アルベルトは結論づけた。

 ヴィリバルトの『鑑定眼』で視ることのできないユリアーナ。

 可能性としてあげられたのが、古代魔道具、精霊の関与だった。

 しかし、ユリアーナの周囲に精霊の反応はなく、彼女から奴隷術を施した精霊用の魔道具の感知もなかった。

 彼女を守っている魔法は、古代魔道具、もしくは、我々が知らない新しく作製された魔道具の可能性が高い。それが彼女を守っているのだと、アルベルトは確信した。

 ユリアーナは相変わらず、微量の『魅了』を振りまいているが、ユリアーナの精神汚染は進んでいないと、ヴィリバルトは断言した。


「実行日は、決勝戦当日だと言ったのですね」

「はい。マティアスの失脚を考えるには、絶好の機会だと話していました」


 ユリアーナがアルベルトに向ける眼差しには、アルベルトへの信頼が窺いしれる。


「絶対に阻止してみせます」

「アルベルト様、どうかトビアスをよろしくお願いします」


 ユリアーナの弟を思う気持ちに、アルベルトは同調する。

 ふとアルベルトの脳裏に、ゲルトの姿が思い浮かんだ。

 アルベルトの心を苦々しい思いが駆けめぐり、思わず顔を顰めた。


「アルベルト様?」

「いえ、私もユリアーナ嬢のように動けていればと、昔のことを思い出したのです」


 アルベルトは、ゲルトの暴挙を止められなかった自身に嫌悪感と後悔があった。

 ゲルトのジークベルトを見る目が尋常でないことに、アルベルトは気づいていた。

 家族だからとの理由で、それを無視したのだ。結果、ジークベルトに大きな心の傷をつけてしまった。

 そして、ゲルトはアーベル家を離れた。


「アルベルト様は、後悔しているの?」


 ユリアーナの問いかけに、アルベルトは頭を横に振り、強く否定する。


「いいえ。あの時の父上や叔父上の判断は間違っていなかった。私がそれに気づき動いたとしても、防ぎようがなかった。あの出来事は、起きるにして起きたことだったと、理解しています」


 アルベルトの強い意志が垣間見れ、ユリアーナは思わず視線を逸らして、うつむく。


「私は、それでも、トビアスを助けたいと願ってしまう」

「我々がどこまでできるかはわかりません。しかし、彼の方の悪行を止めることで、彼の方の延命に繋がる可能性はあります。あきらめずに、まずは阻止に注視しましょう。必ず成功させます」


 アルベルトの力強い言動にユリアーナは、顔を上げる。


「はい。アルベルト様を信じます」


 金色の瞳が赤を映し、ユリアーナの手がアルベルトへ伸び、ふたりの手が重なった。



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