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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国中編
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それぞれの_02



「テオバルト殿、ニコライ殿、こちらです」


 腕を大きく振り、破顔した表情でテオバルトたちを呼ぶルイス。

 大変目立つ行動に、テオバルトたちは、顔を見合わせ、あきらめにも似たため息を出す。

 少しでも注目される時間を減らしたい彼らは、素早くルイスのそばに詰めた。


「ルイス殿」

「おふたりとも、動きに隙がない。さすがですね」


 テオバルトの咎めた物言いを前にしても、ルイスには効果がないようだ。

 関心した様子で、ふたりを褒める。そのルイスの案内で、城の外れの庭園、王族たちのプライベート空間にふたりは足を踏み入れた。

 テオバルトの眉間に皺が寄る。

 ヴィリバルトに相談した結果、エリーアスの思惑を探るよう指示された。

 表向きは友好的に彼らに協力する姿勢を見せなければならない。しかし、彼らの隠しもしない堂々とした対応に、早まったかもしれないとテオバルトは思った。


「ようこそ。アーベル侯爵のご子息テオバルト殿。ニコライ殿」


 庭園の中央で、黒髪に眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の男が、テオバルトたちに声をかけた。

 そのたたずまいから、エリーアス殿下であることを瞬時に判断したテオバルトたちは、頭を深く下げ、失礼がない挨拶を交わす。


「お初にお目にかかります。私はテオバルト・フォン・アーベル」

「ニコライ・フォン・バーデンです」

「エリーアス・フォン・エスタニアだよ。エリーとでも呼んでくれ」


 エリーアスが、その場の空気を和ませるかのように冗談めいた口調でそう言った。

 テオバルトが顔を上げると、眼鏡の奥にある深い緑の瞳と視線が合う。なぜか不思議な違和感をテオバルトは感じた。


「堅苦しい挨拶はその辺で、ついて来てくれ」


 エリーアスはそう言って、足早に庭園の奥に入っていく。

 テオバルトたちもその後に続いた──。



 ***



 エリーアスの私的空間である部屋の中で、テオバルトの感嘆とした声が響く。


「素晴らしい作品の数々ですね」

「テオバルト殿は、わかる人だね」

「えぇ、僭越ながら、とても興味を注がれます」

「理解してくれる人がいて嬉しいよ。残念なことにルイスは、この点についての理解は乏しいんだ」

「殿下の趣味は高尚ですので、凡人の私には理解ができず、申し訳ございません」

「ルイスは、堅苦しすぎる」

「申し訳ございません」


 ルイスの一連の動きを冷めた目で見ていたエリーアスは大きく溜息を吐くと、テオバルトに別の作品を勧めた。

 ルイスの視線がすがる様にエリーアスを追っている。

 見かねたニコライが、ルイスの肩に手を置き、小声で問いかける。


「なぁ、ルイス」

「なんでしょう。ニコライ殿」

「殿下はお前が望んでいるような……テオが見ているのってただの流木だよな」


 ルイスのあまりにも悲観した諦めの表情を見て、ニコライは途中で話題を変えた。

 何年も積み重ねてきた関係を、ぽっと出の者が指摘したところで、その関係性を変えることは難しい。

 行動を起こせるほどの意志が当人にあるか。それに、それぞれの事情がある。『俺とアーベル家のように』とニコライは思った。


「そうですよね! ただの流木にしか見えませんよね!」


 ニコライの言葉に、ルイスが嬉しそうに同意する。

 その目には、同士をえた喜びに満ちており、ニコライは『それでよく従者を務めれるな』と、表情豊かなルイスに目を細めた。

 ルイスの相手をニコライがしているのを横目で確認したテオバルトは、流木の魅力を伝えるエリーアスに確信をつく。


「殿下は、なにをお求めで」


 テオバルトの問いに、流木から視線をテオバルトに向けたエリーアスは、少し困った表情を浮かべた。


「そんなに警戒しないでくれ。私は味方だよ。ディア、いや、ディアーナのね」


 テオバルトが、エリーアスの『味方』発言の意味を思惑していると、エリーアスが緊張した面持ちで発した。


「エスタニアの闇を取り除く手伝いをしてくれないかい」


 空気が一瞬のうちに固まった。

 エリーアスの発言は、聞く人が聞けば内乱を匂わせるものだ。テオバルトの眉間に皺が寄る。

 その表情を見て、エリーアスは一度己を落ち着かせるように瞳を閉じると、強い眼差しをテオバルトに向けた。


「他国の者に願うことではないのは、承知だよ。しかし、我々では、もうどうにもならない。マティ、うおふぉん、マティアスが動いてはいるが、所詮子供の知恵。大人たちの思惑に太刀打ちはできない」


 エリーアスの顔に影が差す。


「私は継承権を放棄するつもりだった。しかし、運命は動いてしまった──」


 エリーアスの決意に、テオバルトはどう答えればいいか判断に迷う。

 テオバルトの首元にある赤いリボンは揺れず、ただ時間だけが流れていった。



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