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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国中編
152/213

謹慎中のジーク_02



「ジークベルト様にはこちらを」

「あっ、ありがとう」


 ディアーナから渡されたお土産に、俺は表情をこわばせながら受け取った。

「お揃いでつけましょう」と、期待を込めた視線を送られ、断ることはできずにうなずく。

 俺の手のひらに収まる美しい紫糸のリボン。ひも状の織物。されどリボンには変わりない。

 リボンの扱いに困っている俺のそばで、ハクはチョーカー風に首へ着けてもらい、ご機嫌だ。

 ディアーナたちの護衛に指名されたスラも紫糸のリボンをつけ、ご褒美のオークの肉を頬張っていた。


「小娘、妾だけなぜ色が違うのじゃ!」

「シルビア様は、私と同じ色がよかったのですか?」


 シルビアが金糸のリボンを片手に、ディアーナに詰め寄っていた。


「ぬぅ、違う! わかっておろう! エマは銀糸じゃ」

「はい。私とエマは銀糸。シルビア様は金糸にしましたが」


 ディアーナがとぼけた様子で首をかしげた。

 それを見たシルビアが涙を浮かべ、半泣きで叫ぶ。


「わざとじゃな。ひどいのじゃ」


 シルビアの狼狽に、ディアーナが困った表情を見せる。

 瞼を忙しげに動かしたあと、手元にある銀糸のリボンをシルビアの方へ動かす仕草をした。

 するとその横から大きな手が伸び、ディアーナの手元に別の銀糸のリボンを渡した。


「姫さん、セラ用のこれ」

「ですが」

「あとで、俺が同じ店で購入しておく。わざとじゃねぇんだろ」


 言い淀むディアーナに、ニコライが優しい目をして諭す。

 その発言に本格的に泣きだしたシルビアが静止し、ディアーナの答弁をまつ。


「はい。紫糸と銀糸は三本しかなくて、シルビア様の髪の色から金糸の方が映えるかと、些か考えが足りませんでした。申し訳ございません」


 ディアーナが、ニコライにそう説明すると、シルビアに向かって頭を下げた。


「なんじゃ、わざとじゃないならそう言え!」


 ごしごしと乱暴に涙の痕を拭い、シルビアが金糸を大事そうに懐に入れると、ディアーナの手にある銀糸を手にする。

 そしてニコライに目を向け「ニコライ、妾は紫糸を所望する」と、言い放った。


「なぜ俺が」

「同じ店で購入するのじゃろ。であれば妾は紫糸も所望する」

「おまえ、ちゃっかり二本手にしただろ」

「むぅ。金糸は小娘が妾に似合うと購入したものじゃ。銀糸は小娘たちとお揃いじゃ」

「あのなぁ、このリボンは質がいいんだ。ほいほい買えるものじゃねぇ」

「ケチじゃのう」


 シルビアが不服そうな顔をするとニコライの眉が上がる。

 ふたりの言い合いがはじまると、そばにいたエマがあたふたする姿が見え、ディアーナが涼しげな顔でソファに腰をかけた。

 俺は少し離れた場所にいたテオ兄さんの横を陣取り、謹慎中の疑問を口にした。


「ここ最近、兄さんたちは忙しそうですね」


 俺の含んだ言い方に、テオ兄さんが「そうだね」と遠い目をした。

 あっ、この質問はよくなかったと、テオ兄さんの反応を見て察したが、一度口にした質問を取り消すことは難しく、沈黙が流れる。

 ディアーナたちが帰宅する一時間前に、テオ兄さんたちは帰宅したが、叔父がアル兄さんと客室にいると聞くと、難しい顔をしてふたりの会談が終わるのを待っていた。

 そう、アル兄さんが単独で叔父を訪ねてきたのだ。

 ヨハンとの手習いを終え、屋敷内に入ったところで、アル兄さんと出くわした。


「俺のかわいいジーク!」


 いつもと同じ調子で、感極まったアル兄さんは俺を抱き上げた。

 隣にいたヨハンが唖然とその様子を見て「ジークベルトも大変なんだな」と一言。

 四歳児にして達観した発言に、伯爵家の執事が誇らしげにうなずくと「ヨハン様、歴史の先生がいらしています」と、その場から遠ざけた。

 叔父の準備ができたとの執事の案内を受けるまで、俺はアル兄さんのされるがままに可愛がられた。

 その間、伯爵家に仕える者たちからは生暖かい眼差しを受け続けた。

 テオ兄さんと同じく遠い目をして、数時間前の出来事を思い出していると、アル兄さんが疲れた様子で、俺たちのいる応接室に入ってきた。

 そして俺を見つけると物言いたげに何度か口をつぐみ、視線を外して「叔父上が呼んでいる」と告げた。

 挙動がおかしいアル兄さんを不審に思いながら、俺はみんなの輪から外れた。

 俺の横にハク、肩にはスラを連れて、叔父のいる客室に入った。


 客室に入るとすぐに叔父が「ジークにお願いがあるんだ」と、茶目っ気たっぷりに片目を閉じた。

 警戒しながらも、それに答える。


「なんでしょうか」

「じつは──」



 ***



「アルベルトが、護衛を離れる?」

「はい、殿下。アーベル伯より、さきほど連絡を受けました」

「ふーん。アルベルトが不在の間の護衛に支障は?」

「それがその。アーベル伯より、アルベルト殿の代わりに、この魔物をお側に置くようにとの指示がございました」


 近衛騎士が、戸惑った様子で自身の手のひらを見せる。そこには、ぷるんと揺れる水色の物体がいた。


「ピッ〈よろしく〉」

「これは、面白いことになりそうだ。くっくく」


 ユリウスは目を見開くと腹に手を乗せ、大笑いする。

 水色の魔獣の首には、紫糸のリボンが揺れていた。



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