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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国前編
144/208

叔父は甘くない_04



 俺の涙がとまり、落ち着きを取り戻すと、俺を包んでいた大きな存在が消える。


「このままずっと抱きしめて甘やかしたいけど、それは彼女に譲って、私は我慢するよ」


 そう言って叔父は自席に戻ると、人の悪そうな顔する。


「それにしても彼女が、神獣とは驚きだね。是非とも私の研究に協力して欲しいね」

「本人がいいのなら、ぼくは構いませんよ」


 いつものやりとりに、俺も乗る。

 すると、シルビアが腕を強く引張り、口をハクハクさせながら、顔を激しく横に振る。

 あっ、忘れていた。

 ヘルプ機能に指示されて『遠吠え禁止』をしていたのだと思いだした。

 叔父との会話に、よけいな邪魔が入るとかえって話しが複雑になる。

 ヘルプ機能のそんな提案を、シルビアが抵抗することもなくすんなりと受け入れた。

 しかも、シルビアは、俺と叔父の会話中、自身の気配を消し、俺たちに配慮していた。

 やればできる狼だった。シルビアの評価を見直し、『遠吠え禁止』を解除した。 


「妾は嫌じゃ! そやつに協力などできん! 底知れぬ闇を持っておる。近づけばスパッじゃ!」

「あっははは。私も嫌われたものだね」


 シルビアの物言いに、俺が注意すると、ひどく驚いたような顔する。


「シルビア、いくらなんでも言い過ぎだよ」

「なっ、なっ、おぬしは、わからんのかえ!」


 俺に真剣な表情で必死に訴えるシルビアと、なにかがツボに入ったのだろう、腹を抱えて笑っている叔父が対照的だ。


「あっははっ……久々に笑ったよ。それならジークと一緒の時にでもお願いするよ」

「はい」

「うっ、仕方ないのじゃ。おぬしと一緒なら、付き合うのじゃ」


 俺が戸惑うことなく返事をすると、シルビアは、あきらめたように了承した。

 その様子に叔父が満足そうにうなずく。


「ジークが、全属性持ちで、前世の記憶があるとはね」

「信じてもらえるのですか?」


 その問いかけに、叔父が不本意そうに眉を上げる。


「信じるもなにも、ジークが言ったことを疑うなんてしないよ。それとも嘘なのかい?」

「いいえ」


 俺へ全幅の信頼を寄せる叔父に、なんだかくすぐったくなる。


「前から不思議だったんだよ。ジークの知識量の多さもだけど、ジーク発案の料理や品物は凄すぎる。兄さんは『天使が天才だった』って褒めてたけどね」

「父上……」


 その情景が思い浮かび、俺は苦笑いする。


「地球の日本だったね、一度は訪れてみたいね」


 叔父の冗談が、なぜか気になる。

 叔父なら不可能を可能にするのではないかと、思ってしまう。


「ジークの秘密は、私だけの胸にしまっておこうと思う。兄さんにも話しをするべきだが、今は時期が悪すぎるんだ。ごめんね」

「いいえ、わかりました。ただ、父上には、ぼくから話をしたいです」

「それがいいね。その時は、私も同席しよう」

「はい。ありがとうございます」


 叔父との会話中、シルビアが俺の腕を引っ張る。


「どうした、シルビア?」


 シルビアが、ハクハクと口を動かす。

 あっ、さっき、つい、シルビアとの会話が終わったので『遠吠え禁止』を発動したんだった。


「妾の扱いが雑するぎるぞ! 仮主として、もう少し丁重に扱えぬのか!」

「ごめん。つい癖で……」

「妾は、神獣なのじゃぞ。そもそも、ぐふぅ」

「で、なに?」


 話しが長くなりそうだったので、物理的にシルビアの言葉をとめる。

 涙目で俺を見上げるシルビアに、笑顔で圧をかける。

 要件を簡潔にね。


「おぬしは前世の記憶があり、前世は地球という異世界にいた人物なのか?」

「そうだよ。あれ? 説明していなかった?」


 シルビアの質問に俺は首をかしげる。

 俺の反応を見たシルビアは、とても不服そうな顔する。


「説明されておらん! しかも、話を聞く限り、天界管理者と接触しているではないか」

「天界管理者?」


 聞きなれない言葉に、該当しそうな人物を想定する。


「あー、生死案内人のこと。転生する直前に説明を受けただけだよ」

「先ほどの話では、生身の姿でも、接触したのではなかったかえ?」

「前世で死ぬ直前に会ってるけど、それが何?」


 俺が肯定すると、シルビアの表情が、パーッとひときわ明るくなる。


「おぬし、凄いのじゃ! 神界の者でも、天界管理者に会うことはできん!」

「そんなに興奮すること?」

「なっ、何故、その凄さがわからんのじゃ!?」

「そう言われてもな。それに姿なら迷宮で確認できるよ」

「なぬぅ!」


 俺たちが生死案内人について語っているそばで、叔父が難しそうな顔で、その話を聞いていたことに俺は気づかなかった。



 ***



「精霊ごときが妾に何をするのじゃ!」

「なによ。偉そうに! 今のあなたは枷しかない。ただのお荷物じゃない!」

「なっ、レベルがリセットされただけじゃ。レベルが上がれば、妾も役には立つのじゃ!」

「あら。お荷物だってことは認めるのね。うふふ」

「むぅ。現状は致し方ない。じゃが、本来の妾の力は、精霊よりも遙かに上じゃ!」

「ふん。ただの負け惜しみね」

「なんじゃとーー!」


 お互い額と両手をくっつけながら、いがみ合っている。

 外野がうるさすぎて、叔父との話が中々進まない。

 シルビアにだけ『遠吠え禁止』を使用しても、フラウの攻撃はとまらないだろう。

 そんなふたりをよそに、俺は叔父と視線を合わせる。

 叔父の合図で、俺は空間魔法を使い、俺と叔父だけの『異空間』を部屋に作った。

 外野がその状況に気づいた時には遅く、慌てて空間内に立ち入ろうとするが、弾かれる。

 この空間は、俺たちふたり以外は、中に入れない仕組みとなっており、外野の声も中の声も聞こえない仕様だ。

 叔父が気を利かせて結界も張っており、さらに強固となっている。

 叔父との息もぴったりだ。


 あの後、テオ兄さんから救援要請の『報告』が入り、あの場はお開きとなった。

 そのため、朝から叔父の屋敷を訪ねたのだ。

 シルビアは、強制転移されるので、仕方なく連れてきた。

 ハクたちは、かわいそうだけれど、まいた。

 ごめん、ニコライ。後は任せた。

 テオ兄さんの救援要請は、ハクたちのことだった。

 昨日、屋敷に帰宅した俺は、それはもう大変だった。

 ハクやスラにも、俺の強い心の動揺が伝わっていたようで、心配も度を超すと、発狂することがわかった。

 ハクたちを宥めるのが、本当に大変だった。

 苦い記憶として、心の奥底に仕舞っておく。


「ふたりには、いい薬となるね。少し反省してもらおう」

「そうだといいんですが……」


 俺たちとシルビアたちの間には、半透明ガラスのような壁があり、お互い見ることはできる。

 ふたりは壁を叩いていたが、早々にあきらめて、コソコソとなにかよからぬ相談をしている。

 さきほどのいがみ合いは、どこにいったのか。

 その様子を見た叔父が「あまり時間はなさそうだね」と、苦笑いした。

 俺もその考えに一票だ。


「さて昨日は、色々とあったけれど、落ち着いたかい」

「はい。ご迷惑をおかけしました」


 叔父の言葉に重みを感じる。

 ハクたちの発狂に責任を感じているようだ。


「本題に入ろうか。エスタニア王国の真実をジークは、知っているんだね。それは神獣である彼女が、ジークと契約したことにも関係があるのかな?」

「結論から言いますと、シルビアとの契約は関係ありません。契約には了承しましたが、あの場ではそれしか選択肢はありませんでした。ほぼ強制的に決まったものです。厄介払いもいいところですよ」


 あの状況を思い出し、苦笑いしながら俺が肩をすくめると、叔父がつぶやく。


(えにし)も人の運命(さだめ)だ」

「?」

「彼女がジークと契約したことは、何らかの理由があるよ」

「どういう理由ですか?」

「それは、私にもわからない」


 どういう意味だ?

 叔父の意味不明な回答に戸惑うが、考える時間もなく、叔父が話題を変えた。


「次に行こう。ディアーナ様に王家の真実を話すかを迷っているんだったね」

「はい。ディアに話せば、彼女は内戦を止めるためだけに動きます」

「内戦を止めるだけの真実があり、ディアーナ様が動くと確信があるんだね」

「はい」


 俺の肯定に、叔父の目が妖しく光る。


「ではその真実、聞こう」

「ぼくが知り得た真実は──」


 叔父に、ヘルプ機能で調べ上げたエスタニア王国の真実を暴露した。

 その真実に叔父の顔つきが変わる。


「なるほど。先祖返りはそこがルーツか」

「はい」

「となると──」


 ガッシャーン!

 結界と空間が壊れた派手な音がした。

 振り返るとそこには、ご機嫌斜めなフラウとシルビアの姿があった。

 話に集中しすぎて、ふたりの存在を忘れていた。


「うふふ。最上級の風魔法使っちゃったわ」

「スキルがなくても、魔法は使用できるのじゃな。おぬしの魔力、ちと使わせてもらったのじゃ」


 ふたりの目が据わっている。

 放置した時間が長すぎて、完全に切れている。

 あとの始末どうするよ。

 あっ、ヴィリー叔父さん、どこにいった!? 素早い! ひとりで逃げたなっ!

 俺も逃げ……。逃げられない。

 ふたりに肩を強く掴まれ、逃げる隙がなくなってしまった。

 万事休すとは、このことを言う。



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