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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国前編
141/207

叔父は甘くない_01



「子供だと思っていたけど、立派な淑女なんだね。ジークは、これからも大変だね」


 叔父の他人行儀な物言いに、俺は唇を突きだしながら不貞腐れたように抗議をする。


「見ていたなら、助けてください」

「あぁいったのは、他者が入るとますます揉めるものだよ。自然の流れに身を任せるのが一番いいんだよ」


 わざとらしく眉尻を下げ、困った表情をする叔父を見て、『ああ、面白がっている』と察した。

 俺は叔父に軽侮した視線を向ける。


「至極真っ当な意見を述べていますが、要するに、今後も助けるつもりはないってことですね」

「嫌だなジーク。私が可愛い甥っ子を見捨てるなんてことするはずがないよ。それにジークには、信頼している護衛がいるだろう」


 俺の態度に、叔父は目を泳がせながら話すと、途中で一点を見つめた。

 突然話しを振られたニコライは、慌てたように弁明する。


「はぁ? 俺に話を振るなっ! チビ、そんな、すがるような目をするなっ。おっ俺は、無理だぞ。そもそも護衛の範疇を逸脱しているぞ」

「主の意向にそう。その勉強にいい機会だと思うけどね」

「それとこれとは別だろ。ふざけんなよ、赤っ!」


 ニコライが声を荒げて、叔父に詰め寄っている。

 なんだかふたりの仲が前よりも深まったように感じる。

 それにニコライの雰囲気が、以前のように戻っている。

 はじまりの森で再会した時の重苦しさが抜けて、なにかを振り切ったような感じがする。

 なにがあったかは知らないが、やはりニコライは、これがいい。

 今後の関係はわからないけれど、このままでいて欲しいと切望する。


「おいっ、チビ、なにを笑ってるんだ。そもそもお前が半魔を拾ってくるからだなぁ」

「えっ? ぼくが悪いんですか? 記憶のない半魔をあのまま野放しにしても、ニコライ様は心が痛まないんですか?」


 ニコライが、目ざとく俺の様子に気づくので、ちょっとした悪戯をする。


「そっ、それは……。つぅか、話が逸れてるぞ!」

「そもそもニコライ様が振った話題なのに、逃げるんですね。ぼくのせいにして、そのまま逃走するんですね」

「ニコライ、いい大人が見苦しいよ。親友として悲しくなる」

「お前ら兄弟は、ほんといい性格してるよなっ!」


 最近、テオ兄さんと元気のないニコライをからかうのが、俺たちの日常だ。

 テオ兄さんと顔を見合わせ、次はどう攻めるか、考えていると、大きな咳払いが聞こえた。


「ゴホンッ。姫様たちの話は面白いが、そろそろ話をしてもよいですかな?」

「「失礼しました。伯爵」」

「パルじゃ、テオバルト殿、ジークベルト殿」

「「はい。パル殿」」


 俺とテオ兄さんは、謀ったかのように言動も仕草もシンクロする。

 その状況が、少しおかしくて、テオ兄さんを見ると、テオ兄さんも同じように思ったのか、目を合わせ笑い合う。


「歳が離れていてもそこは兄弟ですな。息がぴったりだ。うむ。ヨハンにも早く兄弟を作ってやれ」

「父上、話が逸れています。調査結果を速やかに報告して下さい」


 その戯言をエトムント殿が切ると、ツルピカの強面おっさんが、拗ねた口調で言う。


「わかっている。今しようとしたところだ。エトムントはもう少しユーモアをだな、わかっている。話すからそう睨むな」


 またもや話しを脱線するパルに、エトムント殿の無言の圧がかかった。

 それを受けたパルが、本腰を入れ話しだした。


「ゴホンッ、ジークベルト殿からの報告を受けて、その人物と接触した子供たちに話を聞きに行きましたが、誰ひとり、その人物のことを覚えておりませんでしたな」

「「「えっ?」」」


 俺たちの反応を見たパルが、大仰にうなずく。


「つまり、ヨハン以外、記憶にないということですな」


 どういうことだ? と、俺が思考を巡らせている中、テオ兄さんが発言する。


「『忘却』ですか」

「それがね、テオ。面白いことに『忘却』を使用された形跡がないんだよ」

「叔父様、それは……」

「そう。術者は相当な使い手だね。これは色々と不味いね」


 不味いと言いながらも、叔父の表情はとても楽しそうだ。

 あぁ、被害者予備軍に合掌。

 生真面目なエトムント殿が、それに気づき指摘する。


「アーベル伯、言葉と顔が合っていません」

「これは失礼。しかし、バルシュミーデ伯、強者ですよ。興味ありませんか?」


 叔父が、エトムント殿を煽るような言い方をする。

 生真面目なエトムント殿が、そんな言葉にのるはずがないのに……。


「アーベル伯、何を仰っているのですか。ヨハンを危険な目に合わせた相手です。徹底的に潰すに決まっているでしょ。地獄を味あわせてやりますとも」

「話が合いそうですね」

「えぇ、今回は合いそうです」


 そうだった。この人も武人だった。

 ヨハンが関わっているのに、素通りをするはずなんてない。

 ふたりが意気投合して、固い握手をするそばで、ニコライとテオ兄さんがコソコソと談合している。

 その談合内容、俺には、ばっちり聞こえているんですが、大丈夫?


「なぁ、あれ、まずくねぇか」

「さすがにまずいよね。アル兄さんに報告を入れておくべきだね」

「俺らも強制参加ぽくねぇか」

「おそらく……」

「ちっ、また厄介ごとかよ」

「でもニコライ、父様の極秘指令に関係ありそうだ」

「そうか。ならしかたねぇ」

「できれば、ジークたちを切り離したいけど、叔父様はジークを巻き込むつもりのようだ」

「赤が巻き込まなくても、チビが首を突っ込むだろうよ」

「それもそうか。とりあえずプランBで」

「おうっ」


 ニコライの地声、意外に大きいの気づいてないのかな。

 今はあちらも、盛り上がっているから話の内容は聞こえてないけど、ばっちり俺には聞こえています。

 父上の極秘指令ってなんだろう?

 すげぇ、気になるし、プランBって。作戦練ってきたんだ。

 それにニコライ。これだけは否定しておくよ。

 叔父が、俺を巻き込むのはいつものことだけど、俺自身は、わざわざ厄介事に首を突っ込まないからね。

 自然と。自然と、巻き込まれているだけなんだよ。

 この苦労人のせいでね!


「ゴホンッ。話を続けますぞ。まず表沙汰にはしませんが、バルシュミーデ家嫡子誘拐未遂事件として、国には内々的に報告したので、我々は派手に動けますな。犯行の手腕から考えて狙いは姫様。裏に反乱軍の首謀者がいるのは確実。儂も私怨がありますので、独自ルートで調査しておりました。中々尻尾が捕まりませんでしたが、はじまりの森への移動石。あれは貴重な物でして、ある人物が購入したとの情報を入手しております」

「さすがパル殿。情報が早いですね。私も殿下から許可を得ましたので、協力は惜しまないですよ。手始めにヨハン殿の記憶を視る許可をお願いしたい」

「記憶を視る? そのようなことが可能なのですか。さすがアーベル殿ですな」


 叔父の申し出に、パルが一瞬訝しげな表情をするが、その意味をすぐに理解して叔父を賞賛する。

 するとエトムント殿が、真剣な面持ちで叔父に詰め寄る。


「記憶を視ることにより、ヨハンへの影響はないのですよね?」

「直接的な害はないよ。ただ記憶を視る際に、その人物の考えや感情なども視えてしまうんだよね。ヨハン殿は、まだ幼いので、問題はないと思うけどね。もちろん事前に本人の許可はとるよ」

「害がないのであれば、許可しましょう。ヨハンに協力するよう、私からも伝えておきます」


 叔父の説明を聞いたエトムント殿が、晴れやかな顔で容認した。

 俺は額の汗を拭う。

 緊張したー。

 エトムント殿の隠れ漏れた殺気が、部屋の空気を揺らしたが、それを平然と至近距離で受け取る叔父はさすがだ。


「助かるよ。記憶が視れるのは、他言無用でお願いするよ。あと長時間拘束するので、部屋の用意と人払いをして欲しい。魔法施行中は、私自身も動けないので、警備の強化を願いたい」

「大掛かりな魔法ですな」

「それはもちろん。人の記憶を視るからね。それと、ジークとスラも念のため同席願うよ」

「えっ? ぼくとスラですか?」


 突然話しを振られた俺は、なにがなんだかわからない。

 記憶を視る系の魔法なんて、禁忌に近いものには手を出していない。

 それにスラをどうするつもりだ?

 俺の困惑顔をよそに、叔父は笑顔だ。


「そうだよ。詳細はあとで伝えるからね」

「わかりました」

「記憶が薄れない内にヨハン殿を視るとして、本格的な行動、首謀者の一掃は、武道大会の後って事でいいんだよね」


 叔父が今後の予定を確認した。

 パルがそれに答える。


「それが妥当ですな。今は各国の首脳が集まっておるので、わざわざ無用な火種を付けることは避けた方がよいですな。先方も馬鹿でなければ動かんだろう」

「では、二日後に開催される武道大会を楽しみつつ、各々情報を集めるということで、いいね」


 叔父の言葉に、その場にいた全員がうなずく。

 首謀者の一掃とか、俺の前でするってことは、完全に巻き込むつもりだ。

 どうせ、巻き込まれるんだから、動く時期だけでもわかったから、よしとしよう。

 それに、武道大会は楽しめるようだし。

 すごく楽しみにしていたので、めちゃくちゃ嬉しい。

 屋台とかもあるのかなぁ。

 異国の料理、食べてみたい。

 ヨハンと一緒に回るんだ。楽しみだ。

 武道大会の事を考え、顔のニヤつきがとまらない俺の腕を突然、叔父が掴んだ。


「えっ?」


 まったく状況が把握できていない俺を余所に「私とジークは、これで失礼するよ」と、叔父がみんなに言った。

 そして、強制転移をさせられた。



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