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不運からの最強男  作者: フクフク
幼少期前編
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兄姉の試練_03



「いたっ、姉様、大丈夫?」

「だっ、だいじょうぶよ」


 二人が落ちた場所は、深い洞窟のようだった。

 上を見上げるが、地上の光はなく、落ちたはずの穴がない。

 テオバルトは、確信した。

 これは父様たちの罰だ。大人の話に首を突っ込んだからだ。


「テオ、膝を擦りむいているわ『癒し』」

「姉様、ありがとう」

「それにしても、ここはどこなの?」

「姉様、おそらくここは……」


 テオバルトが、父様たちが用意した罰のようだと話そうとした矢先、ドッ、ドッ、ドッドッドッ、ドドドと、なにかが迫ってくる音が聞こえる。


「なっ、なに? なになの?」

「姉様、走って!」


 巨大な石が、マリアンネたちの方へ転がってくる。

 洞窟いっぱいのそれは、回避できそうにない。

 あれに押し潰されたら、怪我じゃすまないよね。

 どうする? どうしよう! 逃げていてもらちがあかない。

 体力はあるけれど、所詮は子供の体力だ。

 横にいる姉様は、動きやすい服を着用しているが、それでもドレスに違いはない。

 そろそろ息が上がって……。そうだ!


『沈下』


「姉様、その横穴に身を隠して」

「よっ、よこあなっ……」


 二人して横穴に身を寄せる。

 巨大な石は、危機一髪のところで、二人の横穴を通り過ぎた。

 ほっと安心したのも束の間、ドンッと大きな音とともに、地面が揺れた。

 その揺れに、顔面が蒼白になる。

 えっ? さっきの石? 死んでいた?

 父様たちの罰だから怪我などすることはないと、安易に考え油断していた。

 もしかすると、父様たちの罰ではないのかもしれない。

 新たな迷宮やダンジョンが、出没した可能性も少なからずあるのだ。

 乱れた呼吸を整え、疲労困憊の姉様をみる。

 ドレスは、ドロドロで裾が所々破れている。幸い靴はヒールがあるものではなかったようだ。

 これならまだ動けそうだ。

 回復魔法を使用して、強制的に体力を戻す。あとあと身体に響くが、そうはいってられない。


「姉様、早急にここを出ましょう」

「うん。でもここはどこなの」

「アーベル家の敷地内です。『報告』で確認をしました」

「出口はあるのね」

「あるけれど、距離が……」

「どうしたの?」

「距離がおかしい!」


 ズッ、ズッ、ズーーと、横穴の壁が動き出す。

 その異変にマリアンネが、不安な声をだす。


「次はなに?」

「姉様、ここを出ましょう」


 テオバルトが作製した横穴は、子供二人でいっぱいいっぱいだった。

 徐々に身体を壁に押し出され、テオバルトはマリアンネの手を取り、洞窟へ戻る。

 そこには、大きな壁があり、徐々にだが動いていた。


「壁が動いているわ」

「そうだね。姉様、追いつかれる前に動きましょう」


 壁の動きは、石よりは遅く、歩いて移動しても間に合う状況だった。

 先ほどのこともあるので、油断はせず、壁との距離を稼ぐため、足早に出口を目指す。

 姉様には報告途中だったが、出口はあるが、その距離が『???』だったのだ。

 誰かの意図がある。ここは迷宮でもダンジョンでもない。

 しばらく歩くと、大きな穴があり、穴の下にはお約束の大量の針があった。


「テオ、どうするの」

「土魔法苦手なんだけれど『形成』で、橋を作ってみるよ」

「ごめんね、テオ。私、なんの役にも立たないわ」

「姉様が気にすることはないよ」


 テオバルトは、集中してイメージを固める。

 魔力循環を高め、強度の高い橋をイメージして『形成』と放った。

 そこには、およそ橋ではない土の塊が、穴を覆っていた。


「テオ、穴を塞いだのね。これなら動きやすいわ」

「いや、姉様……。僕は橋を…………」


 マリアンネは、テオバルトの落胆に気づかず、土の塊の上を歩いていく。

 その後、何度か同じ光景が現れ、その度にテオバルトが『形成』をするが、橋ではなく、土の塊が穴を覆っていた。徐々にテオバルトの精神が削られていく。

 僕は、ものを作る技術がないようだ。

 頭の情景には、王都の立派な橋をイメージしているのだ。決して土の塊をイメージしてはいない。

 ここまで才能がないとは、思っていなかった。うん。次の魔術学校の課題は、あきらめよう。

 テオバルトは、転んでもただでは起きない精神力の持ち主だった。





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