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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国前編
135/207

はじまりの神殿_02



「──ということじゃ」


 幼女こと、シルビアの説明に、俺は「なるほど」と相槌をうち「面倒だな。ディアの覚醒にも色々と条件があるのか?」と、再確認も含めて尋ねた。

 シルビアは大きくうなずく。


「うむ。そのディアという小娘は、覚醒に値する器なのかえ?」

「器に値するから、能力が付与されたんだろう」


 シルビアが、人差し指を立て「チッチッチッ」と口を鳴らしながら指を左右に振る。


「おぬしは、単純じゃのう。特に先天的能力は、その者に合うか合わないかで付与されているわけではない。ぐふっ」


 その得意げな顔と態度に、なんとなく腹が立ったので、俺はシルビアの顔面を手で覆う。


「何をするのじゃ!」

「あっ、悪い。無性に腹が立ったので」

「おぬし! 妾は、身体は小さくなったが、神界でも指折りの絶世の美女なのじゃぞ! その顔になんたる非道!」

「美女? どこに?」


 俺がわざとらしく周囲を見渡す。

 シルビアが、奇声のような声を出して否定した。


「ぐふっ、ここにおるではないか!」


 その形相に、自称絶世の美女が聞いて呆れる。

 ぐふっとか言っている時点で、駄目だわ。

 ギャーギャー、ほざいているが、無視だ。無視。

 それにしても、こいつを連れ歩くのか……。

 一旦、屋敷に……。

 いや、マリー姉様たちに迷惑がかかる。却下だ。

 黙っていれば、何とかなるか?

 未だ騒いでいるシルビアを見て、黙ることは無理だと悟る。

 そこに『ご主人様、駄犬を黙らせる方法がありますが』とヘルプ機能から素晴らしい提案が入る。

 その内容に俺は『おー!』と、心の中で拍手をする。

 シルビアの元の飼い主、主様の加護がそれを可能としたらしい。 

 さて、対策はできたし、シルビアを連れて、神殿を出ることにする。

 ヨハンをひとりにして、二時間弱。

 昼寝から起床して、俺がいないことに不安になっているかもしれない。

 騒いでいたシルビアの首元を掴む。


「ぐふっ!?」


 これはシルビアの口癖かと、だったら慣れるしかないなぁと、考えながらシルビアを引っ張りながら、神殿の外に出た。

 シルビアにとって、五百年振りの外だ。

 いくらシルビアでも、感慨深いよねと様子を窺うが、その目は驚きに満ちていた。

 思ってもいないその反応に俺は「えっ?」と首を傾ける。

 シルビアは、俺の元から離れると、湖の脇まで走って行き、声を上げた。


「! みっ、みずーーーー! 何故!? 何故、水に囲まれているのじゃ!」

「湖だからね」


 俺のツッコミに、シルビアが興奮した状態で叫ぶ。


「なぬっ。湖だと!? 妾は知らん! 主様に内緒で地上に下りた時は、湖などなかったのじゃ!」

「五百年経ってるから、湖ぐらいできんじゃない」

「むぅ。そうか……。じゃとしても、ここからどうやってでるのじゃ。まっ、まさか! 泳ぐのかえ!? むっ、むりじゃ、妾は泳げん。泳ぐぐらいなら、神殿に戻る!」


 湖に背を向けたシルビアは、一目散に神殿の中に向かう。

 その姿を目で追いながら、俺は告げる。


「神殿に戻るのか。お好きにどうぞ」

「仮主のおぬしも一緒に戻るのじゃ。神殿は快適じゃぞ。誰もおらぬが、食事も風呂も自動で用意される。望めば主様が禁止した物以外なら何でも手に入るのじゃ。菓子や遊具、本や魔法書なども全てじゃ」

「おまえ、悠々自適な生活送ってたんだな……」


 ほんの少しでも同情した俺の気持ちを返して欲しい。

 俺の軽蔑した視線に気づいたシルビアが、言い訳するように口をひらく。


「うっ、じゃが、誰にも会えん。話し相手がおらんのじゃ。虚しく、寂しかったのじゃ……」


 言葉にしてその情景を思い出したのか、その小さな体を縮め、孤独を噛み締めた。

 その姿に、かわいそうだと思ってしまう。

 はぁー。

 俺は額をポリポリとかきながら、シルビアへ向けて手を差し出す。


「俺は、空を飛んで行くけど、どうする?」



***



「手を、手を放すのではないぞ」

「はいはい。手は放さないから、少し離れようか」

「!! 何故じゃ! 妾は、はじめてなのじゃ、優しく、優しくしてたまもう」

「優しくも何も、飛びにくいんだよ」

「むっ、無理じゃ! これ以上は、離れることはできん! おぬし、落ちたら水なのじゃぞ」


 俺が離れると思ったのか、シルビアは、先ほどよりも近く俺にしがみつく。

 動きづらいったらありゃしない。

 かれこれ数十分。このようなやりとりが続いている。

 本来であれば、陸に着いているはずだ。

 あの時のしおらしさは、どこにいったのだ。


「そんな目で見ても駄目じゃ! 妾はこれ以上の譲歩はせんぞ!」

「わーってる。ほら、もう陸が見えた。あと少しだ。頑張れ」

「きゅ、きゅうに優しくなるのは、卑怯じゃぞ」


 俺の言葉に、シルビアが顔を真っ赤すると、急に大人しくなる。

 おっ、動きやすくなった。

 好機だ。

 飛ぶスピードを一気に上げ、加速する。

 シルビアが驚いて、ワタワタと動いているが、加速すればこちらのものだ。

 一気に魔テントの上空までたどり着き、周囲に魔物がいないことを確認して、降り立つ。


「やっ、やっと、地に足がつく! ここまで長かった、長かったのじゃ……。うっ、う、うーー」


 ヘナヘナと、腰を下ろし、半泣き状態で、地面に手をつく幼女。

 初飛行で、下は苦手な水。極度の緊張状態だったのだろう。

 少しすれば立ち直るだろうと見越し、シルビアを放置して、魔テントにかけられた術を確認する。

 術は解けておらず、ヨハン自身が外に出ようとした形跡もなかったことに安心する。


「ただいま」

「ジークベルト、どこに行っていたんだ。遅いぞ! パンケーキを一緒に食べようと待ってたんだぞ!」


 魔テント内に入ると、ヨハンが勢いよく俺に飛びついてきた。

 言葉とは裏腹に、心配させたようだ。

 ギュッと力強く、俺の腰に腕を回しているが、その手は僅かに震えていた。

「心配かけて、ごめんね」と、頭を数度撫でると、ヨハンが上目遣いで「心配したぞ」と口にして、頭をぐりぐりと押し付ける。

 なにこの生き物。

 可愛すぎるだろ。弟、めっちゃ可愛い。

 俺がデレーッと、鼻を伸ばしていると、そこに邪魔が入った。


「おぬしら何をしておるのじゃ?」

「ん? おまえだれだ?」

「小童が、妾に……!?」


 口をハクハクさせたシルビアは、声が出ないことに驚いている。

 その様子にヨハンが、疑問を投げかける。


「ジークベルト、こいつどうしたんだ?」

「お腹の調子が悪いようで、恥ずかしがって声が出ないようなんだ」

「!?」

「そうなのか。トイレはあっちだぞ」


 シルビアが首を横に振り、猛烈に拒否するが、俺は満面の笑みでトイレを指して『命令』した。


「シルビア、いっておいで」

「!!」


 体が勝手に動くことに戸惑いを隠せないシルビアは、口をハクハクさせたままトイレに入っていく。

 これも主様の加護のおかげだ。

 一日に一回、絶対『命令』が発動できるのだ。

 ヘルプ機能、よく見つけてくれた。


 ***********************


 ご主人様のお役に立て、嬉しいです。


 ***********************


『どういうことじゃ!』

『シルビア、悪いが、ヨハンに説明するまでそこにいてくれ』

『そういうことではないのじゃ! 何故、妾の声がでんのじゃ!』

『あぁ、それ。主様の加護でついた『遠吠え禁止』機能だ。シルビアの声をオン・オフできるんだ。便利だろ』

『なっ、なっ! まっ、まさか、身体が勝手に動いたのも……』

『そう。それも主様の加護でついた便利機能』

『ひっ、酷いのじゃーー!』


 ***********************


 駄犬が、ギャーギャーと五月蠅い。

 ご主人様の邪魔をするのではない。


 ***********************


『なんじゃ、この頭に響く失礼な声は? 誰じゃ!』

『俺の鑑定眼のヘルプ機能だ。とても優秀なんだ』

『鑑定眼のヘルプ機能じゃと!? そんなはずあるはずないのじゃ!』


 ***********************


 あるのだよ。

 駄犬には到底思いつかない。


 ***********************


『なんじゃとぉ……この気配、まさか!?』


 ***********************


 駄犬が無駄に知識を持っていると厄介ですね。

 ご主人様、申し訳ございません。

 勝手ながら、駄犬との念話を強制的に切らして頂きました。

 ご主人様、私めに駄犬の調教許可を頂きたいのですが、宜しいでしょうか。


 ***********************


 いいけど、ほどほどにね。

 あと君の正体は、まだまだ先でいいので、その辺も考慮してくれると有難い。


 ***********************


 承知しました。

 私も、まだご主人様にお伝えするわけにはいきませんので、大変有難い申し出でございます。

 では、少々お時間を頂きたいと存じます。

 駄犬にどちらが、格上か分からせます。


 ***********************


 俺の魔力量が増えるにつれ、ヘルプ機能ができることも増えたようだ。

 すでに鑑定眼のヘルプ機能の能力を逸脱している。

 そこは俺だからで、もうほとんど突っ込まないことにしている。

 そろそろ、ヘルプ機能の名前も決めないとなぁ。

 その前に、ヨハンにシルビアの説明だ。

 最低でもあと二日は行動を共にするので、受け入れてもらわないと。

 ヘルプ機能の調教に期待しつつ、共に行動する理由と俺のそばにいても怪しまれない理由を考える。


「ジークベルト、あいつ大丈夫なのか?」

「あぁ、大丈夫だよ。森に迷い込んで、そこら辺の物を口にしたようなんだ」

「もしかして、おれたちと一緒か?」

「ん? あぁ、そうみたいだ。この国とは違うところから来たみたいだ」

「だから、ジークベルトが外に出ていったんだな」

「あぁ、そうだよ」

「ジークベルトは、すっげぇーな!」


 ヨハンがキラキラした目で俺を見ている。

 なんだか都合よく解釈してくれたようだ。

 その眼差しに、いたたまれない気持ちになるが、グッとそれを抑え、俺は踏み止まる。

 いいように勘違いしてくれたので、それに乗っかることにする。

 ヴィリー叔父さんたちには、他の理由……。

 いや正直に話すべきかもしれない。

 どこまで話すか、そこも合流するまでに考えよう。

 とりあえず、今日の報告に同行者が一人増えたことを伝えよう。

 モフッモフッと、口いっぱいにパンケーキを頬張っている可愛い弟分の幸せそうな顔に、トイレの奥で、調教を受けているだろう問題児のことを今は忘れることにした。



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