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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国前編
134/208

はじまりの神殿_01



 湖畔の先にある神殿と伝えたが、訂正する。湖の上にある神殿だ。

 目的の神殿へ『飛行』で湖を横断中、それは突如現れた。


「ご招待ってことなんだろうな……」


 ご丁寧に神殿全体に施されていた隠蔽が解除された。

 地図上の神殿の位置もここに変わり、もともと神殿と表示されていた場所には、別の建物がある。

 フェイクまでつくり、神殿に人が来るのを阻止していたようだ。

 巧妙に隠されたそこに、いったいなにがあるのか……。

 このまま上空で、考えていてもしょうがない「行くか」と、声を出して自分を奮い立たせ、神殿の入り口付近に降り立つ。

 間近で見る神殿は神秘的で白で統一された建物に劣化は見受けられない。

 神殿全体に高度な状態保存の魔法が施されていたのがわかる。

 わずかだが 魔力がまだ感じられ、黄金色の魔法色が残っている。

 エスタニア王国の建国から考えると、約千年近くは経っているはず……。

 その間、魔法を維持するだけの魔力が注がれていたのだ。

 過去に膨大な魔力を所持していた術者がいたということだ。

 俺の今の魔力量では、それだけの期間を維持することは、不可能に近い。

『超越者』その言葉が頭をよぎり、興奮で身震いする。

 率直に会いたいと思ったが、千年前の人物に会うことはできないと、自嘲する。

 いや待てよ……。

 人知を超えた魔力量の多さから考えれば、長寿の種族、あるいは──。

 もしかすると、会えるかもしれない。

 淡い期待に胸を膨らませる。

 さあ、神殿の中にいる人物に会いに行こう。

 中の人物が、術者でないことは、魔法色から考えてもわかる。

 ほんの少し気持ちが落胆するも、ここに来た理由を思い出す。

 そうだ。まずは目の前のことを片づけよう。

 個人的な興味は、すべての事が終わってからだ。

 吉と出るか凶と出るか……。

 俺はそっと神殿の扉に手をかけた。


 …………

 …………

 …………


 パタンッ。

 俺は乱暴に扉を閉めた。

 さあ、帰ろう。

 ヨハンとパンケーキが、俺を待っている。


「ま、まてぃーー。何故、扉を閉めるのじゃ!」


 小高い声と同時に扉が自動で開くと、神殿の中へ俺の体が引っ張られた。

 抵抗するが、途中で無駄だと諦め、身をゆだねる。

 白で統一された神殿の中は、ステンドガラスから降り注ぐ光が反射し、幻想的な雰囲気を醸し出している。

 祭壇の手前で止まると、目の前に、黒のロリータ・ファションを着た銀髪の赤い目の美幼女(・・・)が、腕を組み、不機嫌な顔で立っていた。


「遅い。遅すぎるぞ! 妾がどれだけ待ったと思っておる。そもそも──」


 幼女が、ぶつぶつと小言を話しているが、そうじゃないんだよ。

 ここは、いかにも英雄とか、百戦錬磨の風格漂う戦士とか、威厳のある賢者とかあるでしょ。

 どうして、なぜ、ロリ幼女なのか!

 誰か説明をしてほしい! 説明を求む!

 責任者でてこい!

 俺が全体的にやる気をなくしているとは知らず、話し続ける幼女。

 まだ話し続ける幼女。まだまだ話し続ける幼女。まだまだまだ──。

 話しに夢中の幼女に気づかれないよう、抜き足、差し足、忍び足で、そーっと、扉の元まで後退する。

 まだ話し続けている幼女。

 よし! こちらの様子には気づいていない。


「んんっ!? おぬし、何故扉に近づき神殿から出ようとする!」


 俺が扉に手をかけたところで、大きな力にそれを阻まれた。


「ちっ」


 俺の舌打ちが、神殿の中に響く。


「なっ、なっ、おぬし舌打ちを、妾にむけて舌打ちをしたな!」

「なんのことです? 初対面の相手に舌打ちなんて常識はずれなこと、ぼくはしませんよ。失礼な人ですね」

「妾が、失礼じゃと! おぬしの方が、よっぽど失礼じゃ!」

「あぁ、癇に障りましたか。すみません。失礼なぼくは、ここから消えますので」


 再度、扉に手をかけるが、またもや大きな力で神殿内に再び引っ張られ、幼女のいる祭壇の手前で止まる。

「ちっ」と、わざと舌打ちする。


「また! また舌打ちしたな!」


 幼女の全身が震え、赤い瞳が怒りを表していた。

 俺はそれに気づかないふりをして、早々にその場を立ち去ろうとする。


「してないですよ。幻聴ですよ。早く病院に行って治療するべきですよ。では、さようなら」

「妾を病人扱いするな! 幻聴ではないことぐらいわかるぞ!」

「ちっ、舌打ちぐらい見逃せよ」


 俺の尊大な態度に幼女は、その場で地団駄を踏み叫ぶ。


「なっ、なっ、妾に、そのような尊大な態度! ありえん。ありえぬぞ!」

「はいはい。すみませんでした。俺は、ここに用がないので帰ります」

「待て、おぬし、妾と話をしなければ、この森を抜けることはできないのだぞ」

「いえ、それはもう結構です」


 その申し出を断り、幼女に背を向けると、慌てて幼女が尋ねてきた。


「なっ、どうするつもりじゃ」

「転移します。もういいですよね。では、さようなら」

「まっ、待て。おぬし、移動魔法を秘密にしておったじゃろ。何故、急に使用するのじゃ」

「関わりたくないから」


 俺の即断に、「ぐぬっ」と言葉にならない声を出して、狼狽する幼女。

 変な人と関わりたくないのは、人として当たり前の防衛本能だと思う。


「おぬし、性格が著しく変わっておるぞ! 何故、妾に冷たくする。妾は、神獣だぞ!」

「……」

「何故、無言なのじゃ! 妾は、妾は、この時を長い時間待っておったのじゃぞ」

「……」

「なにか話しをせぇー」

「……」

「む、無視はいやじゃー。わぁーーーーん」


 幼女、チョロ。

 精神、弱っ。

 自称神獣の幼女は、神話に出てきた白狼ではないようだ。

 俺の予想では、本人がいると思ったのにな。

 可能性の一つが消えた。

 となると、ここに呼ばれた理由はなんだ?

 幼女が落ち着いたところで、疑問を口にする。


「で、どんな用件?」

「おぬし、態度が……」

「幼気な子供たちをわざわざ巻き込んで、俺をここに連れて来た策士に愛想よくするほど、俺できてないから」

「なっ!? それはちがうぞ! 妾はそのようなことしておらん! おぬしが、妾の力が及ぶ範囲に転移してきたのじゃ。しかも待ちに待った適合者、神殿に来るよう仕掛けるのは、当たり前じゃろ!」

「……」

「そのようなジト目で見るな! 妾は本当に知らん!」


 幼女の態度から嘘をついているようにはみえない。

 俺は肩をすくめて、ほんの少し緊張を緩める。


「そのようだな。では誰が?」

「知らん」

「役に立たない神獣だな」

「おぬし、言動がきついぞ。妾は、神獣なのだぞ!?」

「だから?」

「むーー。この姿故、侮るのじゃな! これでどうじゃ!」


 幼女がそう叫ぶと『ポフン!』との音と共に、白い煙が幼女を包む。

 煙の中から、絶世の銀髪美人が、俺を見下ろしていた。


「頭が高いんじゃない?」

「なっ、何故、辛辣!」


 ポフン!

 再び音が鳴り、白い煙の中には、元の姿に戻った幼女がいた。

 若干、涙目である。

 何かを訴えるように俺を見るが、それは無理な注文である。

 残念精霊フラウで、すでにこの手の美女変化を経験しているので、驚きはしない。


「うぅ、なけなしの力を使って、成体に戻したのに……。ひどい、扱いがひどいのじゃ」

「ほぼ維持できてねぇじゃん」

「妾の本来の姿は、あれなのじゃ! 力がほぼ封印され、童の姿でしかおれん。うぅーー。あんまりじゃ」


 幼女は赤い瞳に涙を浮かべ、泣き叫ぶ。

 ほんの少し、同情してしまう。


「お前、なにしたの?」

「妾は悪くないのじゃ。主様が大切にしていた宝珠に、少しばかりひびを入れただけじゃ」

「いや、それはまんまお前が悪いだろう」

「うぅ、わかっとる。わかっておるが、故意ではないのじゃ。綺麗だったので少し触っただけで、ヒビが入ったのじゃ。兄上のように壊したのではない。じゃが、じゃが、主様が『兄妹そろって、手がかかる』と『この神殿に、反省するまでいなさい』との謹慎処分じゃ。妾一人では、神殿の外にも出れぬ。反省はたっぷりしたのじゃ」

「反省が足りないんじゃないか」

「うっ、ひどいのじゃ……。兄上は、壊したが地上で自由に動き回れたのじゃ。じゃが、じゃが、妾は、五百年の間、神殿の中での謹慎。ひびを入れただけなのにーー、あんまりじゃ」


 俺は思わず、額に手をあてる。

 幼女よ、お前……。

 話を聞く限り、全然反省してない。

 ひびを入れただけって、五百年の間、なにを反省していたのか。

 呆れて言葉も出ないわ。

 幼女の反省云々よりも、先に確認することがある。


「神話に出てくる白狼は、お前の兄か?」

「神話?」

「この地の神話で語り継がれている白狼のことだ。お前の兄か?」

「この国の祖じゃな。そうじゃ、我が兄じゃ。おぬし、先ほどから妾をお前呼びとは、親しき仲にも順序というものがあって……」


 幼女の態度が急に変わる。全身をクネクネと動かして、頬を赤らめ上目遣いで俺を見ている。

 えっ、気持ち悪い。

 あまりにも媚びた態度に、さすがに引くわ。


「いや、普通に君の名前知らないしね」

「何故、お前呼びをやめる!?」

「いや、何か意味がありそうだから」

「なっ、妾を弄んだのか! 何たる非道!」

「非道もなにも……。そもそも、俺関係なくない? 君が主様の宝珠にひびを入れた。その反省のため、この神殿に放置されている。それで間違いないよな」

「放置ではなく、謹慎じゃ! 他は間違いない。じゃが、妾を、妾を連れ出してたもう。もう一人でいるのは嫌じゃ。後生じゃ、妾を神殿から出してたもう」


 真顔で懇願してくる幼女。

 相当、神殿での生活は堪えたようだ。


「……。で、適合者って?」

「主様が定めた条件に合った者のことじゃ。一定以上の魔力があり、妾との相性が良いことじゃ」

「なんで条件の中に、相性があるんだ?」


 ギクッ!との効果音が出ているぐらい幼女が体を振るわせた。

 わかり易い反応をしてくれる。


「妾を神殿から出すには、契約が必要じゃ。妾が外界で悪さをせんよう監視する役目があり、妾の仮主になるのじゃ。そのため、妾との相性が良いことが前提となるのじゃ」

「……。他に何か条件があるんだな。その条件を言え」

「妾は知らん!」

「目を逸らすな。説得力がないんだよ。言え! 吐け!」

「うぅ、話したら、おぬし逃げないか……」

「話にもよる」

「………………を生すことじゃ」


 幼女が小声で話すが、俺には聞こえない。

「えっ?」と俺が聞き返すと、真っ赤な顔でやけくそになりながら幼女が叫んだ。


「連れ出した者との子を生すことじゃ!」

「はぁーー?」

「うぅ、妾がつけた条件ではないぞ。主様が、兄上を見て、妾も同じことをすれば改心するじゃろと……。妾を捨てないでたまおぉーー」


 幼女が素早い動きで俺の足にすがる。

 主様から、改心するよう言われてるじゃねぇか!

 このじゃじゃ馬!

 さっきからこいつは、自分の悪い条件を隠そうとしてるのが、丸わかりだ。

 このまま無視して、放置してもいいんだけどな。

 無理か、しつこそうだ。

 子を生す条件さえなけば、契約してもいいんだが……。

 足にすがる幼女をチラッと見る………。

 無理だ。絶対に無理だ。子を生すなんて無理!

 成体ならまだ考えられるが、幼女は何があっても無理だ。


「悪いけど、無理。他あたってくれ」

「なっ……。五百年…。五百年待って、やっと、やっと、現れた適合者じゃ。神界には、帰れんでもよい。子を生さんでもよい。じゃから、神殿から連れ出してたもう」


 俺の足にすがりながら、必死に訴える幼女。

 なんか、わざとらしいんだよね。


「……。で、本来の条件は?」

「! これ以上は、知らん。本当じゃ、妾が神界に帰還できる条件として、神殿から連れ出した者との間に子を生すことしか聞いておらん! そもそも適合者の条件も主様が決めたもの。妾は関与すらしておらん!」


 その問いかけに、幼女は俺の足から手を離し、身振り手振りで状況を説明する。

 ここに嘘はなさそうだ。 


「神界に帰還できなくなれば、君はどうするの?」

「生涯、おぬしのそばにいる。それだけじゃ」

「神殿から出す。その場で解散! これでよくない?」

「むむむ。しかし、おぬし、妾の力欲しくはないか?」

「いらない」


 俺の即答に赤い目が大きく見開く。


「なっ、即答! わかっておる。わかっておったが、あんまりなのじゃ……。うっ、」

「泣けば、即帰る」


 話しが進まなくなるので、泣きそうだった幼女をとめる。

 ヨハンがテントでひとり待っているんだ。

 厄介事ははやく片付けたい。


「……っ。泣いてなどおらん! 神殿を出る前に、適合者と契約するのじゃ。その条件の中に、契約者のそばにいるが入っておるから、妾は、おぬしのそばからは、離れん」

「うわぁ、面倒くせぇー」

「うっ、仕方ないのじゃ。四六時中、そばにいるわけではないのじゃ。仮主との関係性があれば、離れていても問題いらん。おぬしの屋敷においてくれればよい」

「契約の他の条件は?」

「他の条件は──」


 幼女から条件の概要を一通り聞きだし、面倒だが契約することにする。

 どう考えても契約しないと、この場から帰してもらえそうもない。

 神話の白狼の妹である点も、後々、有効活用できるかもしれないと判断した。

 契約は所謂、魔契約の神獣版だ。

 細々とした契約条件があるが、生活上では何の支障もない。

 契約の中には、仮主への『絶対忠誠』という項目もあったが、これは幼女の暴走を止めるものだそうだ。

 だが幼女は、力をほぼ封印されているため、暴走するほどの力はないとのことだ。

 契約条件の説明中、幼女がコソコソと何かしているようだったが、あえて見逃した。


「わかった。契約しよう。子を生すことは、諦めてくれ」

「おぬし! 感謝するぞ! 子を生さんでもよい! おぬしの気が変わらんうちに、契約じゃ!」


 ポフン!

 幼女から、白銀の狼に変わり、その白銀の毛が、徐々に光だす。

 幻想的な様に、心が奪われる。その光が一瞬弾け、俺に注がれた。


「くっくく、これで契約は妾に優位に成った」

「お前、本当に馬鹿。台無し。まじで台無し」

「何故!? おぬし、何故、妾に暴言を吐ける? ああぁーーーーーー! 妾が優位になるように記した条件が書き換われておる! おぬし、何をした!」


 こいつ、俺を嵌める気でいたな。

 予防線を張って、正解だった。

 契約は成されたようだが、それは致し方ない。

 幼女は気付いていないようだが、幼女とは比べ物にならない別の力が働いているようだったと、考えていると、ピラピラと一枚の紙が、天から落ちてきて、俺の手元に収まった。


『我の神獣(ペット)が迷惑をかける。迷惑料として、そなたに我の加護(小)を与えよう』


 紙が消えると、俺の身体を温かい光が包みこむ。

 幼女が慌てて、叫んでいる。


「あっ、主様!?  何故、そやつに加護をお与えになるのじゃ? はっ!? 妾の枷が、枷が増えておる! 五百年の謹慎で、枷を減らしたのに……。うぅ、この一瞬で倍に! 倍になっておる! 何故、何故じゃ……。うわぁーーーーん」


 当り前の罰だよな。

 幼女の自分勝手な振る舞いに、主様が、更なる反省を科したのだろう。

 というか、これ、連れて帰るのか……。

 加護じゃなくて、契約の取消しをしてよ。

 まじで………。

 ジトーー。


「おっ、おぬし、どうした」

「どう考えても、体の良い厄介払いをしたんだなぁと思ってさ」

「なっ、なっ……」

「普通に考えればさ、適合者の条件も契約内容も、お前を抑えるためだけのものだろ」

「妾が……厄介者……」


 みるからに肩を落とし、幼女が床に膝をつく。

 その姿に、少しは改心してくれればと願う。

 そして『俺が一番の被害者だよな』と、心の中で悪態をついた。



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