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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国前編
133/207

建国の神話



『トビアス殿下の子飼いに動きがありました』

『ビーカの抑制もこれまでか、ふっ。面白い』

『作戦を変更なさいますか』

『よい。このまま遂行せよ』

『御意』


 黒い影は返事をすると、音もなく消えた。


『客人によい見世物ができる。さすがトビアス──』



 ***



 早朝から、近隣の町の方角へ歩いているが、一向に町との距離が縮まらない。

 まるでループしているようだ。というか、ループしているのだろう。

 地図の位置が、ほぼ変わらないのだ。

 なにか大きな力が、俺たちの行く手を阻んでいるみたいだが、そこに悪意が感じられない。

 んー。

 無視して、目に入れないようにしていたが、湖畔の先にある神殿へ行くべきなのだろうか。

 どう考えても、お膳立てされているよな……。

 んー。

 悶々と考えていても答えはでない。

 ここは叔父に相談をするか。

 あっ、そういえば、昨日の夜、ヨハンが気になる発言をしていたな。

 たしか……。


「ジークベルト、つかれた」

「うわぁ。えっ、あっ、そうだね。少し休憩にしようか」


 ヨハンに突然マントを引っ張られ、恥ずかしくも狼狽してしまった。

 その記憶をかき消すかのように、素早く魔テントを出し、中にヨハンを招く。

 心臓に悪いよ。

 まぁ、ちょうどよかったけどね。

 その前に、甘味で気分を上げよう。

 料理長、一押しのパンケーキを机に出す。

 疲れた時には、甘いものが一番だ。


「うぉー。なんだこれ? 果物とお花? この白いのはなんだ?」

「アーベル風パンケーキだよ。白いのは、アイスクリームという冷たくて甘いものなんだ。お花は飾りだから食べちゃダメだよ。このシロップをかけて食べてごらん。すっごくおいしいから」


 ヨハンに説明しながら、俺はお手本を示すように、パンケーキにシロップをかけ、ナイフとフォークでひと口サイズに切り、果物とアイスをのせ、口へ運ぶ。

 んー。うまい!

 癒される、最高だ!

 前世で食べたパンケーキよりも、うまいし、さすが料理長だな。

 再現越えしているよ。

 しかも、このシロップ。めちゃくちゃうまい!

 甘さがしつこくないので、いくらでも入る。

 やべぇー。フォークが止まらない。

 ヨハンも俺の所作をまねしながら、恐る恐る口へ運ぶ。

 昨日の夕食も同じだった。ヨハンは未知の料理に興味深津々だけど、口にするのを躊躇する感じだが、口に入れば、ほら笑顔だ。


「うまっ! すっげぇー、うまい!!」

「だろう。そうだろう」

「昨日のプリンもうまかったけど、おれ、パンケーキのほうが好きだ! このアイスもうまいし、ジークベルトの家は、うまいものばかりだな!」

「あっはは。ありがとう。料理長が喜ぶよ」


 パンケーキは大好評で、短時間で綺麗に食された。

 料理長にお願いして、パンケーキの種類を増やしてもらおうと決める。

 たしか、ココナッツやチョコレート、お茶なんかもあったな。

 あぁ、ベーコンやオムレツなどのおかず系もあったはずだ。

 材料が、この世界にあるかは別として、なければ代わりを探すか、作ればいいんだし、帰国後の楽しみができた。

 パンケーキに満足したので、本題に入ろうと、ヨハンをうかがうと、船を漕いでいた。

 早朝からの歩きでの疲れと、お腹がいっぱいになったことが、眠気を催したのだろう。

 そうだった。

 ヨハンは、普通の四歳児だった。

 起こすことは忍びないため『洗浄』をかけ『浮遊』で、ベッドまで運ぶ。

 その愛らしい寝顔を見て「聞きたいことがあったんだけどなぁ」とぼやく。

 まぁ、しかたがない。慣れない場所での不安で、早く体力が消耗したのだろう。


 ***********************


 ご主人様、失礼します。

 昨日のヨハンとの会話でしたら、私が記憶しております。

 どの会話でしょうか?


 ***********************


 さすが、ヘルプ機能!

 ここが、誰かとの出会いの場だったって話してたよね。

 なにかの物語の。


 ***********************


 はい。

 はじまりの森は、『白狼と少女の約束』に登場する白狼と少女が、出会った場所です。


 ***********************


 その『白狼と少女の約束』の内容を聞きたい。

 けど、ヨハンとの会話は、 そこまで踏み込んでいないし、いくらヘルプ機能でも、それは無理だよね。


 ***********************


 できます。


 ***********************


 だよね。できないよね……。

 できるの?


 ***********************


 はい。できます。

 私の検索内に『白狼と少女の約束』がございました。

 絵本の内容を簡単に、お伝えすることはできます。

 いかがいたしますか。


 ***********************


 お願いします。


 ***********************


 承知しました。

 では、簡単にお伝えします。


 ***********************



 ***



 白狼は、いつもイタズラをして、神様を困らせていた。

 そんな日々が続いたある日、白狼は、神様の大切なものを壊してしまう。

 神様は激怒する。

 白狼は、神界から追放され、地上に降りることになる。

 降りた地上は、荒れ狂い、人々が戦い傷つけ合う場となっていた。

 白狼は、壊したものが、人々の善だったことに、気づく。

 壊したものを白狼の手で、修復するために、神様は、白狼を神界から追放したのだ。

 戦う人々の前に出て、人々に説得を続けるが、誰も白狼の言葉に心を傾けない。

 白狼は、人に絶望し、森の中へ消えていく。

 そして長い時が流れ、森にひとりの少女が、訪れる。

 少女は、兄を助けるため、戦いを終わらせたい。

 そのためには、力がいる。

 白狼は、問う。

 そなたの言う力とはなんだ。

 少女は、答える。

 希望だ。

 白狼は、それを否定する。

 否。希望は、力ではならず。

 少女は、笑う。

 希望こそが、力だ。

 人々には、希望がいる。

 それが兄だ。

 白狼は、少女の強い意志に光を感じる。

 我の力をそなたに授けよう。

 ただし、そなたの心が悪に満ちれば、その力は消える。

 少女は、白狼と約束する。

 私は、悪に染まらない。

 白狼の力を得た少女は、戦いを終わらせるため、力を使う。

 そして、平和が訪れる。

 白狼に力を返すため、少女は、再び森を訪れる。

 しかし、白狼は、力をそのまま少女の中に封印する。

 白狼は、少女と約束を交わす。

 この地に、再び戦いが起こる時、我はそなたを助けよう。

 それまで、そなたに、力を預ける。

 白狼は、少女へ祝福を与え、神界に戻っていった。

 その場所は、のちに、エスタニア王国となり、繁栄する。



 ***



 一般的な建国の神話を絵本にした内容だ。

 そうこれがただの神話だったら、いいんだけどね。

 この神話は、王家の秘密と密接に関係している。

 俺がヘルプ機能を介して調べた結果と、若干異なるところはあるが、おおむね同じだった。

 だけど、なぜこのタイミングなのだろうか。

 本人不在なんですが……。

 俺か、俺なのか?

 はぁー。

 ヘルプ機能、この森が神話の舞台なら、あの神殿は、白狼関係の神殿で間違いないね。


 ***********************


 はい。間違いございません。


 ***********************


 この阻害もおそらく、神殿に原因があるのだろう。

 チラッと、ベッドで眠るヨハンの様子をうかがい見る。

 規則正しい寝息に、深い眠りであることがわかる。

 ヨハンは、しばらく起きないと判断する。

 魔テント周囲の安全を確認し、半径一〇〇メートル以内に魔物が出現すれば、アラームが鳴るよう『地図』を設定する。

『周辺を見てくる。すぐに帰るので、外には出ないように。魔法袋の中にパンケーキがあるから食べてもいいよ』と、机の上にメモを残す。

 念のため、魔テントに『守り』をかけ、中からは開けられないよう『施錠』する。

 よし。これで万が一、ヨハンが目覚めても、勝手に外には出られない。

 では、神殿に行くとしますかね。

 厄介事に、自ら足を運ぶことになるとは……。

 ディアーナを婚約者として受け入れた時に覚悟はしていたけどね。

 さぁ、できる限り早く終わらせ、ヨハンが目覚める前に帰宅しよう。

 一緒にパンケーキを食べるんだ。



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