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不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国前編
128/208

親善試合_01



『──伯の倅に渡しました』

『そのまま次の作戦を遂行しろ』

『御意』


 マントを目深に被った男は、深く敬礼してその場から消える。

 残された者のその手には、真黒く濁った石が握られていた。



 ***



 談話室では、昨日の王城の謁見話から、話に花が咲いていた。

 いつの間に途中参加したのか、ヴィリー叔父さんの姿もあった。


「閣下」

「アーベル伯、私は姫様の護衛を依頼されたただの冒険者パルです」

「あっ、そういった設定ですか。ではパル殿。そのマントは、なかなかのものですね」


 叔父はあっさりその設定をのみ込むと、パルの羽織っているマントに注目した。

 えー、ヴィリー叔父さん。そこは突っ込もうよ。

 護衛が姫様呼びは馴れ馴れしいのではとか、他にも色々あるでしょ。

 話を膨らます気が、そもそも興味がないんですね。


「これは姫様からお借りしているもので、裏迷宮の到達ボーナスでしたかな」

「えぇ、そうです。ジークベルト様たちと踏破したアン・フェンガーの迷宮の裏迷宮の到達ボーナスです」


 パルの問いかけに、ディアーナがうなずき、補足すると、叔父が興味深そうに目を見開く。


「へぇー。裏迷宮の到達ボーナスですか。これはまた興味を引く品ですね。認識阻害と解除。両方を持ち合わせているのは、素晴らしい。ますますエスタニア王国の迷宮に行くのが楽しみですね」

「我が国の迷宮に行かれるのか。はてあそこは、古い迷宮ではありますが、冒険者が寄りつかない、実りがほぼない迷宮と聞いてますがな」

「えぇ、表ではなく裏へね、行く予定なんですよ。ねぇ、ジーク」


 話題を振られ「はい」と、渋々答える。

 エスタニア王国入りする前に、俺は叔父とある約束を交わしたのだ。

 テオ兄さんから裏迷宮の報告を受けた叔父は、すぐにでも迷宮に潜ろうとした。

 しかし周りがそれを許さなかった。

 目前に迫ったエスタニア王国入りには、どうしても叔父の『移動魔法』が必要だったからだ。

 そこで打開策として提案されたのが、エスタニア王国の迷宮だった。

 アル兄さんがどこからか調べてきたのか『我が国の迷宮はいつでも潜れますが、他国の迷宮に潜る機会はそうそうないのでは? エスタニア王国の迷宮はとても古いとのことですし、調べるには古い迷宮のほうが、なにかヒントがあるかもしれませんよ』と、説得し、叔父はそれを条件付きで受け入れた。

 その条件が、俺の同行だ。

 初めは関わりたくなくて、拒否した。

 しかし叔父が俺の耳もとで『聖獣』と、ささやいたことに戦慄を覚えた。

 あのおしゃべり精霊め!

 あれほど内緒だと言ったのに!

 当分プリンはなしだ!

 叔父と取引をした結果、俺たちの秘密を漏らさない代わりに、泣く泣く同行を受け入れたのだった。


「ほぉー。それはぜひとも参加したいですな」

「残念ですが、パル殿は、ディアーナ様の護衛。ディアーナ様は、今回の迷宮には、参加しません」

「むぅ。そうなのですか……。それは残念ですな」


 パルはそう言って、何度もディアーナを窺い見るが、ディアーナはその度に頭を横に振る。

 諦め悪いよパル。

 ディアーナは、裏迷宮の話が出た際に、同行を拒否している。なにか思うところがあるようだ。

 それに加えて、昨日の殿下の警告もあるし、そうそうに国を出ると思う。

 隣に座るディアーナを見ると、困ったような表情を浮かべていた。

 やはり元気がないようだが、昨日の空元気よりは幾分ましだ。


「姫さまからはなれろ! ジークベルト!」


 突然、頭上から幼い声が聞こえると、ソファの上に小さな体が落ちてくる。

 やんちゃなこの少年は、エトムント殿の息子ヨハン君、四歳だ。

 俺とディアーナの間に収まったヨハンは、グイグイと俺を押す。少しでもディアーナから俺を遠ざけたいようだ。

 ふっ、無駄なあがきである。


「ヨハン! お行儀が悪い。姫様、ジークベルト殿、申し訳ございません」

「とうさまっ……」


 エトムント殿が、ヨハンを叱咤して、その行動に頭を下げる。そんな父親の姿を見たヨハンが悲壮感漂う顔で、こんなはずではなかったと体を縮めた。

 微妙な空気が流れる。

 それを変えるように叔父が、笑いながら話題を振った。


「元気があっていいね。アルの昔を見ているようだ」

「ほぉ、あのアルベルト殿がですか、今の姿では考えられませんな。では、ヨハンも大物になる可能性はあるということですな。はははっ」

「そうですね。将来が楽しみですね。パル殿」

「父上、ヨハンの行動を正す発言はやめてください。アーベル伯も父上に乗らないでください」


 エトムント殿に、怒られた大人たちは、肩をすくめながらも反省はしていない。

 とても生真面目な人だ。

 本当にパルの息子?

 パルの行動に一番気苦労しているのは、この人なんだろうなと思い、心の中で合掌する。

 大人たちの会話を聞いて、縮こまった体が息を吹き返す。ヨハンが、俺を睨みながら本来の目的を遂行する。


「ぼくは、お前が姫さまの婚約者だなんて認めないぞ。姫さまは、ぼくがお嫁さんにもらうんだ」

「ほお、ヨハンは姫様を嫁にもらう気だったのか。それは愉快だな」

「おじいさまは、姫さまの騎士でしょ。なぜこんな奴を婚約者にしたのですか」


 ピシッと指をさされ、俺は苦笑いをする。

 初対面から俺をライバルと認識したヨハンは、お客様扱いではなく、対等だと思ったようだ。顔を合わすたびに「認めないぞ」と、突っかかってくる。

 本人は至って本気なのだが、はたから見ると、かわいいだけなんだよね。

 ヨハンの態度に、エトムント殿が注意しようと動くが、それをパルが遮る。


「それは強者だからだな」

「こんな女みたいな奴が、強いはずがない。おじいさまはだまされているんだ」

「残念だがヨハン。姫様も、わしも、ジークベルト殿に命を救ってもらった。それにジークベルト殿は、エトムントより強いぞ」

「うっ、うそだ! とうさまより、強いはずがない! おじいさま、うそはダメなんだぞ」


 ヨハンは、衝撃を受けた様子で動揺する。

 そんなヨハンを見てパルがおもしろそうに笑い、エトムント殿に同意を求めた。


「嘘ではないぞ。なぁエトムント」

「父上、ヨハンで遊ぶのは、控えてください。後々大変なんですから……」

「とうさま! とうさまがジークベルトより弱いなんてないよね! ねっ!」

「ヨハン。父上の戦闘能力の評価に嘘はない。総合的に考えてジークベルト殿のほうが、戦闘能力が上なのだろう。だが私も武人だ。自分で力量を把握していない相手より下だと評価されれば、納得いかない」


 エトムント殿、温和に見えて実は熱血さんでしたか。やはり血は争えませんね。

 はっはは。雲行きが大変怪しくなってきた。

 逃げ道を探ろうと考えていると、エトムント殿と目が合った。

 あっ、やばい!


「ジークベルト殿、よければ軽く一戦交えませんか」

「バルシュミーデ伯、ありがたい申し──」

「よし! そうとなれば早速裏庭にまいりましょう!」


 どんだけ短気!? 俺の言葉を途中で遮って、勝手に了承を得たと思ってるし、いや断る予定なんですが……。

 えっ、もう部屋を出ている。

 あっ、いつの間にかヨハン君もいない。

 常識人だと思っていたけど、素早い動きに開いた口が塞がらない。


「ジーク、おもしろいことになったね」

「ヴィリー叔父さん、代わりに一戦してください」

「それは無理な話だよ。ねぇパル殿」

「そうですぞ。ジークベルト殿、あぁなったエトムントは、わしでも止められません」

「パル、わざと煽りましたね」

「ん? なんのことですかな?」


 俺のジト目にパルは顔を横に傾ける。

 ツルピカの強面おっさんがとぼけても、まったくもってかわいくない。気色悪いだけだから!

 まじでありえない……。

 心の中で悪態をついていると、隣から笑い声が漏れる。


「うふふ。ジークベルト様、エトは、あぁ見えて、一度言い出したら、納得するまであきらめないんです。お付き合いしてあげてください」

「ディアの頼みなら、しかたないなぁ」


 ディアーナが自然と笑っていた。

 その笑顔に、俺は重い腰を上げるのだった。



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