表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不運からの最強男  作者: フクフク
日常編
123/207

隠し部屋



 裏迷宮の階層スポットから転移すると、ディアーナが俺に抱きついていた。


「ご無事のご帰還、なによりです」


 えっ? なに、このかわいい子。

 ディアーナの突然の行動に、俺があたふたしていると、ニコライがからかってくる。


「チビ、盛大な歓迎だな。うらやましいぜ」

「あっ、すみません。わたくし、はしたないことを……」


 その言葉を聞いて、正気に戻ったディアーナが、恥ずかしそうに俺から離れる。

 とても残念だ。


「お帰りなさいませ」


 エマが一足遅れて俺たちに合流する。 

 ん? 気のせいか。

 エマの様子が少しちがうように感じる。

 とても落ち着いて見えるのだ。

 ディアーナに優しい眼差しをして、まるで年上のお姉さんのようだ。

 年上のお姉さんで間違いないんだけどね。

 普段とちがう雰囲気に気をとられていると、テオ兄さんが転移先を『報告』で調査してくれていた。


「ここは当初の目的地の迷宮十二階層の隠し部屋だね」

「安全面も問題なそうだな。あの宝箱は裏迷宮の報酬か」


 ふたりが宝箱に近づいていくので、俺もあとを追う。

 ディアーナたちは、ここで待機するようだ。ハクたちと戯れている。

 ハクたちを置いて、宝箱に近づく。

 裏迷宮を脱出して気になる点がひとつ、宝箱以外に階段があったことだ。

 裏迷宮に入る前までは、この部屋に階段はなかったはずだ。裏迷宮を脱出したことで現れたのか。

 この階段は魔力で作られている。



 ***********************


 ご主人様の仰る通りです。

 裏迷宮の脱出に合わせて現れたようで、この階段は一時的なものです。

 階段の先は最下層十五階につながっています。


 ***********************



 この階段の先って最下層なの?

 ならちょうどよかった。

 全員が疲労困憊なので、エマの短剣スキルはあきらめて、アン・フェンガーの迷宮を後にしようと提案するつもりだったのだ。

 到達ボーナスが貰えなくて残念だけど、欲張ってはいけない。



 ***********************


 ご主人様、到達ボーナスは貰えます。

 裏迷宮を踏破したので、十三階、十四階は免除となります。


 ***********************



 何それ!? 迷宮もなかなかやりおる。

 もしかして、到達ボーナスも豪華な物が貰えるのかな。



 ***********************


 到達ボーナスの中身は、私では分かりかねます。

 お役に立てず申し訳ございません。


 ***********************



 ヘルプ機能は、充分役に立っているよ。

 今回の裏迷宮の件だって、ヘルプ機能が作動していなければ、大変なことになっていたしね。

 本当に毎回、頭が上がりません。


「テオ兄さん、ニコライ様、安全確認ありがとうございます」

「ジーク、ここは裏迷宮の脱出用に用意された部屋のようだね。四方を壁に囲まれた出入り口がない部屋。あるのは魔力を帯びた階段だね」

「はい。僕が隠し部屋を発見した時は階段はありませんでした。調べた所、直通で最下層につながっているようです」

「やはりそうか」

「チビ、この宝箱の仕掛けはなんだ」


 ニコライの質問に答えるため、俺は宝箱へ近づき『鑑定』をした。



 ***********************

 毒矢の宝箱

 説明:宝箱を開けると毒矢が連射される。

 ***********************



「毒矢が仕組まれているようです」

「そうか。数は? 数本か?」

「連射されるとのことです」

「ちっ、厄介だな。うしろから開けるか。毒矢の連射が終わるまで待つしかないな。安全のため、姫さんたちを宝箱のうしろに移動させるか」


 迷宮内の宝箱は、仕掛けがあるのがあたり前で、ダンジョンは半々の確率だそうだ。

 コアンの下級ダンジョンでは、宝箱と遭遇する機会がなかった。『地図』に反応はあったけど、踏破を最優先としたからね。


「ニコライ、前に飛ぶとは限らないんじゃないかい」

「そうかっ。上に飛ばせば全範囲射程圏内だな」

「うんそうだね。裏迷宮を脱出した先にある宝箱だから、単純な連射ではないと思うよ。用心するに越したことはない。ジーク『守り』を最大限に強化できるかい」

「はい。できます」

「部屋の隅に全員集めて、僕とジークの『守り』を二重に展開しよう。宝箱は魔法で開けるよ。僕の魔法で開けられる距離だ」


 テオ兄さんの指示に、全員が宝箱の後方に移動し、部屋の隅に集まる。

 まずテオ兄さんが『守り』を展開する。その上から俺の『守り』を施す。

 最大限の強化をするため、魔力循環に集中した。

 渾身の『守り』ができたと自負する。毒矢の防衛は準備万端だ。


「いいね、宝箱を開けるよ『解錠』」


 テオ兄さんの魔法で、宝箱が開くと、次々と矢が連射されるその数、数百は下らない。しかも放たれている矢の大きさは、槍に匹敵する物もある。

 予想通り、全方位に矢が飛び交い、俺たちの周りには粉々に折れた矢が複数散らばっていた。『守り』が実にいい仕事をする。

 強度を今できる最高クラスにしたからね。


「こりゃーすげぇなぁ」

「想像以上だね」


 矢の数の多さに、あきれとも感嘆ともつかぬ声が響く。

 俺の横では、口が少し開いたまま動かないディアーナと、「ひぃえーー」と絶叫して腰を抜かし、ハクに支えられているエマがいる。

 スラは、誰が与えたのか、マイペースにオークの肉を食していた。

 時間にして数分の出来事だが、何十分と思えるほど濃い内容だった。

 矢の連射が終わり、辺り一面に砂埃が舞っている。

 砂埃が収まると、ニコライが「これは期待できるなっ。お宝はなんだ」と、ウキウキと宝箱へ近づいていった。

 そのうしろ姿は、普段とは違い滑稽で浮足立っている様子がわかる。

 しかし宝箱の中を見たニコライが、驚愕した声をあげる。


「なっ!? 空じゃねぇか。どうなってんだ!」

「空なのかい?」

「おいっ、チビ!」

「はい。いま調べています」



 ***********************


 ご主人様、矢の残骸を確認ください。

 全て、オリハルコンです。


 ***********************



 えっ? まじっすか?

 オリハルコンの毒矢だったのか?

『守り』の魔法を最大強化してよかった。



 ***********************


 いえ、放たれている時は、強度の高いSランクの矢でした。

 連射が終了した瞬間に、オリハルコンへ変化しました


 ***********************


 えっ? どういうことだ?

 オリハルコンって、稀少鉱物だよな。

 そもそも矢がオリハルコンに変わるのは、変だぞ。



 ***********************


 迷宮のドロップ品です。

 オリハルコンは、毒矢のドロップ品と考えてください


 ***********************


 はぁーー? ますます理解できない。

 毒矢のドロップ品? 毒矢は魔物扱いなのか。


 ***********************


 この部屋のみの特徴のようです。

 あまり深く考えないほうがよろしいかと思います


 ***********************



 はぁーー? なんだそれ?

 やっと裏迷宮から脱出して安心したと思ったら、毒矢の連射。しかも宝箱の中身がないとくる。

 毒矢がドロップ品に変化したと気づかなければ、骨折り損じゃないか。

 精神的にくるぞこれ。仕掛けた奴、性格ゆがんでるな。


「ニコライ様、テオ兄さん、毒矢がすべてオリハルコンに変わっています」

「はぁ? なに言ってるんだチビ! そんなはず……」

「本当だね、ジーク。これはどういうことだい」

「僕にもわかりません。ただ、この部屋の仕様のようです」

「オリハルコン……。まさか俺が手にすることになるとは……」

「ニコライ、感動しているところ悪いが、そうそうにこの部屋から出るよ。ジーク、魔法で回収できるかい」

「はい。できますが」

「テオ、どうした?」

「この部屋は、あまり長居するべきじゃない」

「お前の勘か。わかった。チビ、さっさと回収しろ。姫さんたち先に階段を下りるぞ」



 テオ兄さんの突然の指示に戸惑っている俺を後目に、ニコライがすぐに反応し行動する。

 ディアーナたちを促して、スラを肩に乗せ、先に階段を下りて行く。

 テオ兄さんの直感が、なにかを察したのだろうと俺も判断し、気を取り戻して、俺も『浮遊』『微風』『収納』を同時展開し、部屋全体に散らばっているオリハルコンだけを宙に浮かせ、一か所に集めて回収する。

 粉々になった毒矢そのものが、オリハルコンのため、精査するのに相当の魔力制御が必要となった。

 稀少鉱物なので、一グラムも無駄にしたくない。

 すべてのオリハルコンの回収を終えたところ、ドドドッと大きな地響きが鳴ると共に、部屋の隅から床が抜け落ちていく。


「嘘だろ!?」 

「ガウッ!〈ジーク、走る!〉 」

「ジーク! ハク! 階段に急ぐんだ!」


『倍速』を自分とハクにかけ、階段前にいるテオ兄さんと合流し、慌てて階段を駆け下りる。

 先にいるニコライたちには『報告』で知らせる。

 ドドドッとの崩壊音が迫る。後方の階段が徐々に崩れていく。


「階段も崩れるのかっ。ギリギリだな。うわっ」

「大丈夫かい、ジーク」

「ありがとうございます」


 後方に注意をとられ過ぎてしまい、前方の階段が崩れているのに気づかず、足が嵌ってしまう。

 テオ兄さんが、素早く補助してくれるが、この時間ロスで、すぐそばまで崩壊が近づいていた。

 ここはあれしかない!


「テオ兄さん、『飛行』の魔法を使います!」

「飛行? えっ? うわっ!」


 俺の『飛行』に、珍しくテオ兄さんが、慌てている。

 そりゃーそうだ。

 人間急に身体が浮いたら慌てて当然だ。

 ドドドッと、先ほどまで足を着けていた階段は崩れ落ち、視界が暗闇にとらわれる。

 崩れ落ちた場所から底が見えない。ブルッと身震いする。

 間一髪のところで、崩壊に巻き込まれずにはすんだ。


「ジーク、悪いけど手を引いてくれないかい。飛ぶなんて初めてで、不安定なんだ」

「すみません。気づかなくて。ハクは大丈夫だよね」

「ガウッ!〈ハクは大丈夫!〉」


 どこか不安そうなテオ兄さんの手を取り、先行する。

 俺も最初は、空間のバランスがなかなか掴めず、かなり難儀したのだ。

 ハクは何度か『飛行』を経験しているので、崩壊した階段の上をスムーズに飛んでいる。


「これはなかなかの経験だね。まさか『飛行』を経験できるなんて思ってもいなかったよ。ジークはもう風魔法Lv8を取得しているんだね」


「いいえ、僕の風魔法Lv3です。魔力値が高いので『飛行』の使用が可能なんです」

「なるほど。ということは、これは守秘だね」

「はい。その方向でお願いします」

「ほかにもありそうだね。例えば『地図』スキルとかね」

「あははは。『地図』スキルは所持してますよ。あとは許してください」


 ここは笑ってごまかす。

 そもそも『地図』スキルは、隠さず使用していたので、テオ兄さんたちには所持がバレて当然だ。

 あえてそれにテオ兄さんが触れなかったのは、ただ単に俺だからだとの結論に至ったのだと思う。

 テオ兄さんは、ほかにも多数の能力が俺にあると認識していると思う。

 信頼しているが、全ての能力を曝け出すことは、今はできない。

 許して欲しいと思う。

 空中でのバランス感覚をテオ兄さんが掴み始めた頃、暗闇の先の小さな明かりが徐々に大きくなり、長身の影が見えた。

 長身の影がチラつくその様子に、安堵する。

 無事だとの『報告』を受けていたが、それを目にするまで安心はできなかった。

 俺のすぐ隣でも、安堵のため息がこぼれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ