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不運からの最強男  作者: フクフク
日常編
122/207

ふたりの茶会



 一方その頃、裏迷宮を先に脱出していたディアーナたちは、戦闘の疲れを癒すためお茶をしていた。


「ジークベルト様たちが戦闘で大変だというのに、優雅にお茶を飲んでいるなんて本当にいいのかしら」

「姫様、疲労困憊に効くお茶ですよ。ジークベルト様からもなにかあった時はこれを飲んで体力を回復するようにと、指示されていたではないですか」

「そうね……。大丈夫だとわかっていても心配だわ」

「そうですね」


 エマの同意に、ディアーナがカップに口をつける。

 裏迷宮の転移先は、ジークベルトが発見した十二階層の隠し部屋だった。

 宝箱と階下につながる階段がある出入り口がない部屋である。

 ディアーナの『報告』魔法で調査し、ひとまず安全を確保したのだ。

 その部屋のど真ん中で、テーブルでふたり、ジークベルトたちの帰還を待っていた。


「それにしてもアーベル家は、太っ腹ですよね」


 エマがそう言って、腰にある『魔法袋』を指し示す。

 急な話題振りに、ディアーナは一瞬キョトンとするが、すぐにエマの気遣いに気づいた。


「そうね。空間魔法が使えるヴィリバルト様がいらっしゃっても、わたくしたち他国の人間にお手製の『魔法袋』を分け与えるなんてすごいことだわ」

「他国って、なにをおっしゃっているのですか。姫様は、ジークベルト様の婚約者ではないですか。もう身内だといっても過言ではありません。それに私たちはアーベル家に忠誠を誓いましたよ」

「そうね……。エマはジークベルト様の婚約者にはならないの?」

「どうして姫様は、婚約者となるようにすすめるのですか。私は正直わかりません」


 エマの困惑した表情にディアーナが真剣な表情で伝える。


「ジークベルト様は、大成なさる方だわ」

「それは姫様の勘ですか? それともアーベル家の至宝だからですか?」

「両方よ。もし、ジークベルト様がアーベル家の至宝でなくとも、その才能やお人柄で人々の中心にいるのは間違いないわ。どちらにしろ厄介なことも増えてくる」

「それは……」

「アーベル家の方針は、教育の中で学んだわ。恋愛至上主義であり、嫡男であっても血を重要視しない。稀な家系よ。数代前の当主の伴侶は平民出身だった。その数十代前は愛多き人で伴侶が数十人いたそうよ」

「ですが、ジークベルト様はそれを望んではいません」

「そうね。だけど周囲はそれを受け入れるのかしら。ねぇエマ、婚約の条件の中に側室の許可があったの。ジークベルト様は、婚約の条件が提示されているなんてご存じではないわ。周囲が用意したのよ。そう既に周囲の認識は、一夫多妻も考えているのよ」

「姫様……」

「それに、わたくしの婚約だって……わたくしが周囲にそう思わせるように仕掛けたの」


 ディアーナはそう言って、顔を顰める。

 その表情を見たエマが、それを否定するように叫んだ。


「しかし姫様は、ジークベルト様をお慕いしているではないですか!」

「そうよ。わたくしはジークベルト様をお慕いしているわ。だけど、ジークベルト様は、わたくしたちに好意は抱いて下さってはいるけれど、それは恋愛ではないわ。それを承知の上で、わたくしは婚約を迫ったの」


 ディアーナは、伏し目がちに言葉を続ける。


「エマ考えてみて、わたくしはエスタニア王国の第三王女よ。しかも暗躍の疑いを本国からかけられ、命さえ狙われている。普通なら婚約なんて受け入れないわ。だけど、優しいジークベルト様は、その背景を悟って、わたくしたちを守ってくださった」

 

 ディアーナは、今までエマに自身の婚約の経緯を伝えることはなかった。

 どうしても本国に帰る前にどうしても伝えておきたかったのだ。

 自身の狡猾さがわかり、エマに嫌悪されたかもしれない。

 それでも、現状のジークベルトとの関係を伝えておきたかった。


「もちろん。ジークベルト様にもわたくしを愛していただけるように努力するわ。だからエマ、ジークベルト様をお慕いしているのならば、この機会を逃してはならないのよ。今後ジークベルト様は、多くの素敵な方と出会うわ。だけどそれは今ではない。幸運にも私たちは、いまジークベルト様に出会えたの。ライバルが少ない状況で舞台に立つことすらしないなんて絶対に駄目よ。それにセラ様は、確実にジークベルト様の婚約者になるわ」

「セラ様がですか?」


 突然のセラの名前にエマは驚愕する。

 セラ様がジークベルト様の婚約者? 姫様の願望ではなくて?

 あまりに突拍子もないことに、エマの気持ちが追いつかない。


「セラ様のジークベルト様を見る目は、わたくしと一緒よ。それにセラ様の侍女ハンナの態度を見れば明白よ」

「姫様……。姫様がお嫌だとお伝えすれば、ジークベルト様は他に婚約者を作ることはなさいません」

「ねぇエマ。王族は側室をなぜもつかわかる?」

「次代を途絶えないためですよね」

「そうね。ジークベルト様も同じよ。本人が望んでなくとも周囲から固まっていくものなの。わたくしのようにね。近々セラ様は、婚約者となるわ。私はセラ様を歓迎する。同じ方をお慕いする者同士仲良く過ごしたいし、今後のジークベルト様の女性関係についても協力をお願いするつもりよ。セラ様は否とは申さないわ」


 エマは息を呑む。

 ディアーナは、どこまで先を視て行動しているのか。

 だけどとも思う。

 アーベル家の至宝であるジークベルト様。

 あのご家族が、その意志を無視するような行動をジークベルト様になさるだろうか。

 ディアーナの考えすぎではないか。

 側室が条件だったのは、王女であるディアーナに配慮したのではないか。

 もしも、ジークベルト様が成長した時に、ディアーナ以外の方をお慕いした時の保険でもあるのではないか。

 普段考えないことに頭が沸騰しそうになる。

 すると突然、ディアーナたちが転移した場所からまばゆい光が周囲に広がる。

 

「ジークベルト様!」


 ディアーナが、すごい勢いでその光に駆け寄っていく。

 その姿に「姫様、お心のままに行動すればいいのです」と、エマがあとを追った。

 結局エマの気持ちをディアーナに伝えることができないまま、ふたりの茶会は幕を閉じた。



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