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不運からの最強男  作者: フクフク
日常編
114/211

スラ_01



「『疾風』、ハク様お願いします」

「ガゥ! ガゥッ!〈任せろ! エマ、左だ!〉」

「はい。ハク様!」


 五匹いたオークが次々とドロップ品に変わる。

 今日の晩ご飯は、久々のオークの肉で決まりだ。

 あれ食べたくなるんだよねと、俺がのんきに感想を述べている横で、ニコライとテオ兄さんが彼女たちの動きに驚いていた。


「あいつら完璧なフォーメーションじゃねぇかっ」

「視力がおかしくなったのかな。エマが転ばずに攻撃をあててるよ。どういうことかなジーク?」


 グイッと腕を引っ張られ、笑顔で詰めてくるテオ兄さん。えっ笑顔が怖いです。


「よっよくわからないんですが、エマは共同で魔物を討伐すると戦闘中は、ほとんどドジっ子を発動しません。個人戦となると途端に発動します」

「へぇーその情報、どうして事前に教えてくれなかったかな」

「必要ないかとっ……おっ思いまして」

「テオ、チビも悪気があったわけじゃねぇんだから、そう……」

「ニコライ、そう、なに?」

「いやっな、おいっち……」

「ニコライ?」

「まぁ落ち着け、なっなな……」


 ふたりの声が俺から遠ざかっていく。

 おぉ、くわばらくわばら。

 テオ兄さんのことはニコライに任せて、討伐を終えたハクたちに「お疲れさま」と言って近づくと、ディアーナが困った顔をして、ドロップ品のオークの肉を見つめていた。


「ディア? どうしたの?」

「ジークベルト様、その、どうしましょう?」


 オークの肉の下に、五センチほどのベビースライムがいた。

 これはまた定番な展開です。

 とりあえずオークの肉をはずしてと──。ん? いない。オークの肉にベッタリ張りついている。

 オークの肉を振ってみるが、はずれない。ベビースライムを掴んでみるが、オークの肉からはずれない。

 このベビースライム、粘着力強くないか。


「いろいろと試してみたのですが、オークの肉からはずれないのです」

「そうみたいだね。これはどうしたものかな。討伐する?」

「まだ小さいですし、オークの肉と一緒に放置はダメでしょうか」


 ベビースライムは、俺の『討伐する』に、ピクッと反応した。

 言葉を理解しているようだ。おもしろい。


「このベビースライムは、常習犯だよ。毎回同じようなことをして食料を確保しているみたいだね。俺は甘くないよ。討伐されたくなければ、オークの肉から離れて。じゃないと一緒に焼くよ」

「ピッー〈それはいやー〉」


 ベビースライムが、オークの肉から離れる。逃亡しようと素早く移動するが、ヒョイッとすくい上げる。


「ピーッ〈はなせー〉」と声をあげているが無視だ。

 それより顔はどこだろう。普段はスライムをじっくり観察することなんてない。

 高知能の個体のようだし、定番通り飼ってみるか。なんとなくだけど、この個体を逃したらダメだと、俺の直感が言っている。

 これはもう魔契約するしかない。

 でも、俺にはハクがいるし……。ディアは違う。エマは無理。まさかのハク!? ベビースライムと戯れるハク。うん、かわいいけど、ないな……。

 そうだセラだ! うん、セラだよ。

 ベビースライムを『鑑定』すると、セラの治療に必要な能力を兼ね備えていた。

 これで安心して、武道大会に行ける。

 となると、やることはひとつ。目の前のベビースライムを捕獲することだ。

 まずは話し合いをして、様子見をしよう。


「お前、僕たちと一緒においで。お前を必要としている人がいるんだ」

「ピー〈いやだ〉」

「毎日、オークの肉を食べさせてあげるよ」

「ピッ〈いいよ〉」

「契約成立だね。あっ! 魔契約の相手は僕じゃないからね」


 ベビースライムの体が一瞬光ったが、すぐにおさまる。ハクのパターンもあるから、事前に伝えて正解だ。

 やはりこのベビースライムは賢いが、ちょろい。


「あの、ジークベルト様、この子をお飼いになるのですか?」

「うん。主は僕じゃないけどね。ベビースライム、前報酬だ。そのオークの肉食べていいよ」

「ピッ〈いいの〉」


 ベビースライムが、ウキウキとオークの肉の半分を包み込む。

 どれだけ好きなんだ。これは重点的にオークの肉を狩る必要がありそうだ。

 後でテオ兄さんに相談しよう。


「ん?」


 ハクから猛烈な視線を感じる。

 とてもうらやましそうな顔をして、チラチラとベビースライムを見ている。

 オークの肉をハクの前に出すと、上目遣いでいいの? と尋ねてきたので、頭をポンとなでてやる。

 その合図で、ハクがうれしそうにオークの肉にかぶりつく。



「──ということで、重点的にオークの肉を狩りたいのです」

「これがセラの治療に必要なのか」

「はい。この子の能力が必要です。この子をセラに預ければ、安心して武道大会に行けます」

「ピッ〈さわるなっ〉」


 ニコライがベビースライムを掴む。ベビースライムが尖端を針のように伸ばし、ニコライを攻撃している。

 まぁ全然効いてないけどね。


「弱っちぃーな。これすぐ殺れるぞ」


『殺れる』との言葉に、ベビースライムは過剰反応し、ブルブル震えだす。

 あっまだ魔契約していないのに脅すのはやめてほしい。逃げたら大変だ。

 ニコライからベビースライムを確保し、そのプルンプルンの体をなでて、大丈夫だと安心させる。

 ピクッと体を揺らしたベビースライムは、俺の肩によじ登ると首筋にピタッと張りつく。

 おそらくニコライの攻撃に備え、防衛しているのだと思われる。


「ジーク、話はわかったけど、魔契約していない魔物を伴っての踏破は難しいよ。それにレベル上げは必須だね。このままだとニコライの言う通り瞬殺だよ」


 またもや『瞬殺』に震え上がるベビースライム。首筋の粘着度が上がったような気がする。


「まだ五階ですし、いったん屋敷に戻ってセラと魔契約させた後、この子のレベル上げをするのはどうでしょう」

「んー。魔契約はそうそうにできるものではないんだよ。セラ殿にはまだ難しいと思うな」

「そうなんですか? だけどこの子、先ほど魔契約しようとしてましたが?」

「ピー〈できるぞー〉」

「「「えっ!?」」」


 ベビースライムは、俺の首もとで激しく光る。

 俺たちの戸惑う声と同時に、俺の体に光が降り注ぐ。

「ちょっと待てーー」との俺の声は虚しく響いた。

 無機質な音が頭の中に響く。



 **********************


 魔契約:ベビースライム特種体


 **********************



「ピッ〈どうだ〉」と、ベビースライムは、小さな体をプルンと動かす。

 俺は肩をガックリと下げ「魔契約しちゃいました」と報告した。


「なぁテオ、魔契約って、術者からするもんだと思ってたが、魔物から勝手にできるものなのか?」

「僕の知識もそうなんだけど、できたようだね。ジークだからね」

「なぁ最近なんでもチビだからっていう理由で片づけるのはどうかと思うぞ」

「じゃニコライは、ほかになにか思いつくのかな。説明してみてよ」

「いや、チビだからでいいな。だから笑顔で近づくなっ。お前最近沸点低すぎるぞ……。いやっ、今のは失言だ。俺が悪かった」


 ニコライがなぜか後ずさり、それをまたテオ兄さんが笑顔で追っている。

 んー? いつの間にかふたりは俺から遠ざかっていた。

 俺の報告聞こえたよな。さてどうしたものか。

 首筋のベビースライムを剥がし、手のひらにのせる。

「ピッ〈なんだ〉」と、ベビースライムが様子をうかがうようにして鳴く。

 プルンと動くベビースライムに、ハクとは違うかわいさを感じる。

 魔契約するとかわいく見えるのだ。

 名前 をどうしようかなと考えていると、ハクがそばに寄り添った。


「ガゥ?〈魔契約?〉」

「さすがハク。うんそう」

「ガウ!〈よろしく!〉」

「ピッ!〈よろしく!〉」


 ベビースライムが、ハクの背中に飛び乗り、頭の上に移動する。

 ベビースライムは定位置を見つけたようだ。

 ハクも嫌がってないしいいか。二匹は楽しそうに話し込んでいる。

 うん。ベビースライムはハクに任せよう。


「ジークベルト様、先ほどの光は? お体は大丈夫ですか?」


 休憩場に足を踏み入れると、ディアーナが慌てた様子で俺のそばに寄り、体に異常がないか確認している。エマもオロオロしている。突然の光に心配をかけたようだ。

 ふたりには、ベビースライムの件でテオ兄さんたちと話をするので、ここで待機していてねとお願いしたため、律儀に約束を守ってくれたようだ。

 ディアーナとエマの手を掴み「大丈夫だよ」と伝える。ふたりは安堵のため息をつく。

 俺、愛されてるなとふたりに感謝しつつ、ベビースライムと魔契約したことも伝える。


「セラ様との魔契約のお話だったのでは?」

「うん。それがね、ベビースライムが暴走しちゃってね」

「ピッ?〈呼んだ?〉」

「そうお前の話をしてたんだ。名前どうしよっか」

「ピッ!〈名前!〉」


 ハクと一緒に休憩場に現れたベビースライムは、ピョンピョンと跳ね、俺の手のひらに収まる。

 ハクも対抗心からか俺の膝の上に頭をのせる。

 モフモフとブルルンを堪能し放題の俺、これはなかなかにいいと頬が緩む。

 その様にディアーナが「うふふ、かわいいですね」と微笑むと、「スライムとベビースライムは別物ですよね。私、もてあそばれませんよね」と、エマが小さくつぶやいていた。

 エマにも自覚があったのかと、心の中で突っ込んだ。



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