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不運からの最強男  作者: フクフク
日常編
104/213

舞踏会_02



「ディアーナ王女、私と踊ってくれませんか?」


 俺はおどけた口調で、ダンスをディアーナに申し込む。

 ディアーナは満面の笑みで、差し出された手を重ね「はい」とうなずく。

 ダンスホールの中央にたどり着くと、タイミングよく曲が終わり、叔父たちがその場を俺たちに譲ってくれる。

 今日は俺たちのお披露目でもあるのだ。

 管弦楽団のナイスアシストで、俺たちに合わせたスローテンポの曲が演奏される。


「このテンポなら大丈夫そうだ」

「ジークベルト様にも苦手はあるのですね」

「この年齢で舞踏会に出席するとは思ってなかったからね」


 俺は肩をすくめながら、にわか仕込みのステップを踏む。

 お披露目をすると決まった日から、アンナの猛特訓が始まったが、いかんせん相性が悪かった。

 運動神経には自信があったはずだが、曲に合わせてステップを踏み、かつ相手をリードすることは並大抵のことではなく難しかった。

『慣れだよ』と兄さんたちは言っていたが、頭では理解できているが、体がついてこないのだ。

 もうここはスキルに頼ろうと、貴重なスキルポイントで取得を試みたが、スキル解放レベルが、まさかのLv20だったため、スキル取得ができなかった。


 俺の幸運どうした!? 残念すぎる。


 ディアーナは王女教育の一環で習い、物心ついた頃には、ほとんどのステップをマスターしていたそうだ。

「アドバイスできず申し訳ありません」と恐縮していたが、記憶がないだけでたくさん練習をしたのだろう。

 なかなか上達しない俺を見てアンナが「不覚。ジークベルト様にこのような弱点があるとは……。幼児期の教育カテゴリーを間違えたわ」と自身をかなり責めていた。

 出来の悪い生徒ですみません。

 必死に練習した俺は、なんとかアンナに合格点をもらい、今に至るわけだ。

 練習していた曲よりも、だいぶ難易度が低い曲に、内心緊張していた糸も切れ、ダンスを楽しむ。

 大勢の人は、俺たちのダンスを微笑ましく見ていたが、あからさまに好奇な目を向ける者が数人いた。

『地図』スキルの機能で、要注意人物として登録はしておく。敵対心はないとは思うが用心に越したことはない。


「ジークベルト様、とても楽しいです」


 うふふと可憐に微笑むディアーナに、俺の心臓は跳ね上がる。

 なにこのかわいさ! やばい、まじやばいんですが!

 今日のディアーナは一段と磨きがかかり、超美少女にランクアップしていた。

 ターンをするたびにフワッと裾が揺れる淡いイエローのドレスは、華やかでかわいらしい印象を与え、身に着けている装飾品も良質で小粒な宝石を使用しており、上品な輝きを放ち、その効果を上げていた。

 もちろんディアーナ本人が、光り輝いていて、かわいいんだけどね。

 ディアーナ王女の噂を一掃するにはもってこいの状況である。

 誰が見ても、純粋で可憐な少女が、反乱を首謀したとは考えられない。

 エスタニア王国の王位継承権が、複雑怪奇であるとの噂が流れていた。

 王女で唯一王位継承権があったディアーナ王女を陥れ、実兄の王太子の立場を揺るがそうとしたのではないか。誰かが意図したのだろう。今日のディアーナの姿で信憑性が増した。

 俺は手応えを感じて、ニヤッと口もとを緩めた。


「どうしました?」


 その表情の変化に気づいたディアーナが俺の耳もとでささやく。

 俺は音に合わせながらステップを踏み、彼女との距離が開くと、顔を見合わせる。


「ドレスとても似合っているよ」

「ありがとうございます。ジークベルト様が選んで贈ってくださったものですから……うれしいです」


 はにかんで頬を赤らめながらお礼を伝えるディアーナの表情は、素晴らしくかわいい。

 ディアーナの意識を逸らすことに成功した俺は改めて、彼女のドレス姿に見惚れた。

 うん。あの時の俺、よくやった。



 ***



 アーベル家の仕立室に、女性たちが集まっていた。

 授与式の後に行われる舞踏会のドレスの仕立てに侍女たちも心を躍らせていた。特に俺の婚約者として披露されるディアーナのドレスには、気合いが入っていた。

 長時間の拘束に、そろそろ俺の忍耐も悲鳴をあげている。

 するとある侍女が「ジークベルト様の瞳に合わせて──」と新たな提案をする。

 せっかくドレスの方向性が決まり始めたのに、振り出しに戻ってしまう。

 そう思った俺は「その色より……」と、つい口を出してしまった。

 視線がいっせいに俺に集まる。

 せっかく傍観者として周囲に認識されていたのに、自ら注目を集めてしまった。

 まぁ、せっかくの晴れ舞台だし、ディアーナがかわいく着飾るのは、俺もうれしいしと、言い訳を心の中でつぶやきながら、重い腰を上げると、机に並んでいる多くの布の中から、暖色系の淡い色をいくつか選択し、その生地をディアーナにあてる。


「うん。僕はこのイエローがいいな。とても似合うよ。うん。かわいい。ほかはこれとこれ」

「そっそうですか」


 今まで傍観していた俺が、突然生地を選びだしたことにディアーナは戸惑っている。周囲も黙ってその様子をうかがっていた。


「うん。僕の瞳の色に合わせて紫を選んでくれるのはうれしいけど、今のディアにはこの色がかわいいと思う」


 俺は自信を持って、発言した。

 色はシックより淡いほうが似合うし、寒色系より暖色系が合う。背伸びせず、今のディアーナの年齢に合わせた色がいい。


「たしかに……ジークが選んだ色のほうが似合うわ」


 女性たちの中心でドレスを選んでいたマリー姉様が助言した。

 ディアーナもうれしそうな表情をして、俺の意見を受け入れてくれる。


「ジークベルト様が選んでくださったイエローにいたします」

「次はドレスのデザインね」


 マリー姉様が次の段階に進もうとしたため、ディアーナがそれを止める。


「マリアンネお義姉様は、ドレスを新調なさらないのですか」

「以前作ったものがあるの……。そうね! せっかくだし私も作るわ!」


 マリー姉様はチラチラ俺に目配せしながら、生地を選んでいるふりをする。

 はいはい。俺が選ぶんですね。苦情はいっさい聞きませんからね。

 なんとかマリー姉様のドレスの色を決めて、解放されると思いきや、俺が甘かった。

 ドレスのデザインまで、意見を求められ、一日拘束された。

 うん。女性の買い物に口を出すのはダメだと学んだ日だった。



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