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不運からの最強男  作者: フクフク
日常編
103/208

舞踏会_01



 叔父ヴィリバルトの伯爵の爵位授与式は、王城の玉座の間で粛々と挙行された。

 赤い絨毯が敷かれた先には玉座があり、威光のある美丈夫が腰を据えて臣下たちを見下ろしていた。

 マンジェスタ王だ。その横には、王妃が立ち、王太子と王子王女が並ぶ。

 そして玉座から見て右下側に、父ギルベルトを先頭にアーベル家の面々が並んで立つ。

 俺もそこにいた。

 近衛騎士よりも、俺たちのほうが王に近い場所にいる。

 この位置に誰も疑問が浮かばないようだ。

 王族、アーベル家を守るように近衛騎士が両側に立ち、少し離れた左側に国の重鎮たち、高位貴族、下位貴族と続く。

 玉座からの位置で、貴族の力関係を表している。

 アーベル家が『第二の王家』と称されるのも納得だ。


 この場所へ案内された時、俺はひどく緊張した。

 その様子に年に数回ほどしか会わない祖母ラウラのフォローが入る。


「ジークベルト、私のそばにいらっしゃい」

「はい。お祖母様」


 手招きをする祖母のそばに俺は移動する。

 その位置は少しだけほかの場所よりも奥になり目立ちにくい場所だった。


「驚くのも無理はないわ。玉座が近いものね。私も最初はすごく驚いたのよ。なのにこの人は涼しい顔をして平然としていたのよ」


 祖母が眉をひそめ視線を隣に向ける。

 そこには年齢のわりに体格がしっかりした父上によく似た赤い短髪の男性が立っていた。

 俺の祖父ヘルベルト・フォン・アーベルだ。

「ラウラ」と祖父が表情をゆがめる。

 どうやら祖父にとって祖母の言葉は心外だったようだ。

 その様子に祖母が、やや声のトーンを落とす。


「あら本当のことじゃない。とても心細かったのに」

「心細かったのか?」


 祖父が労わるような眼差しで祖母を見て、その腰を引き寄せる。


「えぇ。権威とはほど遠い男爵家の娘だった私が、玉座に近い場所に案内されれば、驚くし心細くもなるわ。ましてや玉座の間に入室することさえ想像つかなかったのによ」

「気づいてやれなくてすまない。君はとても堂々としていたから」


 徐々にふたりの距離が近づく。

 そして祖母が「あなたに恥をかかせることはできないわ」と、頭を微かに振ると祖父が「ラウラ」とその手を祖母の頬に置いた。

 ふたりの世界に入った祖父母は、人目を気にせずいちゃつきだす。

 あぁこれはもう、完全に俺のこと忘れてる。

 幼少時によく目にした父上と母上、ふたりの仲睦まじい姿を思い出した。

 血は争えないようだ。

 いちゃつくふたりの横で、どうしようかと途方に暮れていると、テオ兄さんの救済が入った。

 自然と俺がテオ兄さんの横に移動したように誘導してくれた。


「ありがとうございます。テオ兄さん、助かりました」

「お祖父様たちは、相変わらず仲がいいね」


 テオ兄さんはあきれた表情で祖父母の様子を見るが、その声色はとても優しい。


「人目は気にしてほしいですけどね」

「ははは。幼いジークにそれを指摘されたらお祖父様たちは立つ瀬がないね」


 玉座のそばで雑談ができるぐらい、テオ兄さんはこの場に慣れているようだ。

 どうも俺はこの立ち位置に慣れない。妙に落ち着かないのだ。

 その様子に気づいたテオ兄さんは、俺の気を紛らわすように、この場の心構えを教えてくれた。この位置は、マンジェスタ王国の建国以来『初代王が決めた慣例』で、深い意味はなく、ただの慣例だと考えなさいとのことだった。

 今後も国の関連行事に出席すればこの位置になるので、自然と慣れてくるそうだ。

 そうは言われても、七歳児には受け入れがたい場所だ。

 兄さんたちは年齢的にも余裕があるからだと拗ねていたが、精神年齢は俺のほうが上だったことを思い出し、少し反省した。

 授与式は滞りなく進み、過去の叔父の戦歴をたたえ、国にいかに貢献したか読み上げられた。

 盛大な拍手の後、王が右手を上げると一瞬にして静寂に包まれる。王が言葉を述べる。


「ヴィリバルト・フォン・アーベルに、伯爵の爵位を与える」

「謹んでお受けいたします」


 玉座の下で胸に手をあて叔父が拝礼する。


「うむ。こたびの授与に異論のある者は前に出よ」


 その言葉に誰も動かず、玉座の間が再び静寂に包まれる。

 王が満足そうに大きくうなずくと、叔父に視線を向ける。


「アーベル伯爵、今後もマンジェスタ王国、ひいては民のため、その力を存分に発揮せよ」


「御意」と、叔父の力強い声が玉座の間に響いた。



 ***



 きらびやかなシャンデリアが並ぶ大広間で、生演奏が途切れると、雑談していた人々が口をつぐみ、大広間の中央扉に注目が集まる。

 ファンファーレの奏と同時に扉がゆっくりと開く。

 扉の奥から王と王妃がその姿を現すと、人々は頭を下げその動向を見守る。

 正面の一段と高い王族席に腰を据えた王が右手を上げると、再び生演奏が流れ舞踏会が始まった。

 昼間の授与式と異なり、夜の王城は一変した。


 ダンスホールの中央では国王夫妻のファーストダンスが終わり、招待客が静観している中で、今夜の主役であるヴィリバルトがパートナーであるフラウと踊り始める。続いて、王子王女たちがそれぞれのパートナーと、アーベル家の成人組がそれに続く。

 ちなみに、マンジェスタ王国の第三王女アメリア・フォン・マンジェスタのパートナーが、テオ兄さんだったことには驚いた。


「婚約者がいない王族は、叙爵した家の独身者がエスコートをする決まりなんだ。本来は長子のアル兄さんがエスコートする予定だったんだけどね。アメリア殿下は男性が苦手でね。幼い頃から面識があり、マルクス殿下と三人でよく遊んでいたので、免疫のある僕がエスコート役に指名されただけなんだよ」


 要するに男性が苦手なアメリア様が、唯一平常心を保てるテオ兄さんが抜擢された。との理由らしいが、そんなに述べなくても、誤解はしませんよ。だって、ユリウス王太子殿下のパートナーは、マリー姉様ですしね。

 だけど、テオ兄さんにその気がなくとも、アメリア様は確実にテオ兄さんを狙っていると思います。ほらテオ兄さんへの熱視線。完全に恋する乙女の顔ですよ。

 それに男性は苦手かもしれないけど、アル兄さんとも面識はあるはずだし、わざわざそれを理由にテオ兄さんを指名するには少し無理があるんだよね。

 現在マンジェスタ王国で独身の王女はアメリア様だけなので、滅多なことがない限り、テオ兄さんが婚約者にはならないとは思うが、外堀を埋められないように気をつけてくださいね。

 ちなみに、マンジェスタ王国の現王には、五名の王子と王女がいる。

 すでに王女ふたりは嫁いでおり、王家からは離れている。

 現在王家に籍があるのは、ユリウス王太子殿下、第二王子マルクス様、第三王女アメリア様だ。

 嫁いだふたりの王女とは年が離れており、ユリウス王太子殿下が、アル兄さんと同じ年で二十二歳。マルクス様が、テオ兄さん同じ年で十七歳。アメリア様は十五歳のはずだ。

 お三方とも婚約者がおらず、誰が射止めるか社交界ではその話でもちきりだ。以前、王太子妃候補にマリー姉様の名前があるとの噂が流れたが、マリー姉様自身が「ありえないわ』と鼻で笑い一蹴したとの情報もある。

 マリー姉様ならやりかねない。

 今宵の舞踏会は特例で、成人前の子息令嬢も出席をしている。

 テオ兄さんが体面を気にするのもしかたないが、アメリア様のあからさまな態度で、周囲の認識は覆い隠せない。今まで噂にならなかったのが奇跡のようだ。

 社交界での話題は、しばらくテオ兄さんとアメリア様だろう。

 テオ兄さんって、ここぞって時の運が極端にないような気がする。本当に不憫すぎる。


「ワー」と、周囲から感嘆の声があがる。

 その先には、叔父とフラウが華麗にダンスを踊っていた。

 難易度が高い曲が演奏されているようで、ダンスホールには、叔父フラウペアと、王太子姉様ペア、そのほか二組、四組しかいない。

 その中でも、叔父フラウペアは息がピッタリと合っており、速い曲調のリズムにアップテンポなステップが踏まれているが、難しい曲を踊っているようには見えない。ふたりとも終始笑顔で楽しそうだ。

 叔父はスマートになんでもできるイメージがあるので、それほど驚きはしないが、フラウが踊れることに衝撃を受けたのと敬畏したのは内緒だ。

 さてそろそろ出番だ。



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