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20話



 私は寝袋の中で眠って朝を迎えました。隣に寝ているミケーネさんもまだ夢の中みたいです。細く整った眉が時々上下に揺れる度、桃色の唇から安らかな寝息を漏らしながら良く寝ていますね。


 【……今夜は、ちゃんと眠れそうです……】


 昨夜、ミケーネさんは寝る直前にそう仰有ってました。安心できたのなら、幸いです。でも、その原因を作ったのは私なのです。もしかすると、今より更に彼女を不幸にするかもしれないのに……。


 身勝手な自分に溜息が漏れそうになったその時、地面から小刻みな振動が伝わってきました。低くくぐもるような音と共に、次第に大きくなっていき……


 ……いいえ! 寝ている場合じゃ有りません!! 起きなければ!!


 私は勢い良くガバッと起き上がり、横で寝ているミケーネをゆさゆさと揺らして起こします。


 「……ふっ? むぅ……激しいですぅ……♪」


 ……妙な寝言を言ってますが、気にしている暇は有りません!


 ふんっ、と腹筋に力を入れてミケーネの寝袋を掴み、ジャッとジッパーを引き下げ……


 「……ふああぁ……あっ、エレナさん、おはようございます……」


 丁寧で上品な言葉遣いに相応しいのでしょうか、一糸纏わぬ生まれたばかりの姿でミケーネさんが起きました。


 「……あ、驚かれました? 私……寝る時は服をふわああああぁ!?」

 「言いたい事は、判りましたから……服を着てください!」


 ええ、ええ。別に嫉妬なんてしてませんよ? ただ、サッサと服を着てほしいだけなんです。凶悪な肉球なんて見たく有りません。国境警備隊の若い方々が見たら、何と言うでしょうかね……。


 寝袋の足元に丸まっていた服をミケーネに押し付けて、私は天幕から飛び出しました。


 「ふぅ……全く、ミケーネさんは自由人過ぎます……」


 私は溜め息混じりに呟きながら、起きていた方々と合流しました。


 「あ、エレナさん!」

 「一体何事でしょう……」


 既に天幕から出ていたオリビアとレン、そしてハンスさんも一緒のようです。


 「……急いでエンジンを回して待機、直ぐに動けるように準備させておけ。トラックもだ」


 ハンスさんに促されて、私達は遅れて合流してきたミケーネさんを伴い準備に走り回ります。


 車体後方に大きなクランク棒を差し込んで、三人で力を籠めて回します……お、重いぃ……


 「任せて! みんなで回そう!!」

 「ケ、ケビンさん……ありがとう!」


 トラックを降りて駆け付けたケビンさんも加わって、ヘッツァーのエンジンがやっと始動しました。


 車内に潜り込み、各々の配置に着いてヘッドセットを付けていると、レンさんが無線機を背負い、手にライフルを持ちながらハッチから抜け出して外に出ます。


 私は外の状況を確認する為に上半身をハッチから出すと、国境警備隊の方々が各自散開し、正体不明の相手を待ち構える為に展開していくのが見えました。


 ≪……こちらレン、北側から街道を進む土煙が見えます≫


 北側? 西に向かって進んできた我々とは違う方向です。相手の規模や種類は判らないのがもどかしいです。


 ≪こちらハンス、レン……相手の種類は判るか?≫

 ≪……先頭は……戦車、それも、背が高くて大きく……ッ!?≫


 レンさんの通信が途絶えた瞬間、腹に響く轟音が木霊し、一瞬後に砲弾が落ちる音と爆発音が同時に聞こえました!


 ≪くそ!! 間違いないッ!! ソビエトの戦車だッ!!≫


 焦りを滲ませながらハンスさんが叫び、車内の雰囲気が一気に変わります。此方からは見えていないのに、もう撃ち始めたのなら……目的は一つ、殲滅戦しか有りません。


 ≪急速後退ッ!! 状況を変える為に一旦退くぞ!!≫


 

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