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18話



 私達と国境警備隊の皆さんは、会合場所から離れて野営の準備を始めました。本来ならば戦車の中で眠り、質素な簡易食で空腹を満たすのが精々、だそうですが……



 「あー、それは俺が持ちますから!!」

 「天幕張りなら任せてください!」

 「俺がやります!」

 「俺に任せてください!!」


 ……ええ、よーく判ってます。私達みたいな、若い女子が男だらけの環境に降り立てば、どんな扱い方をされるのか、なんて。


 結論から申しますと、私達の野営設備はあっという間に国境警備隊の皆様に奪い取られ、あれよあれよと言う間も無く、きっちりかっちり設営されてしまいました。


 「まあ、良かったじゃないか? 天幕(テント)をちゃんと張るのは慣れていないと結構大変だからな」


 他人事のようにハンスさんは言いますが、流石に下着類を入れておいた従軍行李(ミリタリートランク)に手が伸びる寸前に、何とか阻止出来て良かったですよ、全く……。




 「あ、エレナさん! これ凄く美味しいですよ?」


 そんな私の心配なんてお構い無しで、オリビアさんが皿に盛られたお料理を堪能しています。と言うか……いつの間に作られたのでしょうか?


 私達四人は、各々五人位の若い兵士さんに囲まれながら夕食の時間を迎えました。まあ、仕方無いですよ。だって、私達にしても、ハンスさんを捕まえてはしょっちゅう……いや、まぁ、別にいいんですけれど。



 ……ん? そのハンスさんを囲むように、兵士の皆さんが集まって何やら盛り上がっています。私を質問責めにしている方々に会釈して立ち上がり、そちらに行ってみます。


 「どうかされたんですか? 皆さん熱心にお話されているようですが」


 ハンスさんと向き合って話していたお髭の隊長さんに尋ねると、振り向きながら私だと気付くと直ぐに手招きしつつ、


 「これはこれはエレナさん。ええ、其方の戦車が実に興味深く、つい話し込んでしまってね」


 そう言いながら私達のヘッツァーを指差し、


 「例えば、本来ならばⅢ号戦車の転輪(側帯を支える鉄製の車輪)は四つなんですが、あれは五つ。つまり車体が延長されているようで……」


 そうだったんですか? 私は元の状態そのものを知りませんから、何故そうなのかまでは判りません。


 「ああ、あれはエンジンを大型化させる為、設計段階から全長を伸ばしてあって……」


 するとハンスさんが直ぐに説明してくれます。そりゃあ当たり前ですよね、専門家なんですから。


 「ええっ!? ディーゼルじゃなくてガソリンエンジンなんですか!!」

 「ああ、Uボートにディーゼル燃料を最優先で回す為、ドイツの車両の殆どがガソリン駆動なんだ」


 ……でも、段々と話が白熱し、ハンスさんも妙に興奮気味と言うか……


 勿論、皆さん別にお酒なんて飲んでいる訳ではないでしょうが、同じようにコーヒーを淹れたカップを手にしながら、妙な盛り上がり方してますね。


 「貫徹能力が高い長砲身が」「射程距離よりも近接時の取り回しが」「徹甲榴弾の運用で」「お陰で狭いながらも自分の場所が確保」「ドイツだから!!」「ソビエトなんて!!」


 ……変ですね。ハンスさん達の勢いは更に熱を帯び、手に持ったコーヒーカップを煽りながら、肩を組んで歌い出したりしてます。いつもと違う彼の姿に……コーヒーカップ?


 「……ケビンさん、何か入れませんでした?」


 私は閃いて、周囲から離れて明らかに気配を消そうとしているケビンさんを捕まえて問い質します。


 「いや、何と言うか……寒いからコーヒーにブランデーを垂らしたんですが、暗くて手元が良く見えなくて……」


 あっさりと白状する彼の傍らには、空になったブランデーの瓶が転がってました。うーん、どれだけ入れたんでしょう? 呆れた話です……。


 「まぁ、済んだ事は仕方ありませんね。でも、お陰で女の子扱いも鎮まりましたから感謝いたします」


 そう言いながら彼に会釈して、天幕に戻ろうとした私の背中に向かって、


 「……お、女の子扱いではなくて、異性として向き合ってはダメですか?」


 ケビンさんが仰有いました。何となく気持ちは汲み取れましたが、今の私にそんな余裕は有りません。精一杯の強がりを含めながら、


 「……この戦争が終わったら、考えさせて頂きます」


 背中越しにお伝えして、その場を去りました。






 天幕に戻ると、皆さん既にお休みになられていたようです。ミケーネと寝所が同じなので彼女を起こさないように入り口を開けて、そっと中に入りました。


 「……エレナさん、戻られたのですか?」


 と、まだ起きていたようで、暗い天幕の中で声と共に彼女が身を起こす気配がします。


 「起きていたんですか。早く休んだ方が良いですよ?」


 私は隣に置いてある寝袋に身を入れながらそう言うと、ミケーネさんは身体を再び横たえさせてから、


 「……はい、でも……なかなか眠れなくて」


 ごそり、と寝返りをしてこちらの方に向いて語ります。なら、お付き合いしましょうか。


 「それはやはり……戦争に荷担しているから?」


 私の言葉に衣擦れの音で答えます。でしょうね、普通の人ならば、避けて通りたい修羅の道ですから。


 どうやら、今夜は長い夜になりそうです。







 




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