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14話



 「……さて、出発まで随分と時間が掛かってしまったが、気を取り直して習熟開始といこう」


 ハンスさんがそう言いながら、私達一人一人に向かい、


 「先ずはエレナ、君は車長だ。三人の連携を保ちながら指示を出せ」

 「ハイ、了解しました」



 「次はオリビア。君は砲手だ。砲弾の装填と排出された薬莢を速やかに取り除け」

 「任せてください!! 狙ったりしてもいいんですよね? うーん、責任重大だなぁ……」


 「ミケーネ、君は運転手だ。戦車を操り最適な砲撃地点に辿り着き、砲撃後は即座に離脱させろ。長居は無用だからな」

 「……わ、判りました、頑張ります……」


 「レン、君は観測手だ。付近の偵察を兼ねながら敵車両を発見し報告しろ」

 「了解しました。もし、よければ護身用のライフルを持たせてください」



 そう告げる度に私達は頷きながら、自分に宛がわれた役割を頭の中に刻み込んでいきます。車長……大役です。でも、どうして私なのでしょう。


 「……あの、質問してもいいですか?」


 内気なミケーネさんがおずおずと手を上げながら、戦車を一度停車させてからハンスさんに問い掛けます。そして彼が頷くのを確かめてから、再び口を開きました。


 「その……ハンスさんは何かしないんですか? ……あ、いえ、別に私が運転手をやりたくない訳じゃなくて、ええと……その方が全員が生き残る確率が上がる気がして……」


 ミケーネさんは精一杯、自分の考えを纏めながらキチンと伝えます。普段は余り積極的に話をするタイプでは有りませんが、時折鋭い視点でハッキリと発言する事があり、なかなか侮れないのです。それにしても、随分とストレートな問い掛けね……私もちょっとは考えてみたけれど、車椅子のハンスさんが積極的に動き回る訳ないんですが。


 「ふむ、確かにな。だが俺が戦車に関わったら……」


 そう前置きしてから、ハンスさんはさらりと答えます。



 「……君達の成長の妨げにしかならんだろう」


 ……まあ、それは当然ですわね。習熟には現場での経験を積むのが一番ですし、ハンスさん頼みでは……それこそ、万が一何かあった際に何も出来なくなってしまいます。


 「そ、それはそうですが……」


 ミケーネさんが口ごもりつつ、彼の言葉に返答しようとするのを手で制してから、


 「……まあ、気持ちは判るがな。俺は別に足さえ自由に動かせれば、いつでも替わってやりたいんだ。だが、こんな調子で口出しは出来るが、薬莢を捨てに行く事すら満足に出来やしない」


 そう言ってポン、と軽く自らの足を叩きます。


 「だから、君達に少しでも、俺の持ち得る技術と経験を分けてやりたいんだ。判ってくれないか?」


 続けて話すハンスさんの言葉に、操縦桿(ハンドル)を握っていたミケーネさんは表情を引き締めてから、


 「は、はい!! 出来る限り努力します!」


 そう答えて操縦席に座り直してからエンジンを再始動し、ヘッツァーを前進させました。今までの巡航速度から一気に速度が増し、車内の騒音も激しさを増していきます。私達はヘッドセットを装着しました。


 ≪……まだ、戦闘配置ではないからな、ハッチを開けて空気を取り込んで走って構わないぞ?≫


 ハンスさんに言われて、私は天井のハッチを開けました。


 サーッ、と冷たい風が車内を蹂躙し、蒸し暑かった車内が清冽な空気に入れ替わります。毒ガス対策で密閉性の高い戦車は、こうして時折車内の空気を循環させた方がいいそうです。


 ≪よし、また暫くの間は缶詰めだな。閉めてくれ≫


 ああ、涼しい風の皆さん、また会いましょう……。私は名残惜しいと思いながら、観音開きのハッチを閉ざしてレバーを回し、しっかりと閉鎖しました。


 ガチャン、とロックを掛けてハッチを閉ざすと、車内は赤い室内灯だけで照らされて色彩に乏しく、エンジンの騒音と側帯のガチャガチャと鳴り響く音に包まれて誰の声も聞こえません。ヘッドセットから言葉も伝わってこないまま、私達は目的地に向かってそのまま進みました。






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