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第1話・ある日の死

「はぁ」


 ある冬の寒い日。バイトからの帰り道。日も落ちて暗くなった道をトボトボと歩きながら俺こと日ノ出優ひのでまさるはため息をつく。

 今日も相変わらず冴えない1日だった。


(まあ、冴えた日など生まれてから20年1度もなかったけど……)


 俺は耳につけていたイヤホンを少し奥に押し込み、ポケットの中から音楽プレイヤーを取り出すと聞いていたアニソンの音量を上げた。

 流れてくるアニソンは夢や希望を高らかに熱く歌い上げる。嫌いな歌ではない。むしろ好きな歌だ。だけど聴こえてくる言葉が、夢も希望もない俺の胸にチクチクと刺さる。


 今の俺には将来何かになりたいとかこういう仕事がしたいというビジョンが全くない。

 ただいずれは出さなくていけないその結論を引き伸ばすために、なんとなく大学に進学して現在に至る。

 自分でいうのもなんだが、俺はスポーツができるわけでもないし、勉強ができるわけでもない。

 だからといってめちゃくちゃ出来が悪いかと言われれば、そうでもない。


 いたって普通。特徴がないのが特徴。陰キャでも陽キャでもない。いてもいなくてもどうでもいい奴。

 そんな俺は友達が多いわけでもなく、自然とひとりで完結するような趣味――アニメやゲームに手を出すようになった。

 その趣味にしても本物のオタクになりきれない有り様。


「……なにをやっても中途半端だな」


 自然とそんな言葉が口からもれた。

 きっとこんな俺がこの世からいなくなっても親くらいしか悲しまないだろうなぁ……とかなんとか思っていたら、目の前に見えていた横断歩道の信号が青から赤に変わった。

 俺は足を止めてぼーっと信号が青になるのを待つ。横断歩道の向こう側にはどこか疲れた様子のサラリーマンのおっさんがひとり、俺と同じように信号が変わるのを待っている。


 と、そのサラリーマンが突然驚いたように体をのけぞらした。

 そしてこちらに向かって何かを叫び出す。


(なんだあのおっさん? 酔っぱらってるのか?)


 俺は眉をしかめる。結構な音量でアニソンを聞いていた俺におっさんの声は届かない。


 (酔っぱらいに絡まれたくはないので無視だ。無視しよう)


 俺はそう決め込んでおっさんから顔をそむけた。

 だがおっさんはわざわざ俺の視界に入ってきてこちらに呼びかける。そしてついにはジェスチャーを交え始めた。

 おっさんは手を大きく振って右の方を必死に指さす。

 そのおっさんのあまりの必死さに俺もさすがにおかしいなと思い、おっさんの指さす方向に顔を向けた。

 するとまぶしい光が俺の視界を奪う。


「――ッ!?」


 一瞬何が起こったのかわからなかった。だが光に慣れた目がそれを見て、俺の脳みそは瞬時に理解した。

 車道を逸れたトラック。目の前に迫るトラックのヘッドライト。

 逃げろ――!

 そう思うが動かない体。このままじゃ俺は――。


「あ」


 死――――――

 ――――

 ――

 ―


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