第7話
試験を終えた後、俺は裏で少し待機していた。
……なんでもギルド長から話があるらしい。
まあ、その間にギルドカードの発行も行うそうなので、待つことに異論はなかった。
部屋で待っていると、ギルド長がやってきた。
年は40ほどだろうか。かなり鍛えられているようで、強そうな人だ。
「おまえがジョンか?」
「……ああ」
俺が答えると、ギルド長は不審げにこちらを見てきた。
彼の傍らには、俺の試験を担当した試験官もいた。
「今日街に来たんだよな?」
「ああ」
何か、こちらを観察するようだ。
まもなく、お菓子が運ばれてきた。
……おいしそうだ。食べてもいいのだろうか? 俺はそろそろーっと手を伸ばし、口に運ぶ。美味い!
「……確かに中々の実力者のようだな。冒険者には10歳からなれるが、これまでの間何をしていたんだ?」
「ずっと鍛錬を積んでいたんだ。俺の師匠がスキルをあげないと一人前にはなれないと言っていたからな」
「……なるほどな。でも、ステータスは低い……な。おかしい話だな」
「これでも成長はしているんだ」
俺だって初めはオール10程度しかなかった。だが今ではオール80程度はある。
これでも、かなりの成長だろう。
「……まあ、良いか。おまえは試練の迷宮攻略のためにここに来たんだな?」
試練の迷宮……人によって呼び方は様々だが、レベル10突破のための迷宮のことだな。
この街にしかその迷宮はないため、初心者冒険者が多く集まっているそうだ。
「ああ、そうだな」
……まあ始めは街に行って情報を集めようと考えていた。
レベルアップに必要なことの情報はあまり持っていなかったからな。
ギルド長は考えるように腕を組んだ後、立ち上がった。
「わかった。もう行っていいぞ。そろそろ、ギルドカードもできるだろうからな」
「わかった」
ギルドカード、か。
少しドキドキしていた。
これから、俺は冒険者として活動していくんだ。
……何度も夢想した世界が今ここにあるのだ。
いやいや、だからといって浮かれてはいけない。
俺はすぐに浮かれて調子に乗ってしまう癖があるとゲイルさんに注意を受けた。
慎重なくらいの行動をするべきだろう。
俺は胸元の魔石をぎゅっと握りしめてから、その部屋を出た。
受付へと向かう。
受付にいた職員が俺に気付くと、丁寧に頭を下げて来た。
「ジョンさん、こちらがギルドカードになります」
「……これか」
俺はギルドカードを受け取って、それをじっくりと見た。
表面に書かれているのは、名前、ジョブ、スキル、冒険者ランクだ。
ステータスなどは記載されていないし、ジョブ、スキルのレベルもない。
……まあ、これはステータスカードを提示したほうが早いだろう。
ギルドカードでは最新の情報にならないが、ステータスカードは常に最新の情報になるからな。
裏面には、クエストの達成状況がランクごとに分かれている。
今はもちろん、クエストを攻略していないのですべて0回達成、となっていた。
その隣には、失敗回数も書かれている。
……なるほどな。こうして記録に残るから、あまり自分に見合わない依頼は受けないほうが良いのか。
……ゲイルさんも言っていたな。ギルドカードの記録は一生のものになる、と。だから、失敗は0回で達成できるようにしたほうが良いという話だった。
だから、自分のランク通りに依頼を受けるべきだと。
「早速依頼を受けたいんだが、やり方を教えてもらってもいいか?」
「そうですね……あちらの掲示板で依頼を見つけて、紙を持ってきてくれればこちらで処理しますよ」
「なるほどな」
「依頼を受ける場合は一人よりもパーティーを組んだほうが良いかもしれませんね。試練の迷宮に潜る予定もあるんですよね?」
「……そうだな」
「……まあ、ジョンさんなら一人でもここで取り扱っているような依頼は達成できると思いますが」
何を言うんだこの人は。俺が一人で迷宮になんて潜れるわけがないだろう。
迷宮内には罠などもあると聞く。それらの対応はもちろん、迷宮の歩き方も満足には分かっていない。
そんな俺が一人で迷宮に挑むのは危険だろう。
……ギルド職員の言葉をうのみにしては危険だな。
俺はひとまず、掲示板のほうへと向かう。
……自分のランクに合わせた依頼を、と見てみるが、文字が読めないので受付に読んで貰った。
Fランクの依頼になると、あまり戦闘系の依頼はないようだ。
薬草の採取であったり、街中で行われるような依頼だ。
……なるほど。まずはこういったものをこなしていくのか。
悪くないな。街の人と交流を深めつつ、情報を集める。そして、できればパーティーメンバーも探していきたいところだな。
……まあ、何にせよ。まずは今日の宿、食事代を稼ぐ必要があるよな。
俺は薬草の運び屋という依頼を見つけた。
……これは街中でできるものだそうで、街で開かれているポーションショップに薬草を納品するという仕事のようだ。
力仕事になるため、力と体力に自信がある人向けのようだ。
どのくらいの力自慢を募集しているのかは分からないが、やってみる価値はあるだろう。
俺はその依頼書を持って、受付へと向かう。
と、受付は渋い顔をした。
……な、なんだ? その反応は? この依頼に何かあるのだろうか?
「どうしたんだ?」
「あー、いえ。その依頼主の子、男性嫌いのエルフでして……あんまりオススメできないのですが」
「……そうなのか?」
「とはいえ、力仕事ですので、中々女性に任せるというのも難しいんですよね。……まあ、一度受けてみますか?」
「ああ、分かった」
……女性、か。
俺はあまり女性が得意ではなかった。
女性との交流は幼馴染たちであるのだが、あいつらにはいつも虐められていたからな。
だから、女性には苦手意識があった。
とはいえ……生活費を稼ぐためには必要なことだった。
依頼の受領が完了したところで、俺は薬草を納品するために、ギルドの裏へと向かった。
「こちらになりますね。何度かにわけて運ぶのが――」
そこにあったのは、荷車に乗せられた薬草だった。
俺はさっそくそれを引っ張ってみた。軽いな。
……アイテムボックスにしまってもいいが、これだけの量だと入れるのもそうだが、取り出すのにも時間がかかりそうだな。
「え!? い、一度で持っていくんですか!?」
「ああ……駄目なのか?」
「い、いえいいんですけど……普通の人だと無理なので……やっぱり、凄いですね」
またお世辞、か。
こんなところで言う必要はないだろう。
俺はそれから渡された地図を確認し、出発し、迷子になった。