閑話:フィア・ティオナ・シャルロット
「げ、ゲイル! どういうことなのよ!」
声を荒らげたのは、フィアだった。
久しぶりに戻ってきたフィア、ティオナ、シャルロットたちを見たゲイルは小さく息を吐いた。
「ジョンはレベル100を目指すために旅に出たと言っている。前から言っていただろ?」
「そ、そうだけど! だ、だってジョンは弱いじゃん! 無理だよ!」
「弱い、とはいうがな……あいつも才能はある」
「ないよ! ジョンはだってテイマーで、正拳突きでしょ!? 不遇職に、無能スキルじゃない! そんな底辺で何ができるの!?」
ぽりぽりと、ゲイルは頭をかいた。
フィアは三人の中では一番子どもだった。ゲイルは彼女が納得できるような言葉を考えているとき、ティオナが口を開いた。
「ゲイル、どこに行ったのかわかるのか?」
ティオナは三人の中でもっとも発育が良く、一番賢かった。
自慢のサイドテールを揺らしていた彼女に、ゲイルは首を傾げた。
「まずはレベルを上げるんじゃないか?」
「それなら、南の方に行くんじゃない!? あそこなら、弱くて経験値の多い魔物が多いし!」
フィアが慌てた様子でそう声をあげる。
それに反応したのは、これまで口を閉ざしていた少女シャルロットだ。
今にも眠りにつきそうな表情で、じっとフィアを見ている。
「……いや、西の方かもしれない。南は暑くて生活しにくいし」
「いや……恐らくは東の街だな」
三人の意見は見事に食い違った。
それに対してゲイルが口を挟んだ。
「まあ、どこでもいいが……これまでのような態度をとっていたら、再会しても拒絶されるぞ?」
「これまでって何? なんかあたしたちやった?」
フィアがきっと声を荒らげる。
「いつも言っているだろう。あんな馬鹿にするような態度で接していたら」
「だ、だって……っ、好きな気持ち、その……知られたら……恥ずかしいし」
フィアが顔を真っ赤にしてそういうと、ティオナとシャルロットも顔を赤くしていく。
「……私は別に好きじゃないぞ」
「わ、私も……そういうのじゃない」
顔を見れば明らかだった。
その言葉を一度でも口にできていれば、ジョンが彼女らに抱いていた苦手意識もなくなっていただろう。
「おまえたち。……まったく、もう少し素直になれないのか」
「う、うるさいバーカ!」
フィアが声を荒らげ、ゲイルは小さく息を吐いた。
「それで? おまえたちはこれからどうするつもりだ?」
「そ、そんなの当然よ! 南の方に行ってジョンを探すわ! テイマーで正拳突きなら、すぐに見つかるはずよ!」
しかし、それに反応したのはティオナとシャルロットだ。
「ちょっと待て。なぜ南だ? 私の勘が正しければ、東に決まっている」
「いやいや、二人とも違う。西の街に違いない」
三人の喧嘩が始まった。
三つ子の彼女たちはわりと仲が良いほうだが、それぞれ譲れないものを胸に秘めている。
そのため、一度喧嘩を始めるとこのようになるのだ。
「あんたたち! 私の勘は当たるのよ!」
「そういって当たった試しがない」
シャルロットがじっと睨む。
と、腕を組んで考えていたティオナが提案した。
「それなら、全員で別々に行動しないか?」
「どういうこと……?」
フィアが驚いたような様子でティオナを見た。
それから、ティオナがどこか勝ち誇ったように腕を組んだ。
「どうせ、誰か一人しか選ばれないんだ。それなら、一緒に行動するのではなく初めに見つけた人がジョンを自由にできる、としたほうが分かりやすいだろう?」
「……そもそも、今のおまえたち三人が選ばれるとは思えないが」
ぼそりとゲイルが口を挟んだが、三人には聞こえていない。
「……なるほど」
にやり、とフィアが笑った。
「あんた、勝ち目あると思っているの? 私、滅茶苦茶可愛くていつも冒険者たちに色々もらっているの、知っているわよね?」
「……そうか。それなら、その冒険者たちと仲良くやっていればいいじゃないか。私はジョンと結婚できればそれでいい」
「ふんっ、大勢に好かれないのに、一人に好かれようなんて無理じゃない?」
「何を言うか。私にはこれがある。おまえにはないものがな」
そういってティオナが胸を強調するように腕を組んだ。
圧倒された様子でのけぞるフィア。
「そういえば、冒険者たちも話していたな。『フィアは胸がないのだけが欠点だ』とな」
「……う、うっさいわね!」
「ふふ、ジョンも男だ。この胸で虜にしてみせるさ」
そこにシャルロットが割り込んだ。
「……二人には、負けない」
シャルロットの方を見て、フィアとティオナが嘲笑した。
「私はあんたをライバルとは思っていないわよ。ロリっ子に何ができるのよ!」
「そうだそうだ! 胸は正義だぞ胸は!」
「うっさいわよ!」
しかし、シャルロットはにやりと口元を緩めた。
「知っている? この世には特殊性癖というものがある」
「……なに?」
ぴくり、とティオナが反応した。
「ジョンもきっとそう」
「なぜ言い切れる!」
「だって、私を見る目がいやらしかった気がした」
シャルロットがそういって、勝ちほこったように胸を張る。
「ジョンはいつも言っていたぞ、三人が怖いと」
ゲイルが言葉を挟むが、それも無視される。
三人は向かい合って、睨みあう。
「これまで、一緒に生活してきたけど……今日からは敵同士よ!」
「……そうだな。誰がジョンに選ばれても文句は言うなよ?」
「ふんっ、私たち三つ子よ? 最悪入れ替わってやるわ」
フィアは負けた時の対策もすでに考えていた。
「胸がないのにどう入れ替わる?」
再びアピールするようにティオナが腕を組んだ。
それに一瞬怯んだフィアだったが、すぐさま勝気に笑う。
「そんなもの、詰めればいいのよ!」
「私には入れ替われない」
シャルロットは二人と違い胸も背もなかった。
「常に中腰で歩いてやるわ!」
それでも、フィアは負けた時の対策を口にした。
そういう問題ではないが、あきれたゲイルがそれを指摘することはなかった。
三人は改めて睨み合った後、ゲイルの家を飛び出した。
皆はもちろん知らない。
ジョンが向かったのは北だ。