第5話
街についたのは、それから二時間程度が経ってからだった。
商人とはそこで別れたが、冒険者たちとは、ギルドまでは同行することになっていた。
そこはアリーストと呼ばれる街だ。別名レベル10突破の街とも呼ばれている。
「このアリーストでは、レベル10の壁を超えるための迷宮があるんです。今回、オレたちはそれの様子を見ようかなと思っていたんです」
「挑戦しにきたんじゃないのか?」
「さ、さすがに無理ですよ……っ! まあ、ジョンさんと一緒なら、試験前の階層まではクリアできそうですけど」
……またこいつはそうやって人をおだててくるな。
彼らは悪い子たちではないのだが、こうしてことあるごとに俺を褒めるのだ。
……何か裏で考えているに違いない。
そんな態度とともに俺は彼らと接していく。
「つまり、この街の迷宮をクリアすることでレベル10の限界をレベル20まで引き上げられるんだな?」
「そうですね。ただ、挑戦するにはレベル10まで上げる必要がありますからね。オレたちはここでレベルあげでもして、様子を見ようかな……と思っています」
……なるほどな。ゲイルさんはそのあたりのことはあまり教えてくれなかった。
言わなかったのは、俺をスキル上げに集中させたかったからだと思う。
俺は彼らとともに冒険者ギルドへと来ていた。
冒険者ギルドに到着したところで、ここまで案内してくれた冒険者たちとは別れた。
「ブラッドウルフの素材、ありがとうございました!」
「……いやいいんだ」
途中倒したブラッドウルフの素材は半分ずつにわけた。
……向こうは三人、こちらは一人なのでもうちょっと分配しても良かったのだが、向こうが全部くれたのだ。
そこそこの値段になるという商人の言葉を頂いたので、今日の宿代くらいは困らないだろう。
そんな気持ちとともに、俺はギルドの受付へと向かった。
「すまない、冒険者登録を行いたいんだが……」
「はい、わかりました。それではこちらの用紙に必要事項を記入してください」
「文字の読み書きは……そのほとんどできないんだが」
「そうですか。それでは代筆をしますね。ステータスカードの提示をお願いします」
「ああ、わかった」
俺は受付嬢に言われるままにステータスカードを提示した。
ふむふむ、と受付嬢は見ていたのだが、そこで目を止めた。
「ステータスはレベル1の中ではそれなり……でも、ジョブはて、テイマー……それに正拳突き……って、正拳突きレベル80!?」
レベルだけは異常に高いからな。
受付嬢もさすがにそこだけは驚いていたようだったが、毎日十二時間程度、十三年くらい使っていればあがる程度だ。
「ああ……ずっとそればかり使っていてな」
「そ、そうなんですね……かなりスキルの強化はしているようですが、このジョブとスキルでは……まともな冒険者生活を送るのは厳しいかもしれませんよ? それでも、冒険者になるんですか?」
「……ああ、夢なんだ」
「……わかりました。ただ、登録前に試験を受けてもらう必要があります。その試験を受けるには10000ペリア必要になります……大丈夫ですか?」
ぺリア……たぶん、お金なんだろう。
村ではお金を使う機会はなかったからな。いまいちどれほど高額なのか分からなかった。
「10000ペリア……。すまない金を持っていないんだが、素材の買い取りなどは行ってくれるのか?」
「え、ええ構いませんが……正直言って、10000ペリアを稼げるような素材なんて、どこにも持っていないようですし」
「アイテムボックスを持っているからな」
俺は腰に下げていた小さな箱に手をあて、内部からブラッドウルフの素材を取り出した。
「え!? ぶ、ブラッドウルフ!? それに、滅茶苦茶綺麗に解体されていますね!?」
「……そ、そうか?」
……解体に関してはゲイルさんに教えてもらったので、たぶん失敗はしていない。
いつも、へたくそだと散々に言われてきたので、上手でもないと思うがな。
……そう、いつもゲイルさんは下手だと言っていた。
だから、こんな風に褒められるはずがないのだ。
……まさか、ギルド職員まで、こちらを油断させようとしてくるとは。
ゲイルさんが言っていたのは本当だな。人は、他者を貶めようとありとあらゆる手段を使うと。
……気を付けないとな。
「こ、これだけの素材があればおおよそ12000ペリアになると思いますので、大丈夫だと思いますが……これは自分で討伐されたのですか?」
「……まあ、そうだな」
俺が答えると、職員は信じられないといった様子でこちらを見てきた。
とりあえず、試験は受けられそうだな。
「……わかりました。とりあえず、冒険者試験をこれからすぐに受けてもらいます。準備はよろしいですか?」
「ああ」
「それでは、右手奥に進みください。中庭に出ますので、そちらでギルド職員と戦ってもらいます」
「分かった」
……ギルド職員と戦う、か。
ここで勝たないと、試験は不合格、か。
そして、支払ったお金もギルドに回収される……と。
全力を出して戦う必要がある、ということだな。
もしかしたらギルドは、わざと俺が勝てないような相手を用意し、試験料を奪い取るという商売をしているのかもしれない。
……さすがに、これからもう一度10000ペリアを稼ぐのは大変だろう。
都合よく、ブラッドウルフがいてくれるとは限らないからな。
落ちないように、頑張らないとな。
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