第4話
……凄い、か。
ゲイルさんの言っていた通りだな。
『冒険者というのはすぐに人を凄い、という。話半分で聞いておいたほうがいいだろう』
……確かにそうだな。これは誉め言葉ではなく、挨拶、語尾のようなものなんだろうな。
それか、冒険者の油断を誘うというものなのかもしれない。
冒険者やギルド職員はすぐに凄い、という言葉を使うようだ。
それに調子良くして、怪我を、あるいは命を落とす冒険者も少なくないようだ。
恐ろしいな……外の世界。
常に相手の言葉の裏を考える必要があるのか。
馬車に乗っていた小さな男性がこちらへとやってきた。
……ドワーフ、だろうか?
「ああ、ありがとう。キミのおかげで助かったよ」
「いや、大したことはしていない」
「……まさか、この辺りであのウルフに襲われるとはね」
「あのウルフ?」
「ああ。奴らはブラッドウルフというのさ。レベル10以上はないと倒すのは難しいといわれている魔物でね……ここにいる冒険者たちはレベル10以下の冒険者だから……まあ苦戦してね」
……ブラッドウルフ? 俺は魔物の種類には詳しくないのではっきりとは言えないが……ただのウルフのように見えたな。
色々魔物というのはいるんだな。
「そうか……なるほどな」
「……それでなんですが、街まで一緒に同行してもらえませんか? もちろん、報酬は支払います。またブラッドウルフに襲われても敵いませんので……」
商人がそう言ってきた。
俺はそれに首を傾げて返す。
「いや、俺はまだ冒険者でさえないんだ。そういうやり取りはできるのか?」
「え、ええできますが……冒険者じゃないのですか? それでは、まだ祝福の試練も受けていないのですか?」
「……ああ。それに魔物と戦ったのはこれが初めてだからな……まだレベル1だな」
「レベル1!? そ、それであの強さなのですか!?」
商人が驚いたように声をあげる。
……レベルが低すぎるからな。俺の目標はレベル100だ。
まだまだ、気が遠くなるほどのものがある。
「す、凄いのですね……」
「そうでもないさ」
「そうでもありますよ……。あれほど強いレベル1の方なんてそうはいませんから。……そんな方に恐縮なのですが……街まで、護衛のほうお願いできませんか?」
俺なんかで良いのだろうか? ……まあ、頼んでくるのなら引き受けてみようか。
「……ああ、俺でよければ」
「ありがとうございます! ささ、乗ってください!」
そういって商人が俺の腰のあたりを押してくる。
冒険者たちもきらきらとした目でこちらを見てくる。
なぜこれほどに歓迎されている? ……ちょっと、怖いな。
荷台に乗ったところで、彼らがちらとこちらを見て来た。
「えーと、ジョンさん。ジョンさんって今まで何をしていたんですか?」
先ほど自己紹介をしたのだが、俺は彼らの名前をあまり覚えていなかった。
……彼らがいつ俺に牙をむくか。その警戒に忙しかったからだ。
今まで何をしていた、か。
「スキルを、鍛えていたな」
「……スキルをですか? でも、冒険者じゃなかったんですね」
「まあな。俺の師匠が、冒険者になってレベルを鍛えるのはいつでもできる、まずは基礎基本を鍛えることが大切だと言っていたんだ」
「……なるほど。立派な方なんですね」
「……ああ」
ゲイルさんは、こんな俺を戦えるくらいまで育ててくれたのだ。
俺が生きる道を見失い、後悔ばかりの日々を送っていた時に真っ先に道しるべを与えてくれた。
……ハッ!
ゲイルさんから聞かされていたのだ。
『直接褒めるのではなく、間接的に他者を褒めることでこちらの油断を誘うこともある。気をつけろ』、と。
こ、これはまさにそれだ。
俺の信頼している人を褒めるということで、彼は俺との距離をつめ何かを狙っているのだ。
そう思うと、彼らの尊敬するようなまなざしも演技に見えてきた。
……師匠、ありがとう。俺は油断せずに、生きていけそうだ……。
俺が心中で感謝していると、冒険者が問いかけてきた。
「ステータスってどのくらいなんですか? スキルを鍛えていたんですよね?」
「……スキルは高いが、基本ステータスは低いぞ?」
「そ、そうなんですか……? 見せてもらってもいいですか? 参考にしたいので! オレも見せますから!」
……確かに、ちょっと気になる。
彼らは、レベル10以下の冒険者だ。
……俺が長く鍛錬を積んだ成果が、どれほどになっているのか。それが知りたかった。
冒険者のリーダーにステータスカードを見せてもらった。
……なるほど、オール50くらいか。
彼のレベルは6だった。
なるほど、レベル6の冒険者はこのくらいのステータスなんだな。
「……じょ、ジョンさんって80くらいのステータスなんですね……」
「ああ、そうだな」
「にしては、かなり強いと思ったんですけど……でも、ジョブもスキルもそこまで有名なものではないし……」
他の冒険者たちも驚いたように声をあげる。
「むしろ、ジョブもスキルもハズレの中のハズレっていうか……あっ、ご、ごめんなさい」
「いやいいんだ。それは知っているから」
……やはり、俺のスキルとジョブはダメなんだな。
弱いのは分かっていたが、こうはっきり言われると堪えるな。
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