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第32話


 私たち、『紅蓮の翼』はギルドから緊急での呼び出しを受けていた。

 ……一体なんだろうか?


「……何か事件で動きがあったとか?」

「えー、でもあの感じだしたぶん緊急依頼じゃない?」


 アクフィアとヒレン……どちらの可能性も十分にあった。

 私たちがギルドに入ると、ギルドは異常な空気に包まれていた。


 冒険者たちは怯えるようにしていた。

 それをたどっていくように視線を受付へと向ける。

 そこでは、人一倍震えていた三人組の男冒険者たちがいた。


「あっ! 『紅蓮の翼』のみなさん! 緊急依頼です!」

「……どうしたんですか?」


 私が声をかけると、三人の男たちが狂ったように声をあげた。

 ……皆、錯乱しているように自分たちの身に起きた危機についてを語っていた。

 ……いまいち、要領を得ないものであり、受付がまとめるように言った。


「……森にて、ワールドゴブリンが出現しました」

「……わ、ワールドゴブリン!?」


 なんでそんな魔物が!?

 ワールドゴブリンと聞き、さすがにアクフィアの表情も引きつっていた。

 ヒレンはいつものようにニコニコと微笑んでいるけど……。


「は、はい……。こちらの冒険者たちが見たそうです。鋭い角を持ち、黒い肌を持ったゴブリンです。……その数は、三体で……森にいた冒険者たちをなぶるようにいじめていたそうです」

「……な、なんでワールドゴブリンが……それに三体も!?」

「はい……」


 冒険者たちもこくこくと頷いている。

 ……ワールドゴブリンといえば、討伐難易度BからA級の超凶悪な魔物だ。

 この街のようにレベルの低い地域では一体だけでも被害甚大であるのに……それが三体もなんて!


 もしも、この街に来たとなれば……最悪、街が崩壊するほどだ。

 ぞくり、とした。そして、ここに私たちが呼ばれた理由もわかった。


「……その、討伐依頼、ですか?」

「……はい。ただ、三人だけでは厳しいと思います。……だから、領主のもとから二名派遣されてきました」


 受付がそう言ったときだった。階段から二人の女性が下りてきた。

 一人は騎士の甲冑に身を包んだ女性だ。もう一人も、急所を守るような鎧に身を包んでいる。

 私は、彼女らを一度……領主邸で見たことがあった。

 にこりと、少女が微笑んだ。


「改めまして……カナリア・アリーストです。レベルは40程度ですので、皆さまほどではありませんが……微力ながら力をお貸ししますね」

「……私はアリラだ。レベルは51。キミたちに並ぶ程度には戦えるつもりだ」


 ……まさか、領主の娘さんが出てくるとは思っていなかった。

 ……いや、それほどの事態なんだ。

 すっと私たちは頭を下げ、それから受付を見る。


「それでは……これで全員ですか?」


 もっと戦力は欲しいところだった。

 だが……受付はこくりと頷いた。


「……はい。お願いします」


 受付の言葉に不安を感じながら、私が振り返ったときだった。

 ヒレンが腕を組み、近くのテーブルへと飛び乗った。

 バランスを整えるようにしてから、彼女はびしっと片手を冒険者たちへと向けた。


「それじゃあ! あたしたちがばしっと倒してくるからね! みんなはいつものように過ごしていれば大丈夫だから!」


 ……こんな時でもヒレンは能天気だった。

 だが、そのおかげもあって、ギルド内の空気は随分と変わっていた。

 ……凄いな、ヒレンは。

 怖くないんだろうか。

 でも、おかげで……。私はアクフィアと視線をかわし、笑みを浮かべた。



 〇




 街を出てから森へと向かっていく。

 その道中、私はびくびくとしていた。


「貴族の女の子ってカナリアみたいにみんなそんなに強いの?」


 ……魔物に、ではなくヒレンにだ。

 ヒレン……っ! もう、なんでそんな貴族相手にも物怖じせず質問できるの!

 いつ無礼をしないかと私はハラハラドキドキだった。


「そんなことはありませんね。ただ、こちらの騎士アリラと幼少の頃から剣の打ち合いをしていましたからね」

「そうなんだ。確か、強い人と訓練すると成長が良いっていうもんね!」

「そうですね。それで、わたくしは貴族ですから……まあ、レベルアップの迷宮に挑む試練費だったり、旅行費だったりは親がだしてくれましたから」

「いいなぁ、試練費高い場所あるもんね!」

「……そうですね」


 そんな風にヒレンたちが話している。

 もう、ヒレンったら……。不安を感じながら私たちが森へと向かっていると、こちらに魔物が向かってきていた。

 森から逃げるように出てきた魔物が多い。


 ……まずは、これらを討伐しないと先に進めなさそうだ。

 私たちは連携の確認がてら、魔物たちを仕留めていく。

 ……さすがに、このくらいの魔物には苦戦しない。問題はワールドゴブリンだけだ。


 魔物を倒したあと、森の探索を始める。

 しばらく歩いた時だった。

 アクフィアとアリラさんがぴくりと足を止めた。


「……皆さま、気を付けてください。何か聞こえます」


 ……アリラさんの言葉に耳を澄ませる。

 それは……鳴き声だろうか?

 私たちは顔を見合わせ、音がする方へと向かう。


 ……ゴブリンの合唱か何かだろうか? そう思えるような声が響いた場所へと向かうと……そこは広場のようになっていた。

 まるで、何かと何かが戦った後かのような場所だった。

 木々はなぎ倒され、地面はえぐられ……その中で一体のゴブリンがいた。


 私は思わず息をのんだ。声をあげそうになったが、それをヒレンが押さえてくれた。


「静かにしないとね。気づかれちゃう、気づかれちゃう」


 ヒレンがにこりと微笑む。

 そのゴブリンは……間違いない! ワールドゴブリンだ!


「ご、ゴアア!!」


 二体の黒いゴブリンの亡骸の前で声をあげる一体のゴブリンを見つけたのだ。

 ……二体が、死んでいる!?


「……仲間割れ? なのに、泣いている?」

「もしかして、お兄様……?」

「……かもしれませんね。森のほうに来ていると受付は話していましたし」

「……とにかく、一体なら何とかなりますね」


 ほっとしたようにカナリアさんとアリラさんが息を吐いていた。

 ……確かにそうだ。

 ワールドゴブリンが一体ならば、この五人で十分に倒せる相手だ。


 それにしてもお兄様? ……カナリアさんのお兄さんはそんなに強いのだろうか?

 気になったけど……さすがに領主の娘さんに質問できるほどの余裕はなかった。


「それじゃあ、やろっか」


 ヒレンがにこりと微笑み、腰に差した剣を抜いた。

 アクフィアとアリラさんも一度頷いてから……ワールドゴブリンへと向かった。



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