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第30話 『紅蓮の翼』



 夜。孤児院に泊めさせてもらっていた私たち『紅蓮の翼』は、作戦会議の真っただ中にいた。

 眠そうに目をこすっているヒレンは、大きなあくびをかいた。

 アクフィアと私は、今日一日の調査を行いながら、分かっていたことをまとめていた。


 ……そして、私たちの結論はあるところに行きついた。


「……敵の目的が分からない」


 アクフィアが嘆息をつくようにいった。……そうなんですよね。

 敵の目的が依然としてわからないでいた。

 犯人を捜す場合、目的から逆算して追いかけるほうがわかりやすいこともある。

 

 今回で言えば、敵がどうして遺骨を盗み出したのか。

 私たちは敵を探しながら、そこをずっと考えていた。

 

 遺骨には、魔法使い的視点で見れば恐ろしいほどの価値がある。

 あの遺骨を媒体にすれば、様々な魔法を使用可能だ。

 ……その一つが、スケルトン化だ。

 スケルトンという状態ではあるが、あのようにして復活させることができる。


 その戦闘能力の高さは言わずもがなだ。

 ただ、あれをどうしてこの街内で使ったのか……。

 そこがまずわからない第一点だった。


「……敵が、私たちに感づかれたと思って消すために送ってきたと思う?」


 アクフィアの疑問に、私は改めて考える。

 確かに私たちは遺骨を盗んだ犯人を追っている。けど、まだはっきりいって情報は何も得られていないに等しかった。

 

「犯人が私たちを消すほどの価値はまだあの時点ではなかったと思います。……それに、今回はたまたま助太刀も撃退に成功しました、私たち三人が撃退に成功する可能性もゼロではなかったはずです。わざわざそんな無茶を冒してまで、私たちに仕掛けるのは少し不自然だと思います」

「……それは、私も思っていた。……そもそも、敵はなぜまだ街にいる?」

「……それも分かりませんね。盗み出した犯人が、街に留まっても危険が増えるだけだと思いますし」


 敵のわからない目的二つ目は、なぜ街にいるのかだった。

 街でまだ何かやることがあるのかもしれない。……けど、だからって遺骨をもったままではいつ見つかるかもわからないはず。

 なのに、どうして残っているのだろうか。


「街でまだやることがあるのよきっと!」


 ヒレンの発言に、私たちも頷く。

 ……それはそうかもしれないが、アクフィアはヒレンをじっと見た。


「まだやることって何? 遺骨を持ったままでは常に危険がある。結構な量みたいだし、抱えて移動するのは無理。協力者が必要だけど、協力者がいればそれだけ情報が洩れるリスクがある。……そこまでのリスクを冒してまで街にとどまってやることってなに?」

「盗んだ遺骨で何かをしたいんじゃない!? ていうか、あたしもう眠いから寝てもいいかな!?」

「盗んだ遺骨で……」


 ヒレンの発言に私とアクフィアは顔を見合わせる。

 盗んだ遺骨でやりたいことってなんだろう? この前みたいにスケルトンを生みだすとかだろうか?


「スケルトンを生み出して、誰かを襲うってこと……?」


 アクフィアも同じことを考えていたようだ。


「かも、しれません。仮にそうだとすれば、私たちが襲われたのはあくまで実験体として見られていたのかもしれません」

「……Aランク冒険者相手にどこまで通じるかってこと? 確かに、それなら、私たちを襲った理由が不明瞭でもわからないでもない」


 仮にこちらの情報がもれていた場合、敵が警戒して実験のついでに襲ってきた、という可能性もある。

 ……そうなると、私たちは良い実験体にされたということで、さすがにちょっとむすっときてしまう。

 アクフィアも表情が険しくなっていく。


「とにかくアリーストは今、色々と問題を重ねている。街では突然禁止薬物があちこちで発見されだしたし」

「……そう、みたいですね」


 騎士団はまだ公表していないが、段々と街の人たちも異変に気付きだしていた。

 だが、確実に事態は深刻化している。

 発表されるのも時間の問題だろう。


「盗まれた遺骨は……残り4つ」

「それに……最近街で行方不明になっている人がいるそうです。もしも、それらの骨も利用しようとしていたら……」

「スケルトンはもっとたくさん現れる、かもしれない」


 ……そうなれば、大変だ。

 ヒレンがはっとしたような顔で声をあげた。


「そうよね! というか、禁止薬物で騎士団の人たち大騒ぎしているんだよね!? 町の治安とか守れるのかな!?」


 ヒレンの言葉に私たちも、敵の考えに気づいてしまった。


「禁止薬物を流している者と、遺骨を盗み出した者はやはり同一人物……?」

「可能性は、ゼロではありません。騎士団の戦力を分散させ、どこかしらでスケルトンを復活させ、その力を目的遂行のために使う。可能性がないとも限りません」

「……とにかく、敵は何かしらの目的があってこの街に損害を与えようとしている?」


 アクフィアの言葉に私は強く頷いた。


「騎士団の戦力を分割していれば、どこも襲いやすいと思います。今回の騒動はあくまで陽動で、例えばどこかに魔法爆弾を設置し、あとで大爆発を起こすとかもできるかもしれません……」


 街が混乱している状況ならば、それこそなんだってできてしまう。


「……急いで、敵のアジトを見つけないと。これだけ街で動いているのなら、街の中、あるいは近辺で過ごしているはず」

「です、ね」

 

 ある程度の方向性が見えてきたところで、ヒレンが声をあげた。


「方針決まったの!? それじゃああたし寝るわね! おやすみなさい!」

「……おやすみ」

「おやすみなさいです」

 

 私とアクフィアはヒレンのいつもの調子に苦笑する。

 ヒレンはいつもと何も変わらない。

 ……わりと深刻な状況だけど、それでもいつもどおりの能天気だ。


 すやすやと心地よさそうにソファで眠り始めた彼女に、私達は笑みを浮かべた。


「正直言って、ここまで気楽なのは驚き」

「そうですね。……ただ、安心はできますよ。いつもどおりでいいんだって思えますから。……アクフィアもそうですよね?」

「まあ、うん。……私も孤児院の子が被害にあったから少し苛立っていたけど……とにかく、敵が同一人物かもしれないってことだし、明日から、情報を集めよう」

「はい、そうですね」


 アクフィアは禁止薬物の件と遺骨の件で悩んでいる様子だった。

 そこが関係しているかもしれないということがわかっただけ、余裕が出てきたようだ。

 っとと、もう一つ聞き忘れたことがあった。


「そういえば、例の剣で戦う強い男については何か分かりましたか?」


 今日は私とヒレンで見て回り、アクフィアには一人で捜索をしてもらっていた。

 アクフィアは首を大きく左右に振った。


「わからない……一体どこにいるのか」

「本当はあのときの状況についてギルドから発表してもらえればいいんですけど……私達が負けた汚名はありますし、スケルトンの情報も秘密にしなければなりませんからね……」


 結果、剣で戦う男に関しての情報がまったく入ってこなかった。

 リストアップしてもらった冒険者はすべてハズレだった。


「とにかく、今はそっちについてはついで、くらいにしよう。……この街に何かあったら困る」

「そうですね……」


 アクフィアには育った孤児院がある。

 彼女の街を守りたいと思う気持ちはいたいほど伝わってくる。

 私も、出来る範囲で力になりたい。そう思った。

 

短編たちです。良かったら読んでくれると嬉しいです。


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