第29話
ギルドを出た俺たちは、リーシャの家を目指して歩いていく。
「夕食はどうする? どこかで食べていってもいいわよ」
リーシャは騎士団にも行っていたと話していたので、夕食の準備はしていないのだろう。
「……そうだな。近くに安い店でもあれば、そこで食べていこうか」
「決まりね。冒険者通りに色々店もあるわ。どこか適当に入りましょう」
微笑んだリーシャに俺は頷く。
冒険者通りを歩いていると、やたらと注目を集めた。
その視線の先は主にリーシャだ。彼女の美しさは、やはり冒険者たちの間では有名で、横をすぎる人がみな目線で追いかけてくる。
そこまで注目されるというのは、中々大変だろうな。
リーシャは俺の隣に並び、小さな声で言ってきた。
「ごめんなさい。変な視線がたくさんあって。……変装でもしたほうが良かったかしらね?」
リーシャは前髪を弄りながら、困ったように微笑む。
「別に、自由にしていればいいんじゃないか? 悪いことはしていないんだし」
「……そう、かしら?」
リーシャは頬をわずかに染めて、頷いた。
そのときだった。俺たちの横を過ぎた冒険者が、こちらを見ながらほうけたような声で言った。
「り、リーシャさんの彼氏なのか……?」
「嘘だ……あの人、彼氏いたなんて……」
それはほとんど独り言のようなものだったのかもしれない。
だが、俺たちの耳にはっきりと届き、リーシャは美しいそのエルフの耳の先までを真っ赤に染めた。
俺はちらとその冒険者を見たが、彼らは目を合わせると去っていってしまった。
一言言ったほうが良かったかもしれない。俺たちにそんな関係はないのだが。
リーシャと俺が付き合っているとか、そんなことあるわけないだろう。
リーシャに失礼だ。
「さ、さっきの冒険者の声、聞こえた……?」
絞り出すようにリーシャが口を開いた。途中周囲の雑音でかき消されてしまうほどに小さな声だったが、なんとなく聞きとれた。
「ああ、悪いな。迷惑をかけてしまって」
「め、めめめ迷惑なんてないわっ。それより……そのあなたに……迷惑じゃないかしら?」
「俺が?」
「……そ、そうよ。ほら、その……えーと……か、彼女とか……いたら、その悪いし……」
「あいにく、そういうものとは無縁でな。別に迷惑はまったく感じていないな」
俺がそういうと、リーシャはさらに顔を真っ赤にした。
「え? そ、そうなの……か、彼女とか……、ジョンはいない……の?」
「ああ、いないな」
俺に親しい異性といえば、幼馴染三人くらいしかいなかったからな。
リーシャはどこか嬉しそうに微笑み、ガッツポーズをしている。
どういうことだ?
良く分からないが、リーシャが喜んでいるので良しとしよか。
すたすたとリーシャが歩いていき、近くの店へと入っていく。
俺もその後を追った。
店に入ると、まず店員が驚いたようにリーシャを見た。それから俺とリーシャを見て、絶望したような顔になる。
また勘違いされてしまったのかもしれない。リーシャが何も言わないのなら、俺も別に黙っていればいいだろう。
席についた俺たちはすぐに料理をいくつか注文する。
ようやく落ち着けたところで、俺はギルドでの話を思い出した。
「そういえば、ギルドにいた人たちには一緒に暮らしていること隠したんだな」
「え、ええそうね……」
俺が質問すると、リーシャは顔を真っ赤にしてこくりと頷いた。
「……そ、その……あんまり言いたくないというか。な、なんだか……恥ずかしいし」
……なるほどな。
俺は女性ではないのでいまいち分からないが、男性を家に泊めるという行為は恥ずかしいものなのかもしれない。
わざわざリーシャに嫌な思いをさせたくはないので、俺も黙っていようと思った。
「まあ、わかった。そういうことなら、協力する」
「……少し、気になっていたのだけど聞いてもいいかしら?」
リーシャは運ばれてきた飲み物に口をつけながら、こちらを見てきた。
「じょ、ジョンは……その。異性に興味を持ったことって……ある?」
「……そうだな」
少し考えてみる。異性、異性……か。
あまり、男女というもので考えたことはないな。
だが、友人としてみれば……悪くはないと思う。
それに、例えばレベル100を目指そうとしているのが異性なら、興味はあるということになるな。
ぜひとも仲間に誘いたいからな。
「興味は人並みにはあると思うな」
「そ、そうなのね……っ!」
かぁ、とリーシャは顔を真っ赤にする。
とりあえず、返答としては間違いではないだろう。
それから、運ばれてきた料理を俺たちは口にしていった。
○
夕食を終えたあと、リーシャの家に戻った。
それから、今後の方針について話していた。
「ジョン、今レベルはどうなの?」
「とりあえずは2だな」
「……2、ね。でも明日は一日自由なのよね?」
「ああ。だから、明日滅茶苦茶レベル上げをしようと思っていたんだ」
「なるほどね。それなら、森の中に入って魔物狩りをしたほうがいいかもしれないわね」
「……そうか。大丈夫だろうか?」
「ジョンくらい強ければ問題ないわよ」
リーシャのお墨付きを頂いた。……俺個人としては少し不安が残るが、今は先輩冒険者を信じようか。
「わかった。それじゃあ、俺は軽く鍛錬を積んでから、寝ようと思う」
「……ええ、わかったわ。頑張ってね」
「ああ、おやすみ」
「……うん、おやすみ」
リーシャは嬉しそうに微笑み、俺は外に出た。
それから、拳を振りぬいていく。
……まだ寝るまであと三時間くらいはある。
明日は森にいって魔物狩りだ。
今のうちに明日の戦いを脳内で想像しておかないとな。
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